ペルーの新大統領選挙がカスティジ氏に決まるも、クーデター未遂が発覚

ペルーの大統領選挙でカスティジ氏が勝利が決まったが、仮にそうなった時は退役軍人の間でクーデターを起こすことが打診されていたという。

PERÚ, GOLPE DE ESTADO SE PIDE POR LOS MILITARES RETIRADOS.  21-07-2021.より

南米ペルーで6月6日に行われた大統領選挙の結果について全国選挙審議会が7月19日、カスティジョ氏(51)の当選を決定した。

クーデターを促す書簡

選挙結果が拮抗していたことを受けて同審議会が審査を行っていた時の6月16日、退役軍人の一部グループが軍部の統括司令官並びに陸・海・空のそれぞれ司令官宛に、『仮にカスティジョ氏が大統領になるような事態になればクーデターを遂行すべきだ』という書簡を送っていたことが明らかにされた、という出来事は日本では報道されていない。

この書簡というのは数百名のペルーの退役軍人によって署名されたもので、その中で、『フジモリ氏の訴えが選挙委員会によって認められない場合はカスティジョ氏の勝利は容認されるべきものではない。不正によって非合法的に就任することになる国家元首を軍部は受け入れるべきではない』と指摘したのである。更にその書簡では、『この簒奪の前に軍人は憲法46条を適用して権力を掌握すべきだ』としている。(アルゼンチン電子紙「ラ・ポィティカ・オンライン」(6月17日付)から引用)。

https://www.lapoliticaonline.com.mx/nota/136919-militares-retirados-tratan-de-usurpador-a-castillo-y-piden-intervencion-de-las-fuerzas-armadas/

この動きに対して、サガスティ暫定大統領は「我々は波乱万丈の200年をかけて民主制度を築き上げたのだ。その為の多くの時間と努力を危険に晒すべきではない」と述べ、「私は軍隊並びに警察の最高司令官として中立な立場を堅持し、それを尊重する。数日後には我が国の独立200周年を迎えることになる。この厳しい状況の前に、市民は平穏を保ち冷静であることを要求する」と述べたのである。

サガスティ氏によると、同書簡に列記された軍人の名前にはすでに死亡している者もいることを指摘した。(以上、メキシコ電子紙「プルソ」(6月18日付)から引用)。

El presidente de Perú rechaza carta de militares que sugieren golpe de Estado
LIMA, Perú (EFE).- El presidente interino de Perú, Francisco Sagasti, calificó este viernes de inaceptable la carta de un grupo de militares en retiro...

新ためて大統領選挙を実施しようと目論んでいた議会

しかし、両候補者の票差が非常に僅かであるということが意味するものは国家は完全に二分しているということである。

このような状況にあって、フジモリ氏への支持に回った右派政党の間では最終の審査決定が長引くことを望んでいた。というのも、大統領が誰か決まらない場合は7月28日から始まる共和国議会が招集された時に議会の議長が新たに選挙に踏み切ることを決定することができたからである。現在の共和国議会では右派政党が80議席をもっており、カスティジョ氏を支持する左派政党は50議席しかない。しかも、カスティジョ氏が所属している政党「自由のペルー」は35議席しかない。

議長に就任すると思われているベテラン議員のひとりは海軍の元提督で、今回フジモリ氏を支持することに決めた議員だ。

クーデターが起きる可能性の懸念

また、軍人によるクーデターが水面下で進行していると指摘していたのはビスカッラ元大統領の政権時に首相を務めたペドロ・カテリアノ氏もそうだ。彼は今回の大統領の決戦投票が実施される以前からカスティジョ氏の勝利を懸念して、それを次のように表明していた。「ペルーの自由は政治的そして経済的に脅威に晒されている。ここでは水面下でクーデターが進行している。それはペドロ・カスティジョ氏とウラジミル・セロン氏自身も知っている。彼らは議会と憲法裁判所を解体すると表明しているからだ」とネット上で述べた。ペルー電子紙「エクシトサ・ノティシアス」(4月23日付)から引用)。

https://exitosanoticias.pe/v1/pedro-cateriano-en-peru-hay-un-golpe-de-estado-en-marcha/

カテリアノ氏が指摘しているように、カスティジョ氏とセロン氏が現在の共和国議会を解散させて憲政議会を発足させるとしているということなのである。それは21世紀の社会主義と謳ったベネズエラのチャベス前大統領と同じ歩みであり、同様にエクアドルのラファエル・コレア元大統領とボリビアのエボ・モラレス元大統領も同じような歩みであった。

カテリアノ氏と同様にクーデターが起こる可能性があることを否定していないのが、ペルー出身のノーベル文学賞受賞者マリオ・バルガス・リョサ氏である。彼も同じように4月のカスティジョ氏が決戦投票に臨むことが明らかになった時点で、ベネズエラ、キューバ或いはニカラグアと同じ道を歩むようになることを懸念しているとラジオ・プログラマ・デル・ペルーのインタビューで表明した。

何しろ、カテリアノ氏やバルガス・リョサ氏が強く懸念しているのはカスティジョ氏の背後には共産主義者でキューバの政治体制を賞賛しているセロン氏がいるからである。キューバの現状はひどく経済が後退して物資不足が深刻な事態になっているということがセロン氏には見えないとは思われない。仮にそれが見えたとしても、セロン氏はその過ちを修正して共産主義体制を確立させようと考えているのであろう。

ペルーの右派が当面強い不安を抱いているのはベネズエラの二の舞を踏むのではないかという不安である。

カスティジョ氏の基幹産業の国営化

貧困に喘ぐペルー国民の半分はカスティジョ氏に期待しているという。ペルーは鉱物資源に恵まれた国である。銅、銀、亜鉛の生産量は世界でナンバーワンの国。金、モリブデン、鉛、錫の生産量はラテンアメリカではトップの国である。観光業もマチュピツのあるペルーは南米では最も盛んな国である。

ところが、資源開発などに従事する企業は民営化されて外国企業が富を肥やしている。だから、セロン氏が主張しているのは、せっかく資源が豊かにあるのに、そこから得る利益が国の発展に繋がっていないということなのである。だから、ベネズエラ、エクアドル、ボリビアで行われたように基幹産業は国営化する必要があるという考えなのである。しかし、仮に国営化されても利益は指導者層やオリガルキー層に分配されるだけで実際に国の経済の発展にはつながらないのがどの国でも見られる現象である。その典型がベネズエラだ。

20都市では貧困者は40%以上

しかし、そうはいっても現在のペルーでは人口3200万人の内の30%のおよそ1000万人はひと月360ソル(1万円)の収入しかない。更に、160万人は190ソル(5300円)の収入である。ペルーで一人当たりの年間所得は1万2800ドル(140万円)となっているが、それは多額の収入を得ている僅かの超富裕者も加えた平均で割り出しているからである。彼らはおよそ80万家族いるとされている。そして年収は2億から3億ドルである。その一方、ペルーの平均給与はおよそ1550ソレス(4万3000円)である。

実際に、80ある主要都市の20都市では貧困者は40%以上を占めている。一部は貧困者が70%を超えている都市もある。20%以下の貧困者の都市は13都市ある。例えば、リマでの貧困者は18%となっている。

カスティジョ氏に票を投じた有権者はこれら30%以上の貧困者が占める都市からの票である。(ペルーの貧困者のウイキペディアのデータから引用)。

Pobreza en el Perú - Wikipedia, la enciclopedia libre

今回のクーデターの遂行を誘っている退役軍人グループは、ペルーが現在のベネズエラやキューバのようになることを恐れているのである。