防災と消防団④:消防団への寄付に関する論点

高橋 富人

前回の原稿では、消防団への寄付に関する論点中、「全国的に寄付を廃止する」、「寄付の在り方を見直す」、「団員報酬を実情にあったものにし、寄付を廃止する」、の3つを概観しました。

今回の原稿では、「消防団員制度を廃止する」、「現状維持」の2つの枠組みについて考えていきます。

前回:防災と消防団③

消防団員制度を廃止する

寄付の是非に関する議論の中でいささか唐突感はありますが、実はこの意見は驚くほど多くの市民の方からいただきました。

消防団オフィシャルウェブサイトより

要約すると「寄付の問題の他にも、消防団制度については昨今いい話を聞かない。それならいっそ消防団そのものを解体して、防災・消防はできる範囲で対応すればいいじゃないか」というものです。

私は、一回目の論考で整理したとおり、要員動員力・地域密着性・即時対応力併せ持つ存在である消防団という組織を単純に解体することはできないと考えています。

大幅に減少したとはいえ、現在でも消防署員の5倍の81万人以上の消防団員が、我が国の防災・消防活動を支えているのです。

日々の生活をしているときにはその存在は見えにくいですが、例えば熊本地震の折には、延べ活動人数で約11万2千人の消防団員が消火、救助、土砂災害現場活動、炊き出し、搬入支援などを行っていましたし、今回の熱海の土砂災害でも多くの消防団員が活動されています。

では、仮に消防団員制度を廃止した場合、消防団に変わる組織を作ることは可能でしょうか。

一つ目の方策は、「消防署員を増員する」というものです。これは、予算的観点から困難です。平成28年度の予算で1兆3千4百万円ですから、倍にすれば総額2兆円以上の予算が必要です。確かに、消防団員制度の課題は多くありますが、消防団をすべて解消して常備消防を増員する方策は現実的ではありません。消防署員ではなく自衛隊の増員で代替する、というご意見もいただきましたが、どちらにせよ税金を原資としている以上、予算に関する問題はついてまわりますし、自衛隊の場合部隊の配備状況や出動要件に関する法律を相当程度変えない限り、即応性の高い防災・消防活動は不可能です。

次に、自主防災組織の機能を拡大し、消防団が担っている役割を併せ持つ組織にする方策について考えます。

自主防災組織とは、自治会や町内会を単位として組織した防災組織です。消防庁が公表している資料では、この自主防災組織に属している国民は4,330万人であり、世帯カバー率は81.7%となっています。

しかし、読者の皆さまのうち、自主防災組織について「あぁ、知ってる知ってる」と言える方がどれだけいらっしゃるでしょう?

私の地元である佐倉市の現状を見る限り、「市から言われたから書類はそろえたけれど、活動実態はありません」という自治会の自主防災組織はまだまだ多いのが現状であり、その意味で市民への周知は控えめに言って道半ばの状態です。

また、この組織はあくまで自治会単位等極めて狭い範囲での共助を想定しています。他方消防団は、例えば豪雨災害が発生したら、市の全消防団員が被災したエリアに駆け付ける体制となっているため、組織の役割にも違いがあります。仮に自主防災組織に消防団を組み入れようとすると、予算の問題、訓練の問題、責任範囲の問題など解消しがたい課題が残り、持続可能性は極めて低いと言わざるをえません。

以上概観したとおり、「消防団廃止」については、私は現実的ではないと考えています。

とはいえ、比較的多くの市民の方からこのような「消防団廃止」の意見が出る、という現実を、私たち政治家や行政は重く受け止める必要があります。

消防団は我が国でどのような役割を担っているのか、また市町村ではいつどのような活動をし、どのような地域貢献をしているのか、しっかり「知っていただく」努力をしなければなりません。本件については、今回の論考の本筋ではないため、稿を改めたいと思います。

現状維持

この意見も、比較的多くの方がおっしゃっていました。また、「現状維持」ではありませんが、現役、あるいは引退した消防団員の方から「お前は消防団員になったこともないのだから、消防団を語る資格はない。黙っていろ」という趣旨のご意見もいただきました。

まず、「黙っていろ」というご意見については、仕事なので必要がある限り黙りません、と都度お伝えしております。市議会議員とは、市の税金の使い道を精査する役目である以上、このスタンスを崩すつもりはありません。

次に「現状維持」について。このご意見は、「放っておけば落ち着くところに落ち着くので、黙ってみていればいいんじゃないか」という趣旨のものが多くありました。

確かに、政治家や行政が発言をしなければ、本連載の第2稿で書いたとおり、「寄付の禁止」条例が各市区町村で次々と成立し、それが全国的なうねりとなり、結果消防団に対する寄付という文化そのものがなくなることでしょう。事実、佐倉市の周辺自治体でいえば、成田市や八街市ではすでに同趣旨の条例化が完了しています。

それが歴史の必然であればそれもよいのかもしれません。しかし、私は単純に「寄付の禁止」を唱える前に、立ち止まって考えるべきだと考えますが、皆さまはいかがでしょうか。

次の原稿では、私が考える「寄付の在り方を見直す」方向性について考えます。

次回:「防災と消防団⑤」へ続く

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