プロフェッショナルなサービスに人は喜んでお金を払うのでしょうか?
多くの商品やサービスにはその内容で差別化を図り、売る側は付加価値をつけて高いものを売ろうとします。売り手の視点に立ったビジネスモデルとして付加価値をつける考え方が過去、2-30年の間、学術的にも支持されてきました。
最近、私はこの傾向に疑問を持っています。付加価値はいらない、安い方がいい時代がやってきた、と。
日経に「『タダ乗り投資』市場蝕む パッシブ化の弊害強く」という記事があります。株式のプロの運用の一つに、株価指数に応じて「それをひとまとめちょうだい」という運用があり、これをパッシブ投資と言います。これはその構成銘柄を時価総額などの加重平均で購入するため、極端な話、自分でも計算できるほど単純な投資方法であります。一方、アクティブ投資は個別銘柄を研究と調査を重ね、厳選し、そこにどんと投資する方法です。
結論からすると今はパッシブの方が人気も収益のリターンも大きくなっています。個別企業に対する調査コストが掛からないのでコスト安である点は成功の隠れた理由の一つかもしれません。「ただ乗り投資」とはよく言ったものです。
ウェルス マネージメントという言葉を聞いたことがあると思います。富裕層向けの資産管理で「俺、スイスの〇〇銀行のウェルスマネージメントに任せているから」なんて聞くと「すげぇー!」「いくら持っているんだろう」と驚きだったのは20年前。いまでは「高いフィー払って実際、どうなんだろうね」と言われるのが関の山。プロが提供するサービスへの対価を人々は好んで支払わなくなったのです。
私がかつて開発したコンドミニアムのある管理組合では運営会社の「サービスのある部分」を切り取ってしまいました。それはプロフェッショナルサービスの部分です。残したのは書記とか議事録の保存、管理費の集金や業者への支払いとった事務作業のみです。その代わり、プロに近い知識を持つ人物を直接雇い入れ、複数の管理組合に対して建物の管理を行っています。これがよく機能するのです。
もう一例あります。私が開発した集合住宅の別の管理組合の会長から相談が持ち込まれました。「ひろ、〇〇の補修をしたいんだけど業者からの見積もりを見てくれよ」というので拝見したところ工事費約1500万円程度の3社の見積もりが並びます。パッと見て「おかしい」と思ったのは業者への作業の指示をした管理会社の立ち位置です。「これだけの補修が必要です」と管理会社の判断のもと、作業内容を業者に見積もらせたのです。
作業内容を見ると作業の本質が違う気がしたので「私がいま一緒に仕事をしている工事管理会社を紹介するから」と申し上げ、見てもらったところ、管理会社の指示と全く違うアプローチで作業費用は170万円と出ました。10倍近く相違するのです。しっかりしたプロの助言があるはずの管理会社は将来の責任を逃れるための「無駄尽くし」であったのでしょうか?
プロとは何か、最近、疑問がわくのです。様々な情報、ツール、ノウハウの水平展開などを通じて一般人でも高い知識や見識を持つ人が増え、プロと一般の差が少なくなったのです。
一番わかりやすい一つの例はウェブデザイナーでしょう。20年前はプロにお願いして50万円とか100万円をほいほい払うのが当たり前でした。しかし、今はウェブデザインするツールは誰でも無料とか格安で利用できます。すると今、必要な能力はウェブデベロッパーの方でそのウェブサイトをうまく機能させることが主眼となります。極端な話、各ページのデザインとコンテンツはこちらでやるからそれをサイトとして機能しアップロードしてほしい言えば安く済むのでしょう。
カナダのショッピファイのように中小企業向けのオンラインショッピングのウェブで世界トップクラスを走る会社もあります。この会社はベースの形式に顧客のニーズに合わせて数百あるとされるオプションを組み合わせるビジネスモデルなのです。ブロックや積み木と同じです。いらないものはつけない、必要なものを必要なだけ、という発想かと思います。
料理レシピのウェブサイトは高い人気があり、かつてはクックパッドが独走だったと思いますが、最近はクラシルやDelish Kitchenなど新興組と激しい争いとなっています。ではなぜ、レシピサイトがこれだけ人気なのか、といえばレストランや飲食店の味を家で再現する、これに尽きるのです。
かつては街の中華料理屋の味すら家庭では無理とされました。今ではレシピ的にはほぼ追い付いています。唯一不可能なのが火力です。業務用の火力が引き出す味だけは家庭では機能的問題が残りますが、腕自慢の方は相当増えたと思います。とすればわざわざ高いお金を払って街まで出向かなくてもよいというもの。これもプロへの支払いを減らすための主婦の努力だと考えたら合点がいきませんか?
私は北米に住むようになった初めの頃にとても印象的だったのが「Do it yourself」でした。それは単に手先が器用になるということではなく、業者に頼んだらカネも時間もかかるから自分でやるようにという意味でした。おかげでビジネスに関しては自分で相当こなします。簡単なリーガルドキュメントから会計処理、不動産の管理業務やマリーナの水道管修理まで自分達でやります。
社会のトレンドの一つは一般人のノウハウが上がってきたこと、そしてプロの作業を費用対効果という点でよりシビアに見るようになってきたことがあると思います。今までは「やってもらった方が楽」だったけれど世代が変わると「自分でやったらこんなに面白いものがこんなに安くできた」になります。それをみた年配の方は「あなた、これ、自分でやったの?すごい才能じゃない?」というと思いますが、才能というよりツールと情報がそこにある、それをいかに利用するかでコストは相当下げらえるといった方がよいのだろうと思います。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年7月27日の記事より転載させていただきました。