蓮舫氏「日本国民の1人」を証明?

日本の野党「立憲民主党」の蓮舫代表代行は東京五輪開催前までは五輪中止の急先鋒だったが、スケートボード男子ストリートの堀米雄斗選手が金メダルを獲得すると途端に祝福するツイートを発信していたとして、「アゴラ言論プラットフォーム」などでその言動の不一致を追及する声が出るなど、議論を呼んでいる。とても、日本的な議論だ。

東京夏季五輪大会開会式で行進する日本代表団(オーストリア国営放送の中継から、2021年7月23日)

当方は新型コロナウイルスの感染拡大を恐れ東京五輪開催に反対した国民の意見は間違いとは思わない。デルタ株が拡大してきた現在、世界から多くの選手団が集まる五輪大会開催はやはり危険が伴うからだ。開催準備側はその国民の懸念を考慮して「無観客」を打ち出す一方、コロナ規制を強化するなど感染防止策を打ち出し、23日の開会式を迎えた経緯がある。

世界最大のスポーツ祭典とも言うべき夏季五輪・パラリンピックが始まった以上、次は、今大会の成功のため、開催問題で議論をぶつけ合ってきた国民は結束する時だろう。その意味で、五輪開催反対の急先鋒だった蓮舫議員が日本に金メダルをもたらした若きヒーローの堀米選手に祝いのツイートを発信した、ということは未来志向的な行動であり、少なくとも批判されるものではない。

同議員の行動を好意的に解釈すれば、「東京五輪が始まった以上、国民の1人として、ホスト国日本の開催成功を支援する」という心意気から日本選手の金メダル獲得というニュースを喜ぼうとしたのではないか。もちろん、「野党側の五輪開催反対運動は倒閣を目論んだ政治活動だ。その政党、議員たちは、国民の歓喜する姿に押されるように、メディア受けする祝いのツイートを金メダリストに発信しただけだ」として、同議員の「政治的転身」と糾弾される方も出てくるかもしれない。

蓮舫議員の「転身」ぶりについての報道を読んでいて、ボブスレーを題材とした米スポーツ映画「クール・ランニング」(1993年公開)を思い出した。ジャマイカ出身のボブスレー選手の活躍を面白く描いた名作だ。ビジネス界の仕事を蹴って、ボブスレー・チームに入って冬季五輪大会に参加した息子(ジュニア・パヴェル)に怒っていた父親が五輪大会で頑張る息子の姿を見て応援する場面がある。人は状況が変われば、意見、考えも変わるものだ。政治の世界ではライバル政党の議員たちがこれまでの言動と全く異なる対応をした場合、「転身した」「変節した」という言葉を使用し、相手を貶めることがあるが、通常の場合、人は状況に適応するために変わる存在だ。

東京五輪「開催前」と「開催後」では状況は異なるから、考えも変わってくる。特に、反対派は新しい状況に対応していかなければならない。だから、①それでも反対する、②「始まった以上、国民の1人として……」と考え、応援するか、の2通りの対応が考えられる。そして蓮舫議員は後者を選ばれたのではないか。ただし、新型コロナウイルスの感染防止は開催の是非とは関係なく、コロナ禍が終焉するまで続行されなければならないテーマだ。

スポーツの世界に政治、経済が絡んでくるのは当然かもしれない。純粋なアマチュア・スポーツが後退する一方、スポンサーで動かされるプロのスポーツ選手も少なくない。サッカー欧州選手権に参加したポルトガルのクリスティアーノ・ロナウド選手(36)が記者会見でテーブルにあったコカ・コーラのボトルをカメラに映らないように端によけた通称「コーラー瓶追放劇」は、体に良くない飲み物をコマーシャルすることに反対する彼の姿勢から来たものだ。このように巨額な資金でスポーツ世界をコントロールするスポンサーに抵抗する選手も出てきた。スケートボードで金メダルを獲得した22歳の堀米選手は「米国に豪邸を持っている」といったニュースが流れる、といった具合だ(「ロナルド、『水』で乾杯だ」2021年6月19日参考)。

自転車競技女子ロードレースでプロ選手を圧倒して金メダルを獲得したアンナ・キ―ゼンホファー選手(オーストリア)はプロの選手ではない。目標を立て、その実現のために仕事後、トレーニングを重ねてきた成果が金メダルだった。オーストリア国営放送のスポーツ・レポーターが、「これで自転車業界からアンナにスポンサーの話が出てくるだろう」と言っていたのは印象的だった(「東京五輪の『金メダル』は国を救う」2021年7月27日参考)。

活躍するスポーツ選手にスポンサーが集まるのは当然かもしれない。スポンサーの支援を受けてトレーニング環境が改善され、成果を挙げられる選手がいる一方、巨額の金を受け取り、次第にそれが負担となってスポンサーに押しつぶされる選手も出てくる。状況の変化に対し、どのように対応するかで、その後の展開も異なってくるのはスポーツ選手だけではなく、全ての分野でも同じろう。

蓮舫議員が堀米選手に祝いのツイートを発信したニュースは東京五輪開催に反対してきた同議員の「政治的転身」と受け取るべきではない。むしろ、「2重国籍問題」でこれまで激しくメディアに叩かれてきた同議員が日本人選手の活躍を祝うことで、「日本国民の1人」であることを実証した、と今回は好意的に受け取るほうが賢明だろう。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2021年7月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。