デカップリングに歩を進める中国

配車サービスの滴滴(DiDi)への締め付け、オンライン教育企業のTAL、New Oriental、Gaotuといった米国上場教育企業のNPO化計画、そしてテンセントが出資するフードデリバリー会社の美団には独占慣行の疑いと給与待遇面で当局の調査が入っています。アリババやテンセント、京東など中国を代表する大手企業の株価も高値から約4割下げ、なお下げ止まりが見えず、投資家が手を引き始めているのが見て取れます。

一体中国で何が起きているのでしょうか?

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私が見る習近平体制は「敵の力をそぐ」に尽きるとみています。ここに至る手法は毛沢東が大躍進から文化大革命に至るまでの流れに似ています。習氏の場合、それまでの融和路線、国際協調路線から一気に独自路線に突っ走ります。氏がトップにたった2013年頃から数年は派閥内の争いが激しく、特に夏の北戴河会議では長老との関係に苦心してきたことも事実です。それから年月が経ち、長老が歳をとってきたこともあり、習氏のポジションが有利になったこともあるでしょう。

2020年に北戴河会議が開かれたかどうかは定かではありません。開かれなかったとしたら異例です。この会議はそもそも非公開であるため、漏れ聞こえてくる話で開催の様子が分かるのですが、昨年は何も漏れてこなかった、つまり、開催されなかったのではないか、とされるわけです。では今年はどうか、といえば常識的には行われるはずです。理由は自身の3期目の人事と首相の李克強氏が中国憲法上任期が23年3月までであるため、その後任の話があるだろうというわけです。李氏については時間的には1年半以上もあるのですが、党内派閥の整理から始めるにはそれぐらい時間がかかる、ということかと思います。ただ、「習近平、派閥を相手とせず、よって北戴河会議は今年もない」という分析もあるにはあります。

一方、自身の任期については終身ないし、あと5年×3回=15年など様々な見解が飛び交います。あと15年説というのは同国の一部の中期計画がそうなっているからというのですが、中国指導者の最高齢が鄧小平氏が85歳だった時なので自身の年齢に合わせているという見解もあります。どちらにしろ習体制の足場固めに入っているとみてよいと思います。

だいぶ前のこのブログで習氏の唯一の敵は国内かもしれないと申し上げました。その後、アリババの金融子会社のアント社の2日前の上場中止命令、滴滴の当局の警告を無視した米国上場に対する仕打ちなど資本の力をベースに拡大路線を取る私企業を本気で潰しにかかります。これは金を儲ける⇒共産党の考え方と相反⇒党支配に於ける不穏な分子⇒資本家思想を完全抹消という流れを想定した展開かと思います。

では一般の中国人はこれらの動きにどう思っているのでしょうか?基本的には分かっているけれど口にしない、それだけです。当局は怖い、だから逆らわないのです。では、いつまでその従順さを見せるのかといえば、綻びが見えたとき、国民は蜂起するかもしれません。何処から綻ぶかはわかりません。習氏のお手付きか、ウイグル族やモンゴル族など民族蜂起か、はたまた台湾へ仕掛けた力業に対して国際世論からの強力なバッシングと厳しい経済制裁がある時でしょうか?文化大革命の末期のようなみすぼらしい結果となれば習体制は一気に崩壊します。

近年の中国を外から見ると砂上の楼閣に見えるのです。かつては海外の専門家や企業を三顧の礼で招き入れ、自国の経済発展のために必死に勉強し、努力した可愛げもあったのですが、自分でできると思い込み、海外の企業も人間もポイ捨てです。ただ、国内経済の実情は厳しく、内需振興も計画を下回るように見えます。

習近平体制は盤石か、と言えば脆弱とみています。それは習近平氏への権力集中でしかなく、周辺の忠誠がなく、ドライで割り切っていると考えています。次のチャンスや変化するタイミングをあらゆる層の人が黙って待っているとも言えましょう。デカップリングを進める今の政策では奈落の底に向かう一丁目一番地です。

一方、多くの日本企業が中国に進出しています。中国にとっては「しめしめ」です。理由は有事の際、彼らが担保であり、資産になるからです。中国は日本企業をウェルカムし続けます。そして日本の財界が中国を重要なパートナーだと主張する間に、尖閣諸島が実力で奪われ、日本政府が猛然とクレームし、軽い衝突でもあった瞬間に中国にある日本企業の資産を抑えることができます。その時、中国の日本企業は金魚鉢でえさを与えられている金魚のようなものだということに気がつくはずです。

2013年に習近平氏が就任するまではよかったかもしれません。今の中国は猛獣です。有力な中国企業も骨抜きにされる状況を正視することは重要です。国際感覚というのはそういうものです。中国とビジネスをしている人には「まさか」とか「まだ大丈夫」という気持ちがあると思いますが、国際情勢のパリティは一日にして崩れることがあるのは肝に銘じるべきだと最近とみに感じています。

では今日はこのぐらいで。

 


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年7月28日の記事より転載させていただきました。