政府はコロナ療養方針をどう「大転換」したのか

池田 信夫

TBS「NEWS23」より

きのうから政府のコロナ療養方針について誤報が相次いでいる。毎日新聞とTBSは「中等症も自宅療養に」という見出しをつけたが、きのうの関係閣僚会議後の首相談話の療養方針にそんな言葉はない。念のため、全文引用しておこう。

ワクチン接種の進行と、感染者の状況の変化を踏まえて、医療提供体制を確保し、重症者、中等症者、軽症者のそれぞれの方が、症状に応じて必要な医療を受けられるよう、方針を取りまとめました。

重症患者や重症化リスクの特に高い方には、確実に入院していただけるよう、必要な病床を確保します。

それ以外の方は自宅での療養を基本とし、症状が悪くなればすぐに入院できる体制を整備します。

パルスオキシメーターを配布し、身近な地域の診療所が、往診やオンライン診療などによって、丁寧に状況を把握できるようにします。そのため、往診の診療報酬を拡充します。

家庭内感染のおそれがあるなどの事情がある方には、健康管理体制を強化したホテルを活用します。

さらに、重症化リスクを7割減らす画期的な治療薬について、50代以上や基礎疾患のある方に積極的に投与し、在宅患者も含めた取組を進めます。

「中等症」という言葉は前置きにあるだけで、方針の中にはない。これはマスコミの作文である。毎日新聞は中等症という見出しを削除したが、TBSはまだ残っている。

中等症は明確に定義された言葉である。厚労省の指針でも「中等症Ⅰ」は「入院の上で慎重な観察が必要」とされており、自宅療養の対象ではない。この基本方針は変更されていない。

厚労省の資料より

コロナを5類に格下げすべきだ

しかし「療養方針の大転換」という表現は、別の意味で正しい。コロナは昨年1月にドタバタで「指定感染症」に指定され、無症状も軽症も全員入院という感染症法の「2類相当」の扱いになった。これは当時としてはやむをえなかったが、医療現場の負担になり、医療の逼迫が起こった。

このため安倍前首相はコロナの指定感染症扱いを緩和する方針だったと思われ、昨年8月に退陣するとき、そう示唆したが、菅首相は元の方針に戻ってしまった。厚労省は全員入院の原則を変えないまま、なし崩しに入院患者の基準を緩和して対応した。

今年1月に指定感染症の指定を解除するときも、インフルと同じ5類にすべきだという議論があったが、逆に新型インフル等感染症に分類し、2類相当の扱いを固定してしまった。そのままで今回のように検査陽性者数が激増すると、現場がもたないことはわかりきっていた。

東京都の8月1日の検査陽性者数は3058人だったが、重症者数は6人、死者はゼロである。死者は感染から2週間ぐらいラグがあり、重症はやや増えているが、それでも7日平均で4人である。

東洋経済オンラインより

これはワクチン接種が進んで、高齢者の重症化率が下がったためだ。死者のほとんどは70歳以上で、60歳以下の重症者はほぼゼロ。次の図のように東京都の入院患者3231人のうち、96%は軽症・中等症だが、中等症患者数の統計はない。確保病床5575床は中等症用だが、入院患者のほとんどは入院の必要ない軽症なのだ

東京都の療養者の状況(東京都サイトより)

重症患者の指標である人工呼吸器の利用率は、東京都でも34%である。これで医療が崩壊することは考えられない。

人工呼吸器の利用率(ECMOネットより)

医療が逼迫している原因は、昨年からいわれている医療資源の配分のゆがみである。日経新聞も指摘するように、コロナ病床は3.6万床で、今年1月から8000床しか増えていないが、一般病床は30万床があいたままだ。病床が中小病院に分散し、医師や看護師が集約できないためだ。

日本経済新聞より

大病院をコロナ専門にし、他の呼吸器系患者を一般病院に移送すればいいのだが、それを受け入れる病院が少ない。こういう状態で、激増しているコロナ陽性者を全員入院させると医療が崩壊するので、軽症・無症状者を自宅療養にするのは当たり前だ。遅すぎたぐらいである。

今回の療養方針は、今までの原則入院から原則自宅療養への転換だが、これはインフルなどの5類感染症と同じである。今回の療養方針は、コロナの実質的な格下げだが、病院ごとに「重症化リスク」の基準が異なるのはよくない。コロナの新型インフル等感染症の指定を解除して5類に格下げし、医療現場の負担を軽減すべきだ。