オリンピック、分割したらどう? --- 大原 誠一

東京オリンピックは連日のメダルラッシュで盛り上がっている。この夏の開催に対する強硬な反対論もある中、オリンピックのテレビ放映はいずれも高視聴率を記録している。開会式の瞬間最高視聴率は61.2%、卓球の混合ダブルスは40.5%、ソフトボールは46.0%だったという。筆者はオリンピックが人をお茶の間に惹きつけ、夜の街からいくらかなりとも人を帰宅させる原動力になっていることを嬉しく思っている。

真夏にオリンピックをやって良いのか?

ここで一つ気になることがある。「真夏にオリンピックをやって良いのか?」という疑問だ。夏季オリンピックの種目は多岐に亘り、ヨットや水泳、サーフィンのように真夏にやることがふさわしい競技もあれば、マラソンのように酷暑でレースを実施することを避けるべき競技もある。更に、バレーボールやバスケットボールのように体育館を使用する競技であれば、「会場の冷房に使用するエネルギーの消費」も気になるところだ。

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そこで、提案したいのが「夏季オリンピックを分割する案」(以下分割案)だ。分割案では現在は夏季に開催しているオリンピックを、夏と春、または夏と秋の2回に分割する。以下、分割案を比較的気温が低くなるであろう「春」に春季大会を開催する案として語る。

メリットは5点

分割案には複数のメリットがある。

  1. 選手の負担軽減
    • マラソンに代表される、真夏に競技を行うことが選手にとって負担となり、夏季に開催することのデメリットが大きい競技を、気温面で問題の少ない春季大会に移管、実施できる。
  2. 省エネ
    • 体育館で実施する競技を春季大会に移管することで体育館の冷房負荷を軽減し、地球温暖化に対する対策とすることができる。
  3. 開催都市のハードルが下がる
    • 分割案ではオリンピックの競技を春夏の2大会に分けるため、大会の規模が縮小する。これによって開催都市の(競技場建設等の)負担が軽減され、開催可能な都市が増える。同時に開催回数自体が増えるため、大国と大都市に独占されていたオリンピックが、より小さな国や小さな都市でも開催しやすくなる。
  4. マイナーな競技に参入の機会を
    • 個々の大会の規模が縮小することで、マイナーな競技がオリンピックに参入しやすくなる。東京2020で追加種目となったのは空手、スケートボード、スポーツクライミング、サーフィンの4競技。これは東京大会の開催国である日本が選択して入れた追加種目だが、これらの競技がレギュラーになる可能性も高くなる。
  5. スポンサー枠の拡大
    • スポンサーにとっては、夏~冬の3大会という選択肢が増えることで、商品の特性にあった大会に限定して応援することができるようになる。夏の大会のスポンサーが、春のスポンサー契約を見送れば、他の企業がスポンサーとして参入するハードルが下がる。組織委員会はスポンサー費用の基準を見直すことになるとは思うが、その変更の中で収入を増やす方向で調性することは十分可能だと思われる。

これら想定されるメリットのうち、1.~3.は確実に得られるメリットだが、「4.マイナー競技の参入」については「3.開催都市のハードルが下がる」と矛盾するような側面もあり、どのようにバランスを取るかは組織委員会の考え次第だと思われる。

開催時期の問題

春季大会の開催時期については、米国のスポンサーの意向が大きく、他の(主として米国の)スポーツイベントや世界選手権との日程調整ができるか、という点が課題となる。

実際に今回の東京オリンピックの延期に対して、世界水連や陸連がどう動いたのか、ニュースを追ってみたところ、世界選手権の日程調整が行なわれていた。分割案を実施した場合、日程調整がより厳しくなると思われるが、「選手の負担軽減」は陸連としてもメリットがある話なので、陸連として反対はされないと予想できる。水連については、水泳競技が夏季大会に留まることが確実なので、特段の変更を必要とはしないだろう。

最後に

この案の実現はひとえに「米国と主要スポンサーの意向」にかかっていると思われる。現時点で「夏季大会を分割していない」ことには当然理由があるのだと思う。だが、組織委員会が真に「アスリートファースト」を願っているのであれば、分割案には検討する価値があるのではないだろうか?

なお、分割案の主要メリットには挙げなかったが、コロナのようなパンデミックに対するリスク対策としても分割案は一定の効果があると思っている。本案についてのご賛同も、ご批判も喜んで受け止めたいので、ご意見をお寄せいただければ有難い。

大原 誠一
1984年よりA社にてゲーム開発担当ディレクター。某シリーズを担当し、当時の同ジャンルのベストセラーを生み出す。 1999年より移籍、情報システム部門に所属し、2003年より管理職を拝命。社内システムの管理、情報セキュリティ、ISO20000監査員などを担当。