横浜市会議員・南区(自民党)遊佐 大輔
❶はじめに
まもなく告示される横浜市長選挙では、候補者が過去最多になると言われ、横浜市政への関心が市内外問わず高まっています。私は菅義偉・内閣総理大臣の秘書を経て、横浜市会議員となり3期目、10年が過ぎましたが、これほど情勢が混沌とするのは初めての経験です。
そもそもどうしてこのような状況を迎えるに至ったのか、自民党に所属する一人の市議としてどのような議論を行ってきたのか、そしてなぜ<おこのぎ八郎さん>に期待しているのかについてお話しいたします。
横浜はカジノを含む統合型リゾート施設(IR)の誘致が全国的に注目されていますが、市政には他にも様々な課題があり、政策論争は最先端を行くものとして貴重な機会にしたいと思いますし、市政を取り巻くそもそもの問題も知っていただきたく、今回長文を書きました。ぜひお読みください。
<1>決める民主主義~「強力なリーダーシップ」とは
代議制民主主義の日本においては、政治家自身がさまざまな決断を下すことが必要です。しかし私は、政治家は当選したら白紙委任、あとはすべて自分で決めて良いとは考えていません。とくに大きなテーマになるほど謙虚であるべきです。
多様な生活スタイルが当たり前となった現在の日本社会では、横浜市民378万人の考えがすべて一致することはあり得ません。完全一致の「ベストな選択」は不可能と言えます。
コロナ禍という未曽有の困難に直面する今、コロナ対策が最優先と考える方、IR誘致が問題だと考える方、横浜市営のオペラハウスには反対だと考える方、福祉に力を入れてほしいと考える方、子育てにこそ力を入れてほしいと考える方、人によって最重要課題はさまざまです。
だからこそ、健全な民主主義のルールにより選挙で選ばれた有権者の代表が、考え方が近い人たちと一緒にグループを組み、熟議と多数決を経て政策を一つずつ前へ進めていくことが重要です。
仮に政策の方向性があまりにも民意とかけ離れたものであれば、有権者は次の選挙で「落とす」こともできますし、自らが立候補することもできます。有権者には白票という選択肢もありますが、いずれにしても最後には誰かを決めなければなりません。そして決められた者は、少数の声に耳を傾けながらも、まずは多数の声を反映するために勇気をもって決断、実行する覚悟が必要です。
政治家は、まずはやってみて、有権者やメディアの厳しい監視にさらされながら、時には修正を繰り返し、でも最後は決定し、それらに対しての、選挙による有権者の審判を受けるものなのです。
❷政策論争
<2>市長と議会の関係性
二元代表制の地方政治は、議院内閣制の国政とは大きく異なります。市長は議員の中から選ばれるわけではありませんので、市長が公約に基づいて政策を進めようとしても、時には議会と鋭く対立することがあります。
市長の思い通りに事を実行するためには・・・
- 市議選で市長会派が多数を取る。
- 多数会派と手を組み、うまくやる。
- 不信任決議案の議決の後に議会を解散して、新構成の議会をつくる。
※ただし、新構成で多数を取れず不信任案が可決されれば市長は失職してしまいます。 - 現議員構成で新会派を結成する。
この4つしかありません。つまり、市長による「多数派工作」が必須となります。
詳細は後述しますが、横浜市会では今年1月、住民投票案を否決しました。住民投票というと、いわゆる「大阪都構想」が記憶に新しいところです。
橋下徹さんは、二重行政という地域課題を解決するため、自ら新会派を結成、府知事を辞職し選挙によって市長となり、その後も選挙を積み上げ議会で多数を取り(=1)、それでも「政治家だけで決めるべきではない」という謙虚な姿勢のもとに住民投票を実施し、「YES」「NO」の有権者の判断を仰ぎました。その結果、「NO」を受け入れて潔く政治家を引退されました。
<3>IRを巡る議論
横浜でのIRを巡る議論を振り返ります。
今年秋頃、区域整備計画が策定されます。これは、横浜市と事業者による共同企画書のようなものです。横浜自民党は、ここで初めて「賛成」か「反対」かの決定をします。
横浜型IRを前向きに推進してきた議員、中立的な立場の議員、反対している議員、横浜自民党36名、途中改選もあり立場はさまざまですが、現在までの地方選、国政選の結果を尊重し、制度設計そのものには反対はしていません。
カジノが良いか悪いかは別にして、この議論があったからこそ国の法改正で依存症対策に力を注ぐ結果となり、ギャンブルのみならずアルコールやゲームなど、依存症に苦しんでいる当事者やご家族にとって大きな一歩を踏み出すことができました。
懸念されている治安悪化の問題も、外国人が来るから犯罪が増加するとは限りません。実際、民主党政権時には836万人だった外国人観光客が自民党政権になってから3,188万人に増加したにも関わらず犯罪件数は減少しました。「カジノがあるから治安が悪くなる」というデータは、まだスタートしていない以上は出せないのが現実です。
ちなみに、林文子・横浜市長は2017年の前回市長選の段階ではIRを誘致すべきかどうかの考え方を「白紙」と表明していました。
「白紙」を辞書で調べてみると・・・
- 白色の紙。
- 書くべきところに、何も書いていない紙。
- 意見などを何ももたないこと。
- 何もなかったもとの状態。
- 中国渡来の、白くて薄い紙。書画用。
とあります。
元々市長は「推進」していた。それが「白紙」に変わった。であれば、すなわちそれは「中止」や「断念」だと考えていた多くの横浜市民がいらっしゃることも間違いないことだと思います。
推進派の理屈は「白紙なのだからやるともやらないとも言っていない。議論の結果として『推進』になったのだ」というものです。
一方、反対派は前述の理屈だと理解しています。
いずれにしても、「YES」であれ「NO」であれ、辞書を引き、一から言葉の意味を探ることになってしまった時点で、多くの市民からの賛同を得られている状況とは言い難いのではないでしょうか。
後述する住民投票の是非も含め、最終的に「いつ」「どのタイミングで」「どの程度議論が深まったら」あるいは「どの選挙で民意を得た」というしっかりとした方針設定がない限り、双方がそれぞれ建設的な議論を行う場を設けることや、一度失ってしまった信頼を元に戻すことは容易ではありません。だからこそ今回は、有権者の権利である事後的な審判、つまり選挙によって、厳しく市長の姿勢をチェックしていただければと思います。
<おこのぎ八郎さん>は今回、「IRは取りやめる」と表明しています。これだけ大々的におっしゃっているわけですから、それは当然「中止」や「断念」と同じ意味だと私は思っています。
「結局、当選した後は『推進』に変わるだろう」というご意見を多くいただきますが、少なくとも私は、仮に「推進」の議案を上程してきたとしても必ず否決しますので、選挙後の議会の推移を監視していてください。
「それでも信用できない」という方もいらっしゃるかと思いますが、もしそのような議員がいたとしたらリコールで、あるいは1年半後の市議選で、もしくは4年後の市長選で、厳しい審判を与えてください。
なお、国は「地方のことは地方で決める」という方針のもとに手挙げ方式を採用していますので、IR誘致は名乗り出る自治体を待っている状況です。
<4>住民投票
今年1月、19万筆を超える多くの方の賛同による住民投票案が議会に上程されました。このことは大変重く受け止めなければいけませんし、大切な政策決定に関しては政治家だけで決めるのではなく真摯に民意を聞く極めて謙虚な姿勢が必要だと改めて感じました。
ただ、仮に住民投票になったとして、そこに至るまでの過程を「大阪都構想」と比較した時に果たして議論を尽くしたと言えるのかが疑問でした。住民投票には市長選とほぼ同額のコスト(約10億円)がかかります。「半年後に市長選があるのだから、そこで民意は示される」という意見もありました。
横浜型IRについて、自民党議員は全員が推進派というわけではありません。元々私は横浜でのIRには慎重な立場で、議会でも地元でも発言を変えたことはありません。
もちろん、これまでの多くの選挙結果から制度設計には賛成しました。「YES」にしても「NO」にしても、どのような根拠に立てば今回提出された案に賛成できるのかが分からず、住民投票については反対に一票を投じました。
IR誘致は、横浜の未来に大きく影響する重要な政策です。
仮に「NO」の立場であれば、前述の大阪都構想の時のようなプロセスを重ねる必要があるのではないでしょうか。それだけ住民投票は重い選択と考えます。
今回の案には「大都市での住民投票という初めての実験を、市議会の総意として実現してほしい」という一文がありました。この大切なテーマを「実験」にしてしまっていいのか、たしかに署名は19万人を超えましたが、有権者は313万人です。
最後まで本当に悩みましたが、直近の市長選で横浜の民意をお示しいただくことが適切と判断しました。
❸横浜市政
<5>「県」と「市」の役割、大都市市長のリーダーシップ
コロナ対策を巡り、市長には強力なリーダーシップが求められています。しかし現在の法律上、コロナ対策の権限と責任は「県」が担っています。
そこが大きな壁になったこともありました。例えば、小学校(市立)が休校になった場合に保育園(認可は市)には情報が入りましたが、幼稚園(認可は県)には入らないという事案が発生したのです。解決に向けて動き、今は解消されています。
県レベルの人口を抱えながら、基礎自治体としての役割も果たしていかなければならない点も、大都市の大きな課題です。
人口が多いので、何をするにもとにかく時間がかかります。定額給付金やワクチン接種券などのご案内の印刷、封筒詰め、郵送、電話やインターネット回線のパンク、こうした問題は大都市ならではで、だからこそ緊急時にはリーダーシップと情報発信が必要です。
そして現在、コロナ対策において「市」が責任を持つもっとも大きな事業が、ワクチン接種です。「戦後最大のオペレーション」と銘打ち、県や関係機関との協力体制を構築し現在に至ります。
問題が多かったことも事実です。決定的に情報発信が足りません。ネットを使える方や町内会に入っている方ばかりではありません。市長の情報発信が求められますが、毎週1回だった記者会見は最近になり2週間に1回に変更され、緊急時でも会見を増やすことはありませんでした。
5月、予約の電話やネットがつながらないことを受けて緊急対策を練ったにも関わらず、市長はメディアの前に出てくることはありませんでした。毎日市役所に缶詰めでいる必要はないと思いますが、せめて緊急時には的確な情報を発信してほしかったです。
<6>市営オペラハウスには反対です
現在、林市長はオペラハウス・劇場の建設を推進しようとしています。私は、議会の中で一番早くこれに反対を論じました。コロナ禍になる前の話です。
文化・芸術振興や子どもたちの学習体験には大賛成ですが、コロナ禍の現在、約600億円もの税金を使ってオペラハウスを建設する意味がまったく分かりません。維持するためのお金も毎年約20億円は必要だと言われています。
世界中が困難に立たされている状況下、時には方向性を大きく変える政策決定と実行力あるリーダーが必要と考えます。
外国人観光客が見込めない中、まずはコロナ対策に全力を尽くして生活を安定させ、皆様の暮らしを回復させるためにはどうしたら良いのか、個人・法人市民税を元の水準に戻すために何ができるのかを本気で考えなければなりません。
だからこそ私は、横浜で生まれ育ち、8期25年にわたり衆議院議員として、また大臣として行政をリードしてきた、<おこのぎ八郎さん>の手腕に期待しています。
❹横浜市には「多選自粛条例」がある
<7>為政者・権力者こそ条例を守るべき
4月頃、横浜自民党の中では、先輩議員の取り計らいにより、3期12年の市長の取り組みや今後の展望について話し合う場が設けられました。とりわけ待機児童ゼロ政策や私自身も大きく関わった崖地対策などは横浜発で全国的に制度が広がっていきました。こうした実績も踏まえて、「林市政への評価」に対する議論が行われました。
もちろんIRの議論もありました。オペラハウスだけは絶対に賛成することはできない、防災対策や行政のデジタル化、脱炭素社会の形成なども公約に盛り込んでもらうよう訴える・・・本当に色々な意見が出ましたが、一連のコロナ対応を巡る言動への不信感以上に、横浜市にはいわゆる「多選自粛条例」があります。「連続して3期を超えて在任しないように努めるものとする」という横浜市長の在任期間に関する条例です。現職自らの手によって施行している条例を守らなくて良いのだろうかという議論もありました。
3期12年の実績は評価しつつ、コロナ対応と条例遵守という観点で、多くの議員の考え方はまとまりました。
<8>「そんなの関係ねぇ」
言ったか言わなかったかは分かりませんが、私たちの意見を受けた市長の結論としてはそういうことです。残念でした。
そうしたある日、<おこのぎ八郎さん>が立ち上がりました。党内のこれまでの出来事・経緯を見てご判断されたとのことでした。菅総理ともお話をされたとおっしゃっていました。お二人の会話の内容は誰にも分かりませんが、総理は<おこのぎ八郎さん>を応援します。それがすべてです。国会議員、大臣も辞職して、退路を断ち挑戦されるとのお話でした。
しかし、「IRは取りやめる」ことを表明すると、まとまっていたはずの議員数名が離れていってしまいました。
議会内における会派は非常に重要な役割を担っています。なぜならば、横浜市会は歴代の先輩議員のご尽力の賜物で、全国的にみると非常に珍しい議会会派の構成をしているからです。
- (国)自由民主党→(市)自由民主党・無所属の会
- (国)立憲民主党→(市)立憲・国民フォーラム
- (国)国民民主党→(市)同上
- (国)公明党→(市)公明党
- (国)日本共産党→(市)日本共産党
- (国)無所属→(市)無所属
国の政党と市の会派がほぼイコールなのです。実は、どの党の中にもいくつもの会派があることが当たり前とも言える全国の他議会にあって、これはあまり見られないことです。それだけ歴史と伝統があり、仮に主義主張が違ったとしても、お互いに高め合い、異なる意見もしっかり話し合って尊重してきた横浜の議会の良いところだと感じています。もちろん討論ではバチバチやることも多いですが、野党や無所属の議員も含めて他党の方々ともしっかり話ができますし、たくさん勉強させていただいてきました。
このように議会が長い時間をかけて積み上げてきた好例もあり、会派を割らないことが重要と考え、議員はそれぞれの判断で動くことになりました。
「〇〇と〇〇を比べて甲乙つけがたいから自主投票にするのなら分かる。でも、市長に出戻るのはあり得ないのでは・・・」そうした意見もあります。理屈は通っています。
ただ、選挙で重要なのは、方針が決まった以上、誰かを批判したり他人を蹴落としたりすることではなく、自らの信念に基づき、納得して市長選に、また候補者のために、さらには有権者に候補者の考え方や情熱を伝えるために、全力を尽くすことができるかだと思います。そして、選挙後に市長と対峙する際には是々非々で臨んでいきます。
❺おわりに
<9>まずはコロナ対策
繰り返しになりますが、今の横浜には強いリーダーシップが必要です。市政に無関心ではいられますが、無関係ではいられないのです。
二元代表制の地方政治では、市長と議会が対立構造になることがあります。しかし、それでは市民生活に混乱が生じます。まずはコロナ対策が最優先です。国や県とのスムーズな連携が求められ、多様な利害を調整する胆力と腕力が必要です。また、自然災害に強いまちづくりも急ぐ必要があり、防災担当大臣を務めるなど数々の実績を持っている<おこのぎ八郎さん>の力が必要です。
はるか未来の理想社会を思い描くことも大切ですが、地に足のついた現実社会を見る力も求められているのではないでしょうか。
政策はコチラから→前国務大臣おこのぎ八郎officialsite(hachIRou.com)
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遊佐大輔(ゆさだいすけ)プロフィール
◆1981年6月、横浜市南区生まれ。横浜高校へ入学し、野球部に入部。桜美林大学へ進学も、家業閉鎖により勉学の道を断念。
◆就職した民間ゴミ工場で下積みが転機となり、菅義偉・衆議院議員(現内閣総理大臣)の秘書に。
◆2011年、横浜市会議員選挙で初当選(10,554票)。2015年、2期目当選(15,791票)。2019年、3期目当選(17,799票)。
◆横浜市内の小学校・中学校における放射線測定の早期完了、全国初の崖地対策ルールづくり、いじめ防止対策、横浜市営バス・地下鉄の通学定期券の値下げ、議員定数削減などの改革を進める。
◆地域活性化と東日本大震災からの復興支援を目的に、『ゆさ祭り』を開催。縁日とおもちつき大会を通じ幅広い世代をつなぐ。
編集部より:この記事のオリジナル原稿は、2021年8月8日(日)以降に掲載される、横浜市会議員、遊佐大輔氏(横浜市南区選挙区、自民党)のホームページ(yusadaisuke.com)よりご覧ください。