データヘルスが生み出す価値を実現するために

このところ新型感染症の陽性者数は増加の一途を辿っている。ワクチン接種が急がれるが、とりわけ基礎疾患を抱えたなど重症化につながりやすい人々への接種を急ぐ必要がある。

しかし、接種券を郵送する際に、あるいは接種予約の時に重症化につながりやすい人を識別する方法はない。雑誌「病院」8月号に記事を詳しく書いたが、デンマークでは1977年から蓄積されてきた個人健康記録(PHR)を基に接種優先順位を決めている。わが国には同様の仕組みがないため、識別できないのである。

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診療記録などの医療データ、健康診断記録や毎日の歩数や摂取カロリーなどの健康データなどを組み合わせて利用するデータヘルスには、大きな可能性がある。

第一は、国民一人ひとりにもたらす価値。ワクチン接種の優先順位付けにも利用できるし、既往歴を医師が把握するのも容易になる。こうして、医療が効率化され、また有効性が高まっていく。自身の健康状態が見える化されるために、健康を意識して行動変容するという効果もある。

第二は、多くのデータを集積して研究開発に利用する価値。手術・検査の際に摘出された検体と医療データとを合わせて保存し、病気の原因解明や新しい検査・治療・予防法の研究開発に活用するバイオバンクはすでに動き出している。もちろん、利用するデータは匿名化されているので、個人が特定されることはない。

第三は、政府や地方公共団体が施策立案にエビデンスとして利用する価値。路面電車を多く利用する高齢者のほうが医療費は少ないと富山市が発表したことがあるが、これは路面電車の利用施策が健康増進施策に結びつくということだ。

デンマークなどの先行事例も参考にして、わが国でもデータヘルスを加速する必要がある。データヘルスの先には、医療のデジタルトランスフォーメーション(DX)が展望される。それは、新型感染症への対応だけでなく、医療システム全体を21世紀型に変革するためだ。

政府もデータヘルスの促進に動いている。SDGs未来都市(自治体SDGsモデル事業)でもデータヘルスに関連するモデル事業が選定されている。一方で、現行の法制度が壁になっていて規制改革が求められる分野もある。そもそも、医師がカルテを紙に記録していてはデータヘルスは進まない。町の診療所への電子カルテシステムの導入を急がなければならない。

情報通信政策フォーラム(ICPF)では、8月30日に「データヘルスの今後を俯瞰する」と題して、山本隆一医療情報システム開発センター理事長に講演いただく。どうぞ、皆様ご参加ください。