「東京五輪開催」ありがとう!

第32回東京夏季五輪大会は8日、成功裏に幕を閉じた。新型コロナウイルスの感染拡大下で大きな不祥事もなく、17日間の競技を無事終了したということは、ホスト国日本が世界に誇ることが出来る大きな成果だ。3年後の次期パリ夏季五輪開催地関係者は東京大会の成功を誰よりも喜んでいるに違いない。東京夏季五輪大会は今後の五輪開催に勇気と希望を与えたことは間違いないだろう。

▲東京夏季五輪大会の閉会式(2021年8月8日、オーストリア国営放送の中継から)

▲閉会式でオリンピック旗が降ろされる(2021年8月8日、オーストリア国営放送の中継から)

東京五輪開催反対の声が絶えない最中での五輪開催は関係者にとって厳しい試練だっただろう。新型コロナの感染拡大を最大限に阻止し、選手村での感染拡大といった悪夢もなく無事運営できたことは大きな成果だ。五輪反対を主張してきた国民も日本人選手の活躍にはやはり感動したのではないか。金27個、銀14個、銅17個の獲得メダル数は歴代最高だ。選手たちが成し遂げた実績はホスト国日本を助け、勇気づける結果となった。100点満点ではなくても80点以上の合格点を取れる成果だ。同時に、コロナ禍でトレーニングも十分にできないような環境下で努力を重ねた選手たちに拍手を送りたい。

目を当方が住むオーストリアに移す。アルプスの小国オーストリアにとっても忘れることができない大会となった。金1、銀1、銅5の計7個のメダルを獲得したのだ。メダル総数では2004年のアテネ大会の8個に次いで歴代2番目の成果だ。国民にとって最高のエキサイティングな五輪大会となった。

▲東京五輪大会で新風を巻き起こしたアンナ・キ―ゼンホファー選手(2021年7月25日、オーストリア国営放送の中継から)

その大きな成果の切っかけを与えたのは女子自転車競技ロードレースのアンナ・キ―ゼンホファー選手の快挙だ。2004年のアテネ大会ぶりの金メダリストの誕生だった。同選手はプロの自転車競走選手ではなく、大学で数学を教えている学者であり、他の選手からはノーマークだった。そのアンナが総距離137キロのロードレースで他のプロ選手を圧倒し、大差をつけてゴールを切ったのだ。米CNNも同選手の活躍を大きく報じていた。

アンナの金メダル獲得に刺激を受けたオーストリア選手団はその後、柔道で女子70キロ級で銀1、男子81キロ級で銅1個を獲得し、「欧州の柔道王国」といわれた同国の名声を復活させた。その後、空手女子組手55キロ級、男子円盤投げ、ボート女子シングルスカル、男子スポーツクライミングでそれぞれ銅メダルを獲得した。国民の中で誰が開催前に7個のメダル獲得を予想しただろうか。

「わが国はウィンター・スポーツ国だ。夏季五輪ではメダルを期待しない」と考えていた国民は連日の選手の活躍に大喜び。長いコロナ規制もあってコロナ・ブルーな状況にあった国民が生き生きとなった。大会を中継するオーストリア国営放送スポーツ担当者は、「またメダルを取りました」と笑顔で報道。大会開催前まで、「東京は新型コロナ感染が拡大し、五輪大会開催は厳しい」といったネガティブなニュースだけを報じてきたことなど忘れ、国民と一緒になって大騒ぎとなった。東京五輪大会は国民のコロナ・ブルーを吹っ飛ばしてくれたのだ。

当方は東京五輪大会の競技をTV観戦してきた。そこで感じた点をここに記す。

「スポーツ」と「スポーツ競技」とは全く違ってきたという印象を強く受けた。人は体を動かすことに喜びを感じる。スポーツは心身の健康維持には欠かせない。しかし、スポーツがいったん競技となれば、その喜びも減少し、成績のために汗と努力が求められ、時には人間の体力の限界点まで酷使しなければならない。それに伴い、選手たちはさまざまなメンタルな健康問題に直面する。一流選手となれば、大企業からスポンサーがつくから、一層結果を求められる。選手たちは過剰なストレスを感じざるを得なくなるわけだ。

米女子体操選手で今回の東京五輪では金メダル確実と見られ、期待されてきたシモーン・バイルス選手(24)が先月27日、女子団体戦を途中棄権し、29日には女子個人総合に出場しないと表明、関係者を驚かせた(幸い、同選手は再び競技に参加した)。東京五輪大会の開会式で聖火ランナーの最終走者を務めたプロ女子テニスの大坂なおみ選手も国民からの期待が大きいだけに大変だっただろう。スポーツ選手のメンタルヘルスは今後大きな課題となる。

東京五輪の『金メダル』は国を救う」という見出しのコラムを書いた。五輪開催反対といった声もメダルの獲得の報の前に小さくなっていったが、17日間の五輪開催期間中、選手村以外の東京を含む日本各地で新型コロナの新規感染者数は急増してきている。

国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長は8日の閉会式で、「東京五輪大会の開催はコロナ禍で苦しむ世界の人々に希望と連帯、平和をもたらした。困難な状況下で五輪を開催できたのはホスト国日本のお陰だ。日本の国民にありがとうを言いたい」と述べている。

日本の国民は過酷な状況でも五輪開催に成功し、世界に向かって希望と夢を与えることができたという誇りを忘れることなく、次は新型コロナの感染防止のために結束してほしい。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2021年8月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。