スウェーデンで始まった戦争犯罪裁判が、イラン新大統領断罪か

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8月10日火曜日午前9時(日本時間午後4時)15分、ストックホルム地方裁判所第37号法廷で、1988年にイランで「重大な国際法違反(戦争犯罪)と殺人」を犯した罪で起訴されたイラン人弁護士ハミド・ノウリ(本名ハミド・アッバシ)の裁判が始まった。スウェーデン史上最大の国際刑事事件は来年4月まで続く。ノウリの裁判を通じ、エブラヒム・ライシ(エブラーヒーム・ライースィ)新大統領の果たした役割が明らかになるかもしれない。

公判では、世界のさまざまな地域からの犠牲者、目撃者、および専門家の意見が聞かれる(ストックホルム地裁事件番号:B15255-19)。

2名の参審員(うち1名が裁判長)と4名の裁判官が事件を判断する。

カーレソン検事コメント

「戦争犯罪は、国内法だけでなく、国際法上最も深刻な犯罪行為の一つです。これらの犯罪は非常に重大と見なされるため、誰が犯したか、どこで犯したかに関係なく、国内裁判所は必要に応じて訴訟でき、かつそれを義務付けられる。したがって、『普遍的管轄権』原則により、スウェーデンで訴訟手続ができます」と、カーレソン検事は述べている。「起訴に至った広範な調査は、これらの行為がスウェーデン領土外で30年以上前に行われたにせよ、スウェーデンで訴訟対象となることを示しています」。「スウェーデンの国内法には、2014年7月1日より前に犯された『人道に対する罪』は含まれておらず、適用できませんでした。したがって起訴は、国際法に反する犯罪つまり戦争犯罪と、殺人です」。

戦争犯罪

イラン・イラク戦争最終段階の1988年、政治組織イラン人民「ムジャヘディン」がイラン軍を攻撃。イランの最高指導者アヤトラ・ホメイニは、イランの刑務所に収容されているムジャヘディン支持の囚人を処刑する宗教令(ファトワ)を出した。これに従い、同年7月から8月の間にイラン西部カラジュにあるゴハーダシュト刑務所(現ラジャイシャー刑務所)でも囚人多数を処刑。同刑務所の副検察官補佐を務めていた被告人は大量処刑に関与、さらに、拷問と非人道的な扱いで囚人を虐待した疑い。ライシは当時テヘランの副検察官で、約5千人の収容者の処刑を命じた「死の委員会」の4名のメンバーの一人だった。ムジャヘディンの攻撃は、イラク領土でイラク軍と協力して行われた。武力紛争と大量処刑には関連性があり、それが「国際人道法」に違反する重大犯罪と見なされる理由。

殺人

他にも被告人は、左翼支持者にして背教者と見なされた囚人多数を殺害した疑い。これは武力紛争に関連せず、スウェーデン刑法に従って殺人と分類。

傍聴

法廷(37号室)の傍聴席は限られているため、事前登録のメディア対象。プレスIDが必要。メディアのために別室(部屋2)にも傍聴席を設け、法廷からの画像と音声を送信(最大25人)。パンデミックのために適用される推奨事項を遵守。検察を支援し、ペルシア語で裁判をフォローしたい原告のために、敷地内の合議室(部屋6)に傍聴席。公判の画像転送とペルシア語への同時翻訳付き。

目撃者

ライシ新大統領と緊密に協力したノウリを特定。ノウリは、2019年11月9日、親族訪問のためイタリア経由でストックホルムのアーランダ空港に到着直後に逮捕された。拘留命令は、検察官に起訴の準備時間を与えるため20か月延長。ゴハーダシュト刑務所の元政治犯で目撃者イラジ・メスダギによると、当時の刑務所で、ハミド・ノウリ(本名ハミド・アッバシ)は、「死の委員会」へ囚人を連行する選別役だった。日常的な暴行時、ノウリのIDカードがポケットから落ち、メスダギは目隠しの下からそれを見た。「死の委員会」室へ向かう「死の回廊」で、ノウリは「死の従僕・死の配達人」を務めた。囚人の遺体は冷蔵トラックで運び去られた。ノウリは、トラックがどこに向かったか知っている。ライシは、2019年11月4日の演説で、聖職者支配はシャリア法に基づいており、政権は決して「宗教原則」を放棄しないと強調

ライシ新大統領

8月3日、最高指導者ハメネイの承認後、ライシは公式の就任宣誓のため議会出席。2019年、ライシは司法長官に任命され、大勢の囚人の処刑を個人的に支持。同年11月の平和的な抗議者に対する血なまぐさい弾圧でも主導的役割。

捕虜交換

イラン系スウェーデン人でカロリンスカ研究所(KI)研究員アフマド・レザ・ジャラリは、イスラエルの諜報機関モサドと共謀したとしてイランで死刑判決を受けていたが、執行前の待機房に移された。これが、彼とノウリを「捕虜交換」しようという、イラン側の合図だという。いくつか前例がある。カールソン検事は、捕虜交換は知らないと言う。スウェーデン外務省はノーコメント。

通報者

元囚人メスダギは、1994年からストックホルムに住む作家で人権活動家。大量処刑に関する本や記事を書いている。メスダギにノウリの入国を告げたのは、ノウリの養女の元夫ヘレシュ・サデグ・アヨビである。アヨビは元妻と離婚時の子供の親権争いで、威圧的な義父の正体を知った。メスダギとその協力者は、「ハニートラップ」を仕掛け、ノウリを招待した。義父から連絡を受けたアヨビは、ストックホルム警察に通報

陰謀論

NCRI (The National Council of Resistance of Iran) が公表したモハマド・モギセイ(ノウリと親しい当時テヘランのエビン刑務所の尋問・拷問者)の秘密録音によれば、モギセイは、スウェーデンはアヨビを通じてノウリの動向を知っていたと強調。「(ノウリに)行くなと言った」。彼も、「自分はおそらく逮捕される」と言う。「それでは、なぜ行くのか?」 彼は誰かと諍いがあり、それで訴えられた。スウェーデンには、元娘婿のイラン人パイロットがいる。そいつがストックホルム警察に、義父は[イラン]政権で活動していると言った…」。

イラン政権はノウリに不満? 陰謀か? ノウリが自らスウェーデン行きを選んだか疑わしく、政権は、大量処刑の主要人物の一人として彼を披露することで、目をノウリに集中させるよう計画。ノウリの役割を大きく見せ、虐殺におけるライシの責任をそらそうと企んでいるのだと。

ルンディン事件(今秋にも公判開始か)

スウェーデンは、他にも大型事件を抱えている。南スーダンのルンディン事件において、同社側は長すぎる調査はかえって人権違反と主張したが、7月29日、最高裁は調査継続を命じた。国際刑事事件専門の英国勅撰弁護士スティーブン・ケイは、同社の委嘱を受け、NGOが収集した証言の価値を疑問視し、同社の主張を補強したが容れられなかった。ヘンリク・アトルプス検事は、1年前に調査完了を宣言、おそらく今秋には公判を迎える。

パリのユニクロ等調査(ウイグル問題への影響)

仏検察は7月1日、ユニクロ(ファースト・リテイリング)など4社の調査開始。NGO3団体が4月9日、中国・新疆自治区のウイグル人の強制労働に加担したとして、4社を告訴していた。オーストラリア戦略政策研究所(ASPI)の2020年3月報告書が、世界82社がウイグル人の人権を侵害する現地企業と取引と指摘したのに基づく。「人道に対する罪」の共犯をいい、フランスの「(補充的な)普遍的管轄権」による。スウェーデンの動向次第で、太陽光パネル問題等、更に勢いづけられるか。