新型コロナを乗り越える航海図。ワクチン?カクテル?行動制限?

8月12日に東京都の新型コロナモニタリング会議が開かれ、新型コロナ対策の補正予算が発表されるなど、東京都においては、新型コロナ対策の次の一手が示される一日でした。

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1.東京都の感染状況と医療体制について

モニタリング会議とは、感染症法などの専門家が都内の感染状況や医療提供体制を定期的に議論する会議ですが、先日の報告では

「新規陽性者数が急増しており、制御不能な状況」

「通常医療も含めて医療提供体制が深刻な機能不全」

といったコメントがあり、非常に厳しい状況であるとの認識が示されました。

この会議を受け、副知事の宮坂学さんはご自身のnote

  1. (有事には)迷ったら臆病な方を選ぶ。
  2. 発災時はまず逃げる。
  3. 科学と科学者を信じる。
  4. 一次情報の利用。

が大切だとして、「デルタ株から大切なものを守る行動を」とってください。とメッセージを発しており、危機感が伝わってきます。

2.東京都の独自策は「若者向け広報10億円」

これと時を同じくして、東京都では新型コロナ対策の補正予算が発表されました。

正直言って、あ然としました。

もちろん、ここにあるだけが対策の全てではありませんが、モニタリング会議における専門家の言葉を正面から受け止めるのであれば、明らかにフェーズが変わったのであり、だとすれば、それに対応する補正予算としてはあまりにも不足しています。合計で1,556億円と、その規模だけ見れば大きい金額ですが、その多くは飲食店や商業施設への協力金と酒類販売事業者等への給付金であり、新たな対策は「ワクチン接種促進キャンペーン」くらいなものです。

この「ワクチン接種促進キャンペーン」は、すでにいくつか報道されていますが、

若者向けの広報PRが7.5億円、ワクチン接種者に対するポイント付与アプリの開発などに2.5億円という内容です。

 3.新型コロナ対策は、感染抑制と感染受容の天秤

新型コロナ対策は、結局のところ、「どのリスクをとるのか」という議論に集約されます。

感染受容とは私の造語ですが、医療提供体制をはじめとして、感染が広がった状態をどの程度受け止めることができる社会かということであり、それは世論も含めた国民感情も含まれます。

感染抑制とは、不要不急の外出自粛をはじめ、人々の行動変容によってどれだけ感染を抑えた状態を維持できるかということであり、感染受容を高める時間を確保するために感染抑制を図るというのが新型コロナ対策にのぞむ政治家にとって、最も重要な観点だと思っています。

国では「感染症法上の位置づけを2類から5類へ」という議論が巻き起こっていますが、なぜ今議論するかと言えば、現在の「感染→入院(宿泊、自宅療養)」という対応が変わることで、結果的に医療への負荷が下がるためだと私は捉えています。

実質的に通常医療に制限が加わっている現状において、他の病気が後回しされてしまうリスクとの天秤、つまりどちらが多くの健康と命を守れるかという物差しを持たなければならないものであり、非常に重い決断をすることになります。いまだ特効薬が確立されていない状況においては、難しい議論となると予想されます。

また、国の専門家会議では「7/12時点の5割に人流を抑えてほしい」との話も出ていました。

感染抑制のために行動抑制をさらに強めるべきとの考えですが、行動抑制には社会経済に多大な影響を与えることが分かっているだけでなく、すでに行動抑制が効かない状況が生まれており、その効果には懐疑的な立場です。そもそも感染症を制御できると考える方が間違いなのかもしれませんが、これまで国民の(時に犠牲も伴う)協力によって、感染抑制には一定の効果をあげてきました。しかし、繰り返される緊急事態宣言への慣れと補償なき行動抑制への反発は大きく、政治家の呼びかけは届かない状況があります。

加えて、全国では今年に入って2000件に迫る企業が負債を抱えたまま倒産しているとの報道があり、また、東京都の税収は3,000億円以上減るのではないかという話も聞こえてきています。国では30兆円規模の経済対策がうたれるとのことですが、感染抑制=行動抑制施策をするには、その裏で多額の経済対策が必要になるという意味での天秤も見ておく必要があります。

4.都道府県の役割は?

では、東京都としてはどのような対策をとるのかが注目ですが、ワクチン接種に力を入れる方針であることが分かります。

この数か月間の取組をみると、独自の大規模接種センターの設置が進められ、今回の補正予算で若者のワクチン接種を促進する取組をすることからも考えをうかがい知ることができます。

小池知事が連日不要不急の外出自粛、テレワークの徹底という言葉を伝えるのは、ワクチン接種が進むだけの時間を稼ぎたい、そのために感染抑制を図りたいという意図だと思います。限られた医療資源をワクチンに振り向ければ、自ずと医療・宿泊・自宅療養に振り向ける医療資源は限られてしまいます。そこで行動抑制の出番になるわけです。

一方、大阪府では、病床確保や宿泊療養施設確保の取組を強化するそうです。

これは、感染受容に力を入れた政策であり、本来であれば最もコントロールしやすい領域であるはずです。この点、都においては保健所のマネジメントがうまくいかずに入院調整がまわらなかったり、宿泊療養が部屋数の3割程度しか稼働できなかったり、自宅療養者のフォローアップ回線がパンクしていたりと様々な問題点が指摘されています。

追記)
また、13日の知事の記者会見では宿泊療養施設において抗体カクテル療法を実施できる体制を整えていくという方針も示されました。ワクチンと抗体カクテル療法が「攻め」、人流抑制や基本的な感染対策が「守り」の戦略であるとの認識がしめされました。

こうした視点で見ると、限られた医療資源やその周辺をどのようにマネジメントしていくのか、が都道府県に課せられた最も大きな課題なのだと思います。

5.新型コロナを乗り越える航海図が欲しい

新型コロナによって、医療提供体制も社会経済も非常に厳しい状況に陥っています。しかし、感染症法上の位置づけを変更する議論までできるようになったということは、ワクチンの接種状況などを踏まえて、科学的・客観的にゴールが見えてきたことを示唆していると思います。

一方で、政治や行政と離れて生活をしている生活者目線では、断片的な情報しか入ってこないこともあり、政府や専門家の見ている景色が見えないことも課題です。

12日の東京都モニタリング会議では、

災害レベルで感染が猛威を振るう非常事態である。この危機感を現実のものとして皆で共有する必要がある。

とのコメントもありましたが、危機感を共有するだけでは新型コロナを乗り越えることはできないのだと思います。

簡単ではありませんが、新型コロナを乗り越える航海図を示す政治家が現れることを期待しつつ、8/18~20に行われる都議会の論戦を見守りつつ、一緒に考えていきたいと思います。

昨日自宅で書きかけた航海図もどき(笑)