東京五輪を無事に終え、24日からはパラリンピックの幕が開きます。
バイデン政権は、五輪開会式にジル夫人を派遣し、パラリンピックにはセカンドジェントルマンもといハリス副大統領の夫君、ダグラス・エムホフ氏に白羽の矢を立てましたね。
五輪閉幕直後の日米首脳会談でも、きっと話題になったに違いありません。強固な同盟関係、信頼の証と言えるのではないでしょうか。
このような状況下、俄然注目されるのが北京冬期五輪をめぐる各国の対応です。4月6日に参加ボイコットにつき「同盟国と協議したい」と発言後、これを撤回した国務省のプライス報道官は、8月10日には「未定」と発言していました。
共和党陣営は、こちらでお伝えしたように外交・経済ボイコットを提唱してきました。民主党からも遂に声が挙がり、東京五輪の開催日7月23日に合わせ超党派の「中国問題に関する連邦議会・行政府委員会(CECC)」に属する上下院議員4名は、国際オリンピック委員会(IOC)に対し、書簡で中国政府が方針を改めなければ、①2022年2月開催の冬期五輪の開催延期、②開催地の変更―などが必要と主張したものです。
米メディアも、黙っていません。7月25日付けのワシントン・ポスト紙では、バイデン政権との関係が近いと目される論説委員のフレッド・ハイアット氏が、大手日系自動車メーカーの東京五輪での広告見送りを受け「不幸にも、間違った(wrong)五輪をボイコットしている」と批判。4月時点で、北京冬期五輪の米スポンサー企業に「大虐殺五輪」への不参加を呼び掛けていたわけですが、その対象を日本に広げていたものです。
さて、足元の米政権及び米議会の対中政策を振り返ると、ウイグル人などイスラム少数民族の弾圧や人権問題が主軸となっているように見えます。
1)6月3日 中国59社への証券投資を禁止
→バイデン氏、安全保障上の理由から中国企業59社への証券投資を禁止する大統領令に署名。ウイグル人権問題に絡み監視技術を扱う企業を追加。
2)7月13日 ウイグル関連のサプライチェーン利用で「法令違反のリスク」と警告
→バイデン政権は7月13日、中国の新疆ウイグル自治区でのサプライチェーンに関与すれば「法令違反のリスクが高い」と警告。同問題で、バイデン政権で初の警告文書に。
3)7月23日、超党派議員、東京五輪開催にあたってIOCに北京冬期五輪の延期などを要請
→「中国問題に関する連邦議会・行政府委員会(CECC)」の指導部にあたる超党派の上下院議員4名は7月23日、東京五輪開催に合わせ、国際オリンピック委員会(IOC)に対し、書簡で中国政府が方針を改めなければ、①2022年2月開催の冬期五輪の開催延期、②開催地の変更―などが必要と主張。
北京冬期五輪を前提にするならば、同盟国と共同戦線を張りたい意図が透けてみえます。日本を始めQUADであれば半導体などサプライチェーン問題でも協力体制が構築されつつありますが、G7でバイデン氏が提示した「国際フォーラム」は立ち上げ合意という報道は伝わってきませんでした。だからこそ、バイデン政権は欧州と足並みをそろえよう共通の対抗軸であるウイグル問題をテコに、一致団結を目指そうとしているのでしょう。そもそも、米中一騎打ちですと、貿易戦争などに発展してコロナ禍での米経済回復に水を差しかねませんからね。
現時点で北京冬期五輪への対応を決定していないバイデン政権ですが、8月11日に民主主義サミットの開催を発表しました。12月9~10日の開催を予定し、中ロを念頭に入れた民主主義の価値観を有する国との連携を図る見通しですが、タイミング的に、北京冬期五輪の外交ボイコットを発表するのではとの連想が働いてしまいます。
その一方で、バイデン政権は足元で中国に接近しつつあります。直近ではシャーマン国務副長官が7月29日に訪中し王毅外相らと、8月12日には7月に着任した中国の秦剛駐米大使と立て続けに会談していました。さらに、数ヵ月以内に、イエレン財務長官を気候問題や対中追加関税などを広範な議題について協議すべく訪中させる方針とも伝わっています。イタリアで10月30~31日に開催予定のG20首脳会議に合わせ、習近平主席との首脳会談を目指すとの報道もありましたが、北京冬期五輪の外交ボイコットを見据え、強硬路線を打ち出す裏側で、対話の糸口を引き出すべく調整を試みているようにもみえます。
そもそも、バイデン政権は中国に配慮した行動で知られます。日米首脳会談を演出した4月には裏でケリー特使を訪中させ、6月3日の中国59社投資禁止を発表する前日、対中追加関税などの見直しに取り組むイエレン財務長官と、米中貿易交渉の中国側代表である劉鶴副首相が初の電話会談を行っていました。
ではなぜ、中国に配慮する姿勢を打ち出すのでしょうか?ラジオNIKKEI「北野誠のトコトン投資やりまっせ。」でご説明した通り、米国にとって米中関係の悩ましい裏事情があるためです。
例えば、中国携帯メーカーのシャオミをみてみましょう。トランプ前政権で人民解放軍との関与が取り沙汰され20年11月に投資禁止リストに加えられたシャオミは、連邦地裁の判断もあって、今回バイデン政権が発表した投資禁止リストから排除されました。そのシャオミ、蓋を開けてみると上位株主には米欧系運用会社が並びます。シャオミが組み入れられている米国上場ETFは少なくとも62銘柄とあって、10位以下にもステート・ストリートなどが控えており、米国投資家やウォール街を考えると、厳格化しづらい側面があると言えるでしょう。裏を返せば、中国政府にしてみれば「肉を切らせて骨を断つ」の言葉通り、足元の規制強化により米国投資家の財布を間接的に痛めていることになりますね。
そもそも、米国からの中国への投資は証券投資がメインで、中国市場が急落すれば米国も無傷でいられません。米商務省のデータによると、20年末までの米国による対中直接投資(ストック)は1,240億ドル。ただし、ロディウム・グループの試算でみた20年末時点の対中証券投資は1.2兆ドルと、直接投資の10倍に及びます。
特に、米国からの証券投資は株式が9割を占めます。世界の株式市場を時価総額ベースでみた場合、中国の株式市場は香港と合わせ17.4%を占めますから、ウォール街も米国投資家も、中国をスルーしづらい現状があります。
バイデン政権は対中政策で強硬寄りの姿勢を打ち出しながら、常に厳しい判断を下す局面で中国に配慮しているように見えるのは、こうした背景が一因と想定されます。北京冬期五輪に向け仮に外交・経済ボイコットを進めるならば、真っ向から対立は避けたいところ。だからこそ、多国間主義の枠組みを取り真っ向からの勝負を控えるべく、中国との対話の窓口維持のため腐心しているのではないでしょうか。
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2021年8月13日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。