投資市場で秋の暴風があるとすれば…

2020年3月から株式市場ではコロナを踏み台に着実に株価を上昇させ、北米市場は史上最高値を更新し続けるなど好調を維持しています。残念ながら、世の中、良いことがずっと続くことはそうそうあるわけではなく、相場の歴史を見ても投資家のすそ野がひろがり、いわゆる初心者が盛り上げ始めると転換期になるケースは多く存在しました。

18percentgrey/iStock

私はこの秋は要注意かもしれないと何度か警告を発してきました。そのいくつかの理由を述べましょう。まず、この1年5か月になる株価上昇はコロナで一旦暴落した株価に対して通常であればこの企業の株価はこうあるべき、という仮定を前提として株価のみが先行して回復してきました。次にコロナでやることがない、支出先もない、政府からの様々な支援金が入るといった環境の下、個人投資家が小銭稼ぎで市場に参入しました。

政治の世界では大統領がバイデン氏に代わることでどのような影響があるかを注視し、市場は大統領就任後の100日ルールを待ち、同氏の正面からの評価を避けてきました。その間、ワクチンの接種が進み、北米の経済正常化が進み、現実の経済回復で株価と企業業績の乖離が縮まってきました。

問題はここからです。今、更に株価の上値を追う材料があまり見当たらないのです。株価は先行指標ですので半年先に株価が大きく跳ね上がる何かがあればそれを先取りしようとするのですがこの春からその材料探しをするもほぼ見つからない状態にあります。

ではネガティブなインパクトは何でしょうか?一つはコロナが収まらないことで世界の生産基地であるアジアの工場の稼働が十分ではなく供給難が起こりかねないこと、二つ目に中国の民間企業に対する強力な規制で中国株投資の妙味が萎んでしまったこと、威勢の良かったGAFAMからも革新的な話題が上がってこなくなったこと、おまけにテスラの自動運転にケチがついたこともあります。さらにはインフレの台頭をどう理解するか市場の理解が一致していないこともあります。

過去、市場が暴風に見舞われた時には必ずトリガー(引き金)となることがあります。リーマンショックでも2008年夏前には不動産がピークアウトしていたのは分かっていたのですが、大暴落はリーマンブラザーズの崩壊といった誰にでもわかるショッキングな事態を契機としたのです。

では今回、そのトリガーは何になるのでしょうか?私はキャシーウッド氏の旗艦ファンド、ARKK イノベーションETFに着目しています。キャシーウッド氏という名前を聞いたことがある人は日本ではまだ少ないかもしれませんが、彼女は女性版ウォーレンバフェットとも称される腕利きのファンドマネージャーです。最近はオピニオンリーダーとしてもっとも名が売れている投資指南家の一人といってもよいでしょう。

ARKKはハイテク銘柄を中心に運用を展開、2016年には20ドル弱だったETFが21年初めに150ドルを超えるようなパフォーマンスをします。個別銘柄ではなくETFである点がすさまじいのです。ところがその後、苦戦をし、キャシーに対する冷めた目が一部プロのファンドマネージャーに醸成されているのです。特にキャシーが中国のハイテク銘柄を梃にファンドの成績を上げてきた中、中国の規制強化による中国ハイテク株の下落で7月までにほとんど売却せざるを得なくなるなど現在は防戦を余儀なくさせられています。

ここで「世紀の空売り」で知られるマイケル バーリ氏がキャシーのETFに対して34億円相当のプットオプションを購入したことがわかりました。(つまり下がれば儲かるということです。)34億円なので規模的には小さいと思いますが、バーリ氏がはじめから全面対決の姿勢を見せるわけがないのでこの後、時間をかけて縛り上げ、ARKKの資金を流出させ、ある時に一気に売りをかけ、大暴落させるという算段を考えているものと思われます。

もちろん、このプロ同士の戦いがどうなるか、誰も予想はできません。ただ、市場の環境は決して良くはないのです。FRBは金融緩和の姿勢をいつ転換するか、そのタイミングを見計らっています。バーリ氏はFRBが先に踏み込み、市場が緩くなったところで攻めるとみています。

今回の展開については1999年に破綻したロングタームキャピタルマネージメント(LTCM)の事例は短期間でのパフォーマンスという点で似ているところがあります。当時、破竹の勢いだった同ファンドがアジア危機/ロシア危機に直面し、一瞬のうちに破綻したのです。また、ARKKのポートフォリオと孫正義氏のソフトバンクビジョンファンドの性質が似ているところも気になっています。

金融の世界は時として実体経済とまるでかけ離れたゲームが展開されています。それがうまくバランスしながら機能していればよいのですが、私にはこの金余り現象による投資の世界があまりにもいびつに見えるのです。ミーム銘柄なんていうのが取りざたされる時点で本質的には終わっていると考えてよいでしょう。

そのあたりを勘案するとどうしても強気になれない理由は分かっていただけると思います。もちろん、私の懸念がまったく筋違いであることを望んでいます。今日の内容も予想屋として書いたのではなく、モノの見方の一端としてご紹介したものです。もう、8月も中旬を過ぎ、目線はジャクソンホールの会議、そして秋の相場が視野に入っています。さて、どうなるのか、私はやや腰を引いた状態で見守ることにします。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年8月18日の記事より転載させていただきました。