あなたは見られている!盗まれる情報

著名人の不都合な事実を暴く文春砲がいまだ、社会現象的ですが、よく考えてみればかなり無理をしてその個人の隠されたある事実をネタに金稼ぎしているのです。コンピューターのハッカーが悪者だと思う人は100人中100人だと思いますが、週刊文春のビジネスモデルを悪者だと思う人は2-3割しかいないかもしれません。しかし、ビジネスモデルを突き詰めれば結局、人のあら捜しをしてそれで儲けようとしているのですからハッカーと「同じ穴の狢」である気がします。

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さて、技術の進歩は我々の生活を豊かにする、こんなキャッチに近い標語は耳にタコができるほど聞いてきました。一方、その陰に忍び寄る悪者については過小評価であったと思います。

オピニオンリーダーのイアン・ブレマー氏が最近の寄稿で「忍び寄るスパイウエアの脅威」と題してイスラエルが開発した恐るべきスパイウェア「ペガサス」を紹介しています。これはスマホに侵入し、持ち主の監視と秘密を抜き出す能力を持つとされ、通話は盗聴、位置情報で場所は丸見え、パスワードからメール内容をチェック、スマホのカメラ機能であなたを撮影し、音声を録音します。

もちろん、このスパイウェアが一般社会の話ではなく、ごく一部の影響力ある人同士のスパイ活動の一環だろうとは思います。ただ、相手に侵入するという行為は決して難しいものではなく、誰でも簡単にそのリスクの可能性はあるのです。

実は私もハッカーにやられそうになりました。「お前を見ている。秘密を所持している。ばらされたくなかったら500ドル相当のビットコインを払え」と。この「お前を見ている」がとても嫌でした。はじめ、どのディバイスがやられたのか、それの絞り込みをしなくてはいけないのですが、私が見られる可能性があるものは一つしかありません。そこですぐにパソコンの初期化を行い、メールのパスワードは分かりにくいものに変更しました。

併せてカナダの警察に連絡したのですが、つれない返事。「君はまだ何も盗まれていないだろう。だから警察は対応できない。ハッカーが何か君を脅すネタを具体的に見せたか?普通、ゆするものを見せて『これをお前のフェイスブックに載せるぞ』といった具体案を示すものだが君のケースはそれがない。よって単なるゆすりだから放置せよ」と。

つれないながらも警察からそういわれると奇妙な安心感があり、確かにその後、今のところはなにも起きていません。

不審なメールはウィルスソフトが検出してくれることが多いのですが、一時期増えたのが不審な電話。かかってくる日には一日10件ぐらい。そのたびに番号を着信拒否にしていったらこれもすぐに止まりました。

オンラインストアをやっている者としてチャージシステムも頭痛の種です。時として短時間にとてつもない数のアクセスがあります。16桁のクレジットカード番号、4桁の有効期限、および裏の3桁の番号の組み合わせをコンピューターを介してあらゆる組み合わせを試すのです。何万回、あるいは何十万回といった規模です。当然、システムダウンが起き、カード会社からもいろいろ言われます。では、彼らはなぜ1000円ぐらいのものを買うのにそんな大層な攻撃をするのかといえば「使える番号を探すこと」を目的としているです。つまり、リストや候補の洗浄とでも言いましょうか?宝くじを当てるような感じで当たったらそれがお宝となり、短時間にほかのところで一気に悪さをするのです。

もちろん、私どもでできることはあります。不正と思われる場合、バッチ処理をしないようにして怪しいと思われる商品購入を拒否するといった対応はとります。しかし、ここまで聞いてお分かりの通り、それを行う手間暇と管理は決してたやすくないのです。

かつてレンタカー事業をやっていたのですが、やめた理由の一つに不正支払いがあったことです。つまり借りる人が盗んだクレジットカードで支払いをするのです。今や、借り手とカード所有名義をチェックしませんのでそのカードが盗まれたものかどうかは分からないのです。そして不正に借り出した車は多くのケースで麻薬などの取引に使われたり、車を予定日までに返却せず、その後、登録されたクレジットカードが使えなくなっているなど非常に頭の痛い結果になっています。クレカの問題は実務経験者ではないとわからない驚きのトラブルはいくらでもあるのです。

我々の社会ではコンピューターがより浸透してきています。しかし、コンピューターのハックはいつでもどこでも起きうる世の中の最大の敵となりつつあります。自動車がネットでつながった時、そこにハックするような事件も起きるでしょう。自動運転が怖いのはそのような悪さをする人間が意図的に車を乗っ取り、操作することです。これはあまりにもネガティブなのであまり言いたくはないですが、そんな映画のような事件もありうるわけで、もっと安全対策にフォーカスをすることは今後重要な課題となるでしょう。

私は2020年代は変革の10年だと思っています。一方、この留まるところを知らない技術の深化と悪事の凶暴化にビジネスをする者として押し負けそうになることもあります。それぐらい我々の社会は複雑化し、安心安全はタダでは確保できない社会になってきたともいえるのでしょう。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年8月22日の記事より転載させていただきました。