昨日のおくちゃんねるでは、旭川いじめ自殺事件の受け、いじめをなくしたいと思った方に知ってほしいことをお話ししました。報道で知った時には、私自身もダメージを受けてしまい、お話しするかどうかためらいましたが、こうした機会でなければ、興味をもって、知ってもらうことすらも叶わないのではないかと思い、力を振り絞ってお話ししました。
データなどについては、東京都の例でお話ししますが、ご自身の自治体にも同様の調査があるはずで、おおまかな傾向は変わらないはずです。
1.いじめの実態を知る
動画の中でもお話ししましたが、東京都では
「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」
が行われ、その中でいじめの実態を報告しています。
2011年に起きた大津市でのいじめ自殺事件がきっかけとなり、
2013年にいじめ防止対策推進法が制定されたことから、
いじめとは何か定義し、かくすことなく、実態把握をしていくことがはじまりました。
いじめの認知件数のグラフを見れば一目瞭然ですが、
それまでいじめとして認識されていなかったものも明らかになり、認知件数は大幅に伸びています。
しかし、間違えないでほしいのは、いじめとして認められた、気づいてもらえた件数が増えているのであって、いじめそのものは元々あったということです。「ある」のに、「ない」ことにされていれば、「解決する」ことは決してありません。いじめがあることを認識し、早期に対応することで「解決する」ことが最も大切なことです。
一方で、今回の旭川のように、いじめ自体をかくそうとしたり、気づかないふりをするケースは残っていると考えられます。
東京都では、小学校の5%、中学校の8.5%、高校にいたっては69.2%、特別支援学校は83.9%の学校がいじめが「ない」と回答しています。
また、心身や財産に被害があったり、長期欠席につながる重大事態については、高校では1件も起きていないとのことです。
いずれも、にわかには信じられません。
また、学年が上がるにつれて、いじめの認知件数が下がりますが、ネットいじめなどに移行しており、認知できなくなっている可能性もあります。
2.いじめゼロは可能か
私も以前は、「いじめゼロ」を目標にしていた時期もあります。
いじめの起きない環境づくりのことを「未然予防」と言い、学校の授業などでも常に意識されていることです。しかし、そもそも当事者(被害者も加害者も)が、いじめを認識していないことも多く、減らすことはできてもゼロにすることは不可能だと考えています。
一方で、「いじめによる重大事態ゼロ」は可能だと考えます。
いじめがエスカレートする前の初期段階で、第三者が適切に介入することで、いじめが減少する、あるいは解消することができることは研究でも明らかになっています。
過去にもブログで書きましたが、いじめには85%の場合に傍観者(被害者でも加害者でもない人)が存在し、傍観者が止めに入った場合の57%でいじめが止まったという調査があります。
同じく傍観者に注目したKivaプログラムでは、様々な国で検証がなされていて、イギリスではいじめが50%減少したとされています。
東京都の調査を見ると、いじめ発見のきっかけはアンケートがきっかけとなることが多く、早期発見から早期介入の段階で、生徒同士が果たす役割は非常に大きいと考えられます。
Kivvaプログラムをはじめとする傍観者プログラムの導入と同時に、生徒同士で介入するには、いじめのターゲットが変わることへの不安を解消しなければなりません。そこで有効なのがICTの活用であると考えます。せっかくタブレット配布をするわけですから、匿名でいじめを報告できるようにするべきと考えます。
3.いじめは加害者も苦しめる
今回の事件では、いじめの相談を行った際に、
学校側からは
「いじめはない。いたずらが過ぎただけで、悪気はなかった。」
「10人の加害者の未来と1人の被害者の未来、どっちが大切ですか。1人のために10人の未来をつぶしていいんですか。どっちが将来の日本のためになりますか。」
という発言をしたことがさらに衝撃を広げました。
こんな問題教師やめさせろ!という意見もあり、それはもっともなのですが、問題の抜本的な解決には至りません。なぜなら、このような事実誤認(勘違い)をしている大人はあふれているからです。
先ほども少し触れましたが、加害者は自分の行動をいじめとして認識していない、あるいは自己正当化していることが多く、同じように被害者も自らの精神を守るために、仕方のないことと受け入れてしまうような場合もあります。
つまり、生徒がどう思っているのかでいじめの線引きをすることはできません。
いじめの定義に照らし合わせるならば、
児童生徒に対して、当該児童生徒が在籍する学校(※)に在籍している等当該児童生徒と一定の人的関係にある他の児童生徒が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童生徒が心身の苦痛を感じているもの
であるのかどうかが線引きするのであって、第三者の立場から客観的にみて、一方が心身の苦痛を感じているように思えるのであれば、それはいじめなのです。今回の件は、明らかにいじめでした。
そして、もう一つの重大な誤りが、加害者の未来をつぶしていいのですか。という言葉です。イギリスのインペリアル・カレッジ・ロンドン精神科の研究チームの調査によると、被害者の35%だけでなく、加害者の29.2%にもPTSD(心的外傷後ストレス障害)いわゆるPTSDが発症しているそうです。この調査を見てもなお、加害者の未来のためにいじめをなかったことにするのでしょうか。
確かに短期的にみれば、つまり学校を卒業し、次の進路に進むまでは、隠していた方がよく思えるのかもしれません。しかし、長い人生を考えた場合に、この場で対処をしなかったがために、10人は友人を死に追いやった、あるいは追いやるきっかけを作ってしまったという十字架を背負って生きていくことになるわけです。
本当の意味で生徒の未来を考えるのであれば、学校や教員がすべきことは、かくすことではなく、いじめの事実と向き合い、話し合い、気づかせることだったはずです。ただし、学校や教員がいじめを本気で解決することに対して、評価されることが果たしてどれだけあるのでしょうか。教員研修は大事ですが、ただしく評価することがもっと大切なのかもしれません。
しかし、こうした事実をしっている大人はどれだけいるでしょうか。自分の子どもが加害者であることを知った場合に、どのような行動がとれるでしょうか。東京都では、本年度より地域や保護者との連携を深めるプログラムが開始される予定です。これが、大人の意識を変えるきっかけになることを期待してやみません。
4.第三者による調査は適切か
ここまで、いじめを発見し、介入し、解消するために必要なことを述べてきましたが、もう失われた命が返ってくることはありません。私たちにできることは、この事件の真実を明らかにして、二度と同じ過ちを繰り返さないことです。
しかし、いじめ調査では、ご遺族の納得のいくものとならないことが頻発しています。多くの自治体では、調査委員会を教育委員会が設置することになり、学校で起きたいじめを学校関係者が調査するという関係が生まれます。これでは、身内びいきと思われる調査結果だと批判を浴びても仕方ありません。
例えば、大阪府の寝屋川市では、学校でのいじめ調査などを教育委員会から切り離し、独立して行う部署として「監察課」を設置しています。
弁護士資格を持った職員や相談対応をするケースワーカーなどが、児童生徒や保護者、学校からいじめに関する通報を受け、関係者への聞き取りなどの調査を行い、加害者の児童生徒や保護者に是正勧告をするそうです。また、いじめ問題が解決せずに訴訟となった場合は、被害者側に対して30万円を上限に弁護士費用などの着手金を支援することも注目です。
担当者のコメントでは、
寝屋川市で深刻ないじめ事案があったわけではないが、教育的アプローチではいじめ問題はすぐに解決できず、子供の命を最優先に守るべきと考えた
とのことです。
空間的にも文化的にも制度的にも閉ざされがちな「学校」で起きている問題を、社会全体で解決していく、そんなアプローチが求められていると思います。
実は、私の住む町田でも同じような相談を受けました。
いじめを減らす、重大事態をなくすために、是非一緒に考えていきましょう。
最後に、東京都「いじめ総合対策」を添付しておきます。