1982年2月、私は戒厳令下のポーランド、ワルシャワにいました。学生がたむろするユースホステルに泊まり込んでいたのですが、夜になれば社会主義の国で冬、雪、戒厳令、食べるものは芋だけとなればやることがないのは私だけではなく、同じユースホステルに泊まっているポーランド学生も同じです。国が転覆するような大騒ぎの最中にひとりの日本人がポツネンといるのがよほど珍しかったのか、10人ぐらいで車座になって話をしたのを覚えています。
あまりにも刺激がなさそうなこの国で「皆さん、何をして過ごしているのですか?」と単刀直入な質問に対して「セックスかな?」と皆が異口同音に答えたのが鮮明な記憶として残っています。
90年代初頭、アメリカ。家庭中心の良き時代のこの国家では、夜になるとダウンタウンがひっそり静まり返ります。仕事が終われば車を飛ばして家に帰る生活が普通でした。そんな頃、週〇回夫婦の営みをしないと離婚原因になるとまことしやかに言われたことがあります。ここカナダでも調停離婚する際に「あなたが最後に夫婦の営みをしたのはいつですか?」と聞かれる可能性は大です。1年間が一つの目安だったかと思います。同居せずに営みがない状態が1年も続けば立派な離婚要因になります。
そんなアメリカにしろカナダにしろ、家庭中心となれば今でも夜になればやることがないのは変わらないのです。仕事は西海岸勤務の場合、午後3時から5時には終わります。(東時間に合わせて仕事をしている人や建設労働者は7-3時の勤務体系が多いのです。)当然、家に帰ってからの時間は長いのです。
かたや東アジア。ネオンの刺激がいっぱいあります。経済発展とともにより刺激的なライフが過ごせるし、それにはまる若者が普通になりました。お金があれば好きなことができるし、好きなところにも行けます。また、一度刺激を味わえばそれは麻薬のようにもっと強いものを求めます。
韓国の出生率は悲惨を通り越して末期症状に思えます。2020年の同国の出生率は0.84、ソウル市に限って言えばたったの0.64です。ダントツの低さですが、娯楽の刺激度が大きい香港(0.87)、台湾(1.07)が追う展開で東京も1.13です。これに続くように東南アジア諸国の出生率が急落してきているのは経済発展とネオン街という組み合わせ要因は一つあるでしょう。
日経が「少子化克服は『百年の計』 出生率1.5の落とし穴」と題した特集を組んでいますが、その中に「なぜ少子化が進むのか。人口学者が指摘するのは、女性の教育と社会進出だ。」とあります。この記事に対して様々な意見があり、日経の編集委員の方が「それは違う!」と意見し「女性の教育と社会進出が進んだにもかかわらず、家事や育児の役割が変わらず女性に偏っているから結婚や出産をためらう」からと述べています。いわんとしていることは確かにそうですが、私には本質ずれだと思います。
確かに日本は少子化対策を施し、2005年の1.26を底に耐え忍び、2020年で1.34です。私は日本の出生率低下が止まった理由の一つは、若者の収入が伸びず家に居る時間が長くなったため、とみています。一般的には都市化が進むと経済進展と共に人々はより開放的になり、自由を謳歌しやすくなります。
少子化の原因に男性の家事など家庭内作業への参加率の低さが問われることは多くあります。否定はしませんが、それをあまり強調しすぎるのも偏りがあると思っています。今日の少子化は男女共にその原因があると考えています。例えば韓国の4B(非恋愛・非セックス・非結婚・非出産)は女性の観点ですが日本にもこの発想がないとは言い切れない気がします。
そしてもっと言えば社会が発展し、やることが増え、SNSでいろいろ繋がることで暇にならなくなるのです。特に女性はマメですので夜遅くまで作業ややり取りに追われることは多いでしょう。「夜なべ」するのは男性というより圧倒的に女性が多いのです。つまり女性は忙しいので営む場合ではないこともあるかもしれません。
もう一つ、根本的な背景は種の保存の法則そのものだということです。戦争時代には産めよ増やせよでした。人間としてナチュラルな行動だったのです。また、1918年の子供の死亡率は18.9%、今の死亡率は0.19%、医学の改善で1/100になったのです。人間は本能的にバランスをとる仕組みを持ち合わせているのだと思います。経済環境を考え、子供が生存する確率が高ければ少子化になるのは自然の摂理かもしれません。
教育費がかかるという問題は少子化の結果の話ではないか、と私は考えています。つまり、家計という経済的枠組みにこれだけ教育費があるけど子供一人しかいないから満額予算獲得、よってより高度で質の高い教育を施す、という流れになっていないでしょうか?
この問題はどの面をとらえるかによって答えは変わってきますが、私は以前から解決は極めて困難と考えています。そういう点からすれば特殊合計出生率だけ見れば日本はよく持ちこたえているともいえそうです。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年8月25日の記事より転載させていただきました。