ここ数週間はバイデン大統領にとっては頭を抱える毎日である。国外に目を向ければ、アメリカのアフガニスタン撤退に伴うタリバンの復権、そしてカブール陥落の際の混乱によって、外交が自慢のバイデンの手腕が疑われ始めている。一方、国内を見てみると、デルタ株の蔓延によってコロナの波は再び押し寄せ、閣内外ではアフガンでの政策の失敗の責任の擦り付け合いがなされている。
それらの問題が浮上するに伴い、バイデン氏の支持率は下降傾向にある。各種世論調査の結果によるとバイデン氏の支持、不支持の割合は概ね拮抗している。
また、彼の政権でナンバーツーを務めるカマラ・ハリス副大統領の支持率も同様の傾向を辿っている。
バイデンの後継者として最有力
ハリス氏は長らくアメリカにおいて女性や人種マイノリティが政治的に抑圧されてきた歴史を考えるとシンボリックな存在である。アメリカ史上初の女性副大統領であるだけではなく、初のアフリカ系、アジア系アメリカ人の副大統領である。いろんな意味で初めてずくめの存在である。
そのような存在である彼女だからこそ、バイデン氏が退いた後の大統領候補となることが確実視されている。さらに、民主党としても彼女のような人物を副大統領の座に押し上げた時点で手を引くことができない状況に追い込まれている。遅くとも、2028年の大統領選はハリス副大統領が大統領候補として祭り上げられることは現時点では間違いない。
低支持率の背景
しかし、ハリス氏は民主党のホープであるはずだが、いまいちその期待に答えられていない。ロサンゼルス・タイムズ紙によると政権発足から7か月たった彼女の副大統領としての正味の支持率は歴代の副大統領の同時期のものと比べると低いものである。
クリントン政権一期目のゴア氏の支持率とは33ポイントの差があり、ブッシュ政権一期目のチェイニー副大統領とは46ポイントものギャップがあり、現在の上司のバイデン氏の副大統領時代のものより15ポイント低い。辛うじて前政権の副大統領であるペンス氏よりかは支持率は勝っている。
政争の最中に放り込まれる
ハリス氏の支持率が低迷している理由のひとつは激化するアメリカ政治の分断である。上記の数字を見るとブッシュ政権とオバマ政権を境目に副大統領の支持率が減少傾向に移っていることが分かる。そして、それはその間に生じたイラク戦争やリーマンショックなどの出来事によって分断が悪化する方向に事態が動いていったことが関係している。
さらに、従来の副大統領は浴びてこなかったようなスポットライトを浴びていることも彼女の支持率が低下している要因の一つであり、今後その減少に拍車がかかっていくことも十分に予想される。
副大統領職というものは本来は地味な仕事であるはずである。ナンバーツーと言われても、だいたいは大統領選で大統領候補が抜けている部分を補完できるかという指標でまずは選ばれる。また、当選後は儀式的な役割しか任されてこなかった。初代副大統領ジョン・アダムズは副大統領職というのは「人間がこれまでに創り出したものあるいはその想像力で認識できたものの中でも最も意味のない役職」だという風に切り捨てている。
しかし、近代の副大統領職は大統領に従属するという旧来の在り方から、どちらかというと大統領の重要なパートナーとしての存在として変貌を遂げてきている。それもあって、政権内で副大統領が果たす役割が大きくなりつつあり、その傾向はバイデン政権内でも受け継がれている。
しかし、問題なのはハリス氏に党派性の著しく高い問題が任されていることであり、アメリカの分断の境界線にハリス氏は事実上放り込まれている。彼女は政権の顔として移民政策、投票率の向上といった政策課題に取り組んでおり、そのどちらも共和党の支持者を盛り上げるのにはこれ以上ないものである。実際、ハリス氏が上記の課題で結果を出せていないこともあり、共和党は攻撃の手を緩めていない。
ハリスはトランプに勝てるのか?
ハリス氏の存在そのものが政争の具となるにつれて、彼女の不人気に民主党内部では危機感を募らせている。なぜなら共和党の支持基盤が高い熱度を保ったまま、大統領選に突入してしまえばトランプ大統領が再び大統領の座に返り咲く可能性が十二分にあるからである。
トランプ氏は得票数ではバイデン氏に大きく溝を開けられたものの、接戦州で計4万票を獲得していたら、選挙人の差で再選を果たすことは可能だった。昨年の大統領選は民主党にとって薄氷の勝利だったのである。そして、その
そんなギリギリの戦いの末勝利を勝ち取った民主党は、次期大統領候補であるハリス氏が政治的に窮地に陥っていることに警戒感を募らせている。
もしかしするとハリス氏ではない候補を立ててトランプ氏に挑むことができるかもしれない。しかし、それをするには上記したように高いハードルが存在している。
次の大統領選が近づいてきたとき、民主党はハリス氏を副大統領にしたことを後悔するのだろうか?