今週のメルマガ前半部の紹介です。タニタが社員の中から希望者を募り、一度退職させたうえで業務委託に切り替える制度を開始して4年が経ちました。
スタート時には8人でスタートした本制度ですが、4年たった現在では31人、本社スタッフの実に15%にまで拡大中とのことですから成功と言っていいでしょう。
【参考リンク】批判ある「社員の業務委託化」先行したタニタの今 導入から4年、本社メンバーの15%が移行
業務委託にシフトする意味とはなんなのか、それは従業員と会社双方にどういうメリットをもたらすのか。いい機会なのでまとめておきましょう。
約束されていた成功
タニタが業務委託開始のリリースを出したとき、少なからぬ識者やメディアが批判的な論調でコメントを出しました。
「リストラの隠れ蓑に違いない」
「労基法逃れの脱法行為だ!」
【参考リンク】自由な働き方のはずが… 業務委託「危うさ」同居 労基法など対象外 最低賃金 保障なく
まあ結果的にはいつもの界隈の「企業は政府は常に悪いことを企んでいるに違いない」という被害妄想だったわけですが(苦笑)
一方で筆者はメルマガ等で一貫して全面的に賛同を表明してきました。
要旨「メリットばかりだしとにかくノーリスクなので社員の方にはオススメです」
合理的に考えれば誰でもわかる話です。まずメリットについて説明しましょう。
終身雇用を維持するために、労働者はいろいろなデメリットを甘受しなければなりません。
代表は残業ですね。忙しいときに人を雇って暇になったらクビにする代わりに、今いる正社員に残業させて対応するわけです。
だから残業時間の上限は法律に明記されてないし40年くらい昔から過労死なんて「karoshi」って英語になるくらい日本名物だったわけです。
あと転勤もそうですね。辞令一つで全国の人手不足の事業所に転勤するのも、やはりそうすることで雇用を維持することが目的です。
業務委託化すれば、こういうデメリットは引き受けなくてもすむわけです。と言われてもピンとこないという人は、以下のシチュエーションを想像してみてください。
同じ年齢、給料で正社員の山本君と鈴木君がいたとします。山本君は業務委託に切り替えたものの、鈴木君は従来通りの正社員のまま。
上司は急に降ってわいたような仕事はすべて鈴木君に丸投げです。
「鈴木、本社から頼まれた資料、明後日の朝までに作っておいて」
「今からですか?」
「徹夜でやればできるだろ」その横で、山本君は15時だというのに荷物をまとめて退社しようとしています。
「課長、今日の仕事は終わったのでお先に失礼します」
振られるのは残業だけではありません。鈴木君は来季から地方支社への転勤も確定済みです。業務委託の人間が動かなくなった分、鈴木君のような普通の従業員の転勤頻度は以前よりアップしています。
といったシチュエーションを想像してみて、どちらがいいと思いますか?そりゃ確かに「将来は絶対に経営陣入りするのだ!」みたいな野望のある人は無制限正社員コースで滅私奉公するのもアリでしょう。
でも、そこまで考えてはいないという人や、もう出世競争の終わった40歳以降の人はどうでしょう?無制限でデメリットだけが発生する働き方より、きちんと業務内容も責任も明確化した働き方の方がずっと働きやすいと感じるはずです。
恐らく、4年で業務委託希望者が急に増えたのは、少なくない数の人たちが実際に上記のような現実を目にしてメリットに気づいたからでしょう。
ノーリスクという点も補足しておきましょう。確かに世の中には業務委託のような仕組みを悪用して従業員のリストラを考える会社もあるのかもしれません(筆者は聞いたことないですけど)。
ではなぜタニタの場合はポジティブに評価出来たのか。それはトップが顔出しでメディアに登場する「トップの肝いり案件」だからです。
パソナの淡路島移転もそうですが、トップがメディアで語った案件は、管理部門は何としてでも成功に導くために全力でサポートします。トップの顔に泥を塗るわけにはいかないですから。
だから業務委託プロジェクトも人選から業務内容まで慎重に吟味したうえで、手厚いサポート体制も取られたはずです。
「本当はリストラ狙いだった」だの「実際には労基法縛りから抜けて残業地獄になった」だのと言った悪評を期待していた人達も例の界隈には多そうですけど、そんなの出てくる可能性は最初からゼロだったんですね。
というわけで、同社の業務委託プロジェクトは今後も定着、浸透していくでしょう。そしてその動きは後述するように他社へも波及していくはずです。
以降、
とはいえ、会社はけして“正社員制度”を捨てる気はない
業務委託の本質はジョブ化
Q: リモートワーク嫌いな管理職にそのメリットを理解させるには?
→A:「やるメリットとやらないデメリットを説明してください」
Q:「人事部のやりがいってなんでしょうか?」
→A:「身内の役に立てたと実感できることじゃないですかね」
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