極右党「自由党」元党首に有罪判決

オーストリアの極右派政党「自由党」の元党首ハインツ・クリスティアン・シュトラーヒェ氏が27日、ウィーン地方裁判所で汚職などの罪で懲役15カ月の執行猶予付き有罪判決を受けた。同氏は即、控訴した。

副首相と自由党党首のポストの辞任を表明するシュトラーヒェ氏(オーストリア国営放送から、2019年5月18日)

事件は、シュトラーヒェ氏が病院経営者グルーブミュラー氏(Walter Grubmuller)から2回、2016年10月、そして17年8月、自由党への献金(合わせて1万2000ユーロ)を受け取った代わりに、(党首だったシュトラーヒェ氏は)自由党議員に民間病院融資基金(PRIKRAF)の改正案を議会に提出させたというのだ。

同改正案でグルーブミュラー氏のヴェーリング私立クリニークがPRIKRAFに加入できるように便宜を図ったとして、裁判官は、「改正案は明らかにグリーブミュラー氏の病院にとって利益があるが、オーストリアの民間病院の利益を考えたものではなかった」と判断、党献金と改正案提出には密接な関連があったとして今回の判決となったと説明した。

シュトラーヒェ氏は、「裁判所の判決には非常に驚いた。裁判官は党献金と自分の行動を恣意的にリンクさせている」と不服を表明。シュトラーヒェ氏の弁護士のヨハン・パウアー氏は、「ウィーン高等地方裁判所(OLG)は、第1裁判所の法的な見解が正しいかを判断するだろう」と述べている。グルーブミュラー氏も懲役1年の執行猶予付き有罪判決に失望し、控訴を表明した。

一方、国際反汚職アカデミーのマーテイン・クロイトナー前会長は、「政治家の汚職問題に対する画期的な決定だ。ただし、今回の判決は始まりに過ぎない」と指摘し、「賄賂と汚職は、政治、行政、法の支配に対する国民の信頼を損なう。すべてのコミュニティにとって毒だ。この点で、この信頼の一部が今日回復したことを嬉しく思う。政治家が特権を乱用し、賄賂を受け取ったり、汚職した場合、有罪判決を受けるという警告だ」と強調している。

また、元監査院会長のフランツ・フィードラー氏はオーストリア国営放送とのインタビューの中で、「判決内容については語れないが、法執行機関関係者が被告の社会的立場に配慮することなく裁判を実行することは過去は容易ではなかった」と述べ、検察庁や法廷関係者がその仕事を貫徹したことを評価している(オーストリア国営放送サイトから)。

また、野党の社会民主党のイビザ調査委員会メンバー、ヤン・クライナー議員は、「国民党と自由党の連立政権が如何に法を売ってきたかを証明した」と述べ、「国民党と自由党の連立政権は政権の席に着くか、被告の席に着くしかない」と指摘、国民党の前財務相ハルトヴィック・レーガー氏や現財務相のゲルノート・ブリューメル氏への容疑問題を示唆している。

シュトラーヒェ氏は14年間余り、自由党党首に君臨(2005~19年)、同党を飛躍させ、クルツ首相が率いる国民党と連立政権を構築、副首相を歴任するなど、欧州の極右政党の中心的存在として活躍してきた。

シュトラーヒェ氏の政治人生は順調だったが、それが急降下したのは通称イビザ騒動だ。シュトラーヒェ党首は2017年7月、イビザ島で自称「ロシア新興財閥(オリガルヒ)の姪」という女性と会合し、そこで党献金と引き換えに公共事業の受注を与えると約束する一方、オーストリア最大日刊紙クローネンの買収を持ち掛け、国内世論の操作をうそぶくなど暴言を連発。その現場を隠し撮りしたビデオの内容が2年後の19年5月17日、独週刊誌シュピーゲルと南ドイツ新聞で報じられたことから、国民党と「自由党」の連立政権は危機に陥り、最終的にはシュトラーヒェ党首(当時副首相)が責任を取って辞任した。

国会内でイビザ調査委員会が設置され、同氏は説明責任を問われる一方、病院経営者から党献金を受け取る代わりに、私立病院の経営を容易にする法の改正案を議会に提出するなど、政治家としての特権を利用した汚職容疑が浮かび上がり、今回の判決となったわけだ。同氏は今回、判決を覆すことが出来なかった場合、政治家としての道は完全に閉ざされることになる。

オーストリアでは政治家の腐敗、汚職は絶えない。特に、戦後から長期間政権に君臨してきた社会民主党には過去、数多くの汚職問題が起きた。最近では、新しい病院がウィーンで建設され、医療器材が独シーメンス社から購入されたが、当時病院建設を担当した社民党政治家はその直後、シーメンス社の幹部の職を得ている、といった具合だ。また、国民党の欧州議会議員エルンスト・シュトラッサー欧州議員(元内相)がロビイストを装った英ジャーナリストから欧州議会に法案提出を要請された。英ジャーナリストのおとり取材とは知らない議員は報酬10万ドルを要求し、法案提出を約束した。そのやり取りはビデオで録音されていたため、後日、同議員の犯罪行為(収賄)が暴露され、欧州議員のポストを失うだけでなく、腐敗政治家として裁判を受ける身となった。同氏は2014年3年の有罪判決を受けている(「誰が極右党首を罠にはめたのか」2019年5月21日参考)。

政治家は特権を享受するだけに、汚職、賄賂などの腐敗問題が生じやすい。清貧な政治家という言葉は久しく忘れ去られた。与野党の区別なく、政治家の汚職は国民の政治への信頼を失わせ、民主主義政治の土台を震撼させる深刻な問題だ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2021年8月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。