中米ニカラグアの代表紙ラ・プレンサが独裁者による弾圧で市場から姿を消した

ニカラグアの最後の全国紙が廃刊

中米ニカラグアの独裁者ダニエル・オルテガ氏は1970年代の独裁者アナスタシオ・ソモサ氏を打倒すべくサンディニスタ民族解放戦線のリーダーとしてソモサ政権を崩壊させた。ところが、そのダニエル・オルテガ氏が今ではソモサ氏と同じようにニカラグアの独裁者となっている。

今年11月の大統領選挙を前にオルテガ氏は夫人で副大統領のロサリオ・ムリージョ氏と一緒になって再選を目指してこれまで7人の対立候補者を拘束し、彼の政権に不利な情報を提供しているメディアに弾圧を加えている。

8月12日、ニカラグアで日刊4万2000部を発行している最も古い全国紙ラ・プレンサ(La Prensa)が最後の印刷紙を全国に配布した。同紙は今年3月2日に創業95周年を迎えたばかりであった。印刷に必要な紙が税関に7月26日から差し止めされており、通関できないのが理由だ。その輸入費用や保税倉庫での保管料などから22万5352ドル(2480万円)の費用が掛かっている。

一般に通関の為の申請をしてから10日以内に回答があることになっているが、今回は申請してから18日が経過しても回答がなく、8月3日と11日に税関管理局に書簡を送ったが、それに対して一度も回答がない状態が続いているという。(8月12日付「ラ・プレンサ」電子版から引用)。

このような事情からラ・プレンサ紙に残っていた最後の紙を印刷して市場に配布したのが8月12日だったのである。

独裁者の狙いは全国紙を廃刊に追い込むことだ

ラ・プレンサはニカラグアで最も影響力のある新聞として注目されている。何しろ、創業者の家系チャモッロ家はニカラグアで最も影響力のある家族で、これまで5人の大統領を同家から輩出している。

独裁者オルテガ氏にとって同紙を市場から消滅させるのは常なる狙いである。2020年2月にも輸入した紙が税関で17か月差し止めらるということがあった。およそ100トンの新聞にする印刷紙であった。その時はその代用として価格の高い紙を使用せざるを得なくなって発行部数を大幅に減らさねばならなくなっていた。

この印刷紙の入手にはローマ教皇からの大使ワルデマル・スタニスラウ・ソメルタグ氏がロサリオ・ムリージョ副大統領を説得して実現したものであった。(8月13日付「インフォバエ」から引用)。

今回の差し押さえに対し、ラ・プレンサのファン・ロレンソ・ホルマン社長はそれが通関されるまでデジタルでニュースを報道して行く姿勢を明らかにしている。彼は「(新聞を)印刷できなくなるのは、印刷紙が通関されることを我々が諦めたからではない。今後もそれを執拗に要求して行く。なぜなら、それは我々のものだからだ」と述べた。

更に、「これは閉鎖ではない。これは電灯を消して去ることでもない。これは行き詰まりでもない。いずれの方法であれ、この印刷紙の問題は解決されるようになるはずだ。もしそれが解決されないのであれば、デジタルを通して我々の務めを果たし続けて行くだけだ。検閲があって閉鎖されるという80年代ではない。あの当時はデジタルはなかった」と語った。(8月12日付「ラ・プレンサ」電子版から引用)。

この影響でラ・プレンサの別紙「オイ(HOY)」も廃刊となった。

ラ・プレンサは資金的にまだ余裕があるのか、従業員の雇用も継続して行くことをホルマン社長は表明している。その一方で、もう一つ全国紙エル・ヌエボ・ディアリオ(El Nuevo Diario)は2019年9月に経済的に閉鎖を余儀なくさせられた。39年の社歴に幕を閉じた。

ジャーナリストは隣国コスタリカに亡命して報道活動を継続

オルテガ大統領とムリージョ副大統領の夫婦によるジャーナリズムへの弾圧の影響でこれまで隣国のコスタリカに50人以上のジャーナリストが亡命している。彼らはコスタリカからニカラグアに向けてデジタル報道を続けている。

また、一般の市民でもより安定した生活を求めて1万人以上が出国している。ニカラグアの人口は650万人。

 大統領への対立候補者も拘束している

オルテガ氏はこれまで彼の政治に反対している議員ら32人を拘束して刑務所に送っている。その中には今年11月の大統領選挙に立候補すると予測されている7人も含まれている。そのひとりがオルテガ氏に選挙で勝利する可能性の高いクリスチアナ・チャモッロ氏である。彼女の母親ビオレタ・チャモッロ氏はオルテガ氏を破って女性初の大統領になっている。その時、クリスチアナ氏は35歳で母親の執務の広報などを担当していた。

クリスチアナ・チャモッロ氏の兄のひとりカルロス・チャモッロ氏もジャーナリストで現在コスタリカに亡命している。彼によると、オルテガ氏は11月の選挙で勝利するまで他国からの仲介には関心はなく、スペイン、メキシコ,アルゼンチンからの仲介もオルテガ氏は無視した。彼が勝利した暁には唯一関心を持っているのは米国との関係修復だという。

唯一、米国がニカラグアへの干渉を止めれば彼の政権維持は今後も保障されると彼は見ているからである。しかし、米国が中米及び南米で3悪国としているのがキューバ、ベネズエラそしてニカラグアである。この3か国の指導者を追放するのが米国の望みだ。それにエルサルバドルが徐々に加わえられつつある。

オルテガ氏は知的教養の深い人物ではない。また革命についての明確なイデオロギーを持っている人物でもない。しかし、自らが独裁者ソモサ氏を打倒した経験とこれまでの政権運営から自らの政権を永続させるために何をせねばならないかということを理解している人物である。