アリタリア航空が姿を消すことになった
日本でも既に報道されているように、イタリアを代表するアリタリア航空が10月15日以降の航空券の販売を停止することになった。要するに、1947年に初飛行したアリタリア航空が消滅するということだ。それに代わって、これまでの半分の規模でITA(Italia Trasporto Aereo)という公営企業が同航空会社の事業を引き継ぐことになる。その為にITAは政府から15億ユーロ(1800億円)の資金の投入を受けることになっているという。(8月27日付「エル・パイス」から引用)。
アリタリア航空はいずれは消滅する運命にあった。何しろ、この30年間に利益を計上したことがないという航空会社であった。これまで赤字は政府が補填するということを繰り替えして来た。しかし、それももう限界に来ていた。欧州中央銀行の前総裁マリオ・ドラギ氏がイタリアの首相に就任してからはアリタリアの廃業は加速化された。
何しろ、2008年から政府がアリタリアに投入した公的資金は130億から140億ユーロ(1兆5600億円から1兆6800億円)という膨大な額に膨らんでいたからだ。(2020年12月20日付「ラ・バングアルディア」から引用)。
これまで政権が代わる度に出血している箇所を絆創膏で貼るということの繰り替えしであった。根本的に現状のままのアリタリアでの営業維持は不可能と専門家も見ていた。解体するか、事業の大幅な縮小しかないと判断されていた。
しかも、2017年から会社更生法を適用されている企業だ。その時点からでもアリタリアに政府が融資した金額は13億ユーロ(1560億円)に上っていた。(4月5日付「ラ・バングアルディア」から引用)。
人気のないアリタリア航空
いくら政府がアリタリアに資金を投入しても同社の未来はないというのを証明するものとして乗客によるアリタリアの利用率を観れば明白である。例えば、2019年のイタリアから出発した乗客、あるいはイタリアに入国した乗客の延べ1億人に対してアリタリアを利用した乗客は僅か7.9%だったというのである。利用率が一番高ったのはライアン航空の23%であったという。(4月5日付「ラ・バングアルディア」から引用)。
アリタリアの再建にはデルタ、ルフトハンザ、イージージェットなどが提携する意向を当初示していたが、どの航空会社もそれから後退した。理由は巨額の負債を抱えているということと、乗客にとってアリタリアへの魅力は完全に失われているということからであった。
縮小プランでは保有機材は現在の半分に削減
そこでイタリア政府が検討の末に選択したのは同社の母体を残しながら会社の規模を縮小させるということである。現在持っている保有機材104機から52機に縮小させる。そして1万人以上の従業員を3000人まで削減させるというプランである。このプランは大規模なメスの入れ方である。そのようにしないのであれば、アリタリアは消滅するしか選択肢はないということだ。
しかし、この大規模なメスから受ける衝撃を和らげる意味もあって、ITAがプランとして発表しているのは、2022年には80機まで増やし、2025年には105機以上の体制にするとしていることだ。そして、最初は45の路線から始めて2025年には世界の74都市を結ぶ89の路線を構築するとしている。(8月27日付「OKディアリオ」から引用)。
しかし、熾烈な戦いを展開している航空業界において5年後には現状まで復活させるというこのプランはあまりにも楽観的なプランでしかないように思われる。
10月15日以降アリタリアを利用する予定にしていた乗客は25万人いる
10月15日以降に予約などでアリタリアを利用する予定になっている乗客は25万人いるという。同じ目的地へのフライトであれば日程の変更は無料でできる。しかし、目的地を変更する場合は追加料金を払って変更が可能である。逆に変更の方が当初の予定よりも安く収まる場合のアリタリア自体が消滅することから返金は期待できないそうだ。(8月27日付「エル・パイス」から引用)。
格安航空の登場後でヨーロッパの航空業界の激しい変遷に順応できなかった。その営業体制に改革をもたらさなかった結果が、今回の消滅に至ったようだ。