どこへ向かうアメリカ政治:トランプ頼りの共和党の功罪

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呆れられた共和党

「この政党(共和党)は与党であるより、抵抗勢力である方がはるかに効果的だ」

上記の文面だけを読めば共和党に対して敵対的な陣営から発せられた文言だと思うだろう。しかし、これは共和党のライバルである民主党の関係者から発せられたものではなく、身内から出てきた批判である。さらに、ただの身内ではなく、共和党が支持基盤とする保守層に対して最も影響力を及ぼす人物が上記の発言をしている。

その人物とは保守系テレビ番組、フォックスニュースの人気司会者、タッカー・カールソン氏である。彼が及ぼす影響力は彼の番組の視聴者数を見れば明らかである。今年7月時点でカールソン氏が司会を務める番組、「タッカー・カールソンショー」は、アメリカで最も視聴率の高いケーブルニュースの番組であり、平均して一日約300万人もの人々が彼の発言に耳を傾ける。そして、この数字は競合他社であるCNNやMSNBCが持つ看板番組を凌駕している。保守系のテレビ番組がリベラル系のものより、少ないことを考慮に入れたとしても、常時数百万人の視聴者を抱えること自体が無視できない影響力である。

また、トランプ前大統領が大統領の座から退き、ツイッターアカウントを凍結され続けている今、共和党関係者からはアメリカで最も影響力のある保守主義者だという声もある。

しかし、共和党の支持基盤の間でトランプ氏を凌ぐ程の影響力を持ちつつあるカールソン氏ではあるが、冒頭の引用から分かるように共和党の今後に対して期待はしていない。それは政策の推進者であるより、頑強な抵抗勢力であろうとする現共和党の現在位置を物語っている。

そして、党がますますトランプ一色になれにつれて、後者への傾斜は止まりそうにない。

プロ集団から抵抗勢力へ

しかし、それは今に始まったことではない。アメリカ国民が共和党の実務能力、政権担当能力に期待を持っていた時代はあった。1980年代から1990年代前半にかけて共和党が大統領職を独占した。また。レーガン政権、父ブッシュ政権という共和党が首班の政府で重鎮を担ったジェイムズ・ベーカーの半生を綴った著書、「ジェイムズ・ベーカー ワシントンを動かした男(未訳)」で記されていたように議会を握っていた民主党との協力の元、超党派の法律、合意がいくつも実現された。

しかし、近年政治の分極化が酷くなっていくに伴い、実務のプロ集団であった共和党の姿は鳴りを潜めている。

2008年、終わりが見えない戦争とリーマンショックによる反発により、共和党は大統領選ではオバマ大統領、上院、下院選挙では民主党に大敗した。そして、大敗に対してのショック、初の黒人大統領であり、フセイン(9・11後にムスリムに対する恐怖心が全米を覆っていた時に、フセインというアラブ系の名前は政治的に受け付けられないと危惧されていた)というミドルネームを持つオバマ氏に対する警戒感から、理不尽なまでにオバマ政権の政策アジェンダ推進を妨害した。

マコネル上院議員の「オバマを一期限りの大統領にする」との号令の下、共和党は2010年に成立した包括的な医療保険改革、いわゆるオバマケアを政治化して下院を奪還し、2012年には上院をも取り戻し立法府の主導権を民主党から奪った。それによって、オバマ政権下ではオバマケア以外の独自の政策的実績が上げられず、オバマ政権期で議会に提出された法案の内、2.7%しか成立しなかった。

政策への軽視

2017年に一転して抵抗勢力から、行政府と立法府を握り党になってからも、オバマ時代に培った批判勢力としての癖は抜けなかった。トランプ氏が選挙後もアウトサイダー的な政権運営を続け、分断を助長し、民主党の敵意を盛り上げた。その結果。2018年に民主党は下院を制し、オバマ政権時と同様に行政府の立法能力をつぶした。最終的には、トランプ氏も減税法案以外は顕著な党派性のある立法実績をのこすことはできなかった。

極めつけは党の綱領を新たに採択せずに、2016年版のものを又借りして使用したことだ。民主党が党内の超党派で党の綱領を制作した一方で、共和党は2016年の時とは全く違う政党に生まれ変わっているのにもかかわらず、選挙の公約ともいえる綱領の策定を放棄した。このことから、共和党の政策に対する軽視が見受けられ、共和党に根付いている抵抗勢力としてのアイデンティティの強さを強調している。

忠誠心が全て

そして、上記で述べたように政策の優先順位としての低下が見受けられるのは、共和党の実質的なリーダーであるトランプ氏の存在が大きく関係している。

今の共和党で政策実務能力や国家観は重視されておらず、重きを置かれるのはトランプ氏に忠誠を誓うかどうかという選択である。

チェイニー氏の降格、ステファナック氏の共和党内の出世がその状況を顕著に表している。前者は折り紙付きの保守であり、実務能力が代われ早々と共和党のナンバースリーの座を射止めた。一方で、後者は穏健派の共和党として名を馳せており、トランプ氏が大統領になる前後においては共和党内で反トランプの一角をなしていた。(彼女はムスリム渡航禁止に反対し、減税法案も反対に回っていた)

しかし、風向きが変わると同時にステファナック氏は従来の主張をかなぐり捨て、トランプ氏の熱狂的な支持者に転じた、さらには、トランプ氏の不正選挙運動に同調し、それに賛同しなかったチェイニー氏をリーダーの座から排し、自らが後釜となった。

このように共和党は事実上トランプ化しており、この様相のまま中間選挙、大統領選に挑むことは確実である。また、カールソン氏が指摘しているように政権担当能力が以前と比べて著しく低下している。

そのような、勢力が超大国の二大政党の一翼を担うことは果たしてアメリカのみならず、世界のためになるのか?その解は読者たちの想像に任せたい。