現地に残されたスペインに協力していた110人のアフガン人

スペインはアフガン人2206人を救出した

8月19日から始まったアフガン人の救出活動は9日目の27日に終了した。現地のスペイン軍、スペイン開発協力事務所、スペイン大使館に協力した現地人とその家族の救出であった。

当初、スペイン政府は彼らの家族を含めてその数はおよそ800人と推定していた。ところが、救出活動を終えた時点でマドリードの北部に位置するトレホン・デ・アルドス軍事空港には2206人のアフガン人が到着していた。

この2206人の救出作業にはスペインから17人の警察特殊作戦部隊(GEO)と警察介入部隊(UIP)に加え、その応援部隊として陸軍のグリーンベレー特殊部隊110人、それにスペイン大使館から大使と公使の二人だけという僅かの陣容であった。それに米軍や現地人が協力した。

まだ少なくともアフガン人110人とその家族が残っている

ところが、現実にはまだおよそ110人のアフガン人が救出にされずに現地に残っていることが判明している。そして彼らの家族を加えるとその数は700人以上と推定されている。(9月1日付「ABC」から引用)。

残されたひとりハローンAさん(36)はカブール空港の手前150メートルのところまで家族を連れて進むことができたが、それ以上前に進むことができなかったそうだ。カンディグルさん(50)の場合も同様であった。

スペイン電子紙「エル・コンフィデンシアル」との携帯電話による交信の内容が8月27日付の同紙に掲載された。

それによると、この二人との通話の中で彼らは「タリバン人が我々を殺害するのを待つだけだ。スペイン政府に早急に問題の解決を乞う」「現地のスペイン当局で働いた人はまだ110人いる。我々の生命は危険にさらされている」と語ったそうだ。

彼らの場合は、バギス県の首府カラ・イ・ナウに所在していたスペイン開発協力事務所に協力していた。そこでスペイン軍も駐屯していた。ハローンさんと夫人と3人の子供(9、6、3歳)を連れて3日間かけてカブールに(交信日の)10日前に到着したそうだ。仮に彼らがカブールに在住していれば空港に入る困難も些か緩やかだったであろう。しかし、カブールに到着するのに3日を要したというのはそのあとの空港への接近もより困難になっていた。

スペイン開発協力事務所からの指示で家族を同伴して空港の入口の前にある下水道で待機していた。そこで飲み水も食べ物もなく待っていた。それを実行するのに4日間匿ってもらっていた家と空港の間を往復したそうだ。

それを繰り替えしている内に自爆テロが発生。彼の幼少の子供は怪我人や死者を見るにつけ「精神的そして肉体的に非常に傷ついてしまった」と指摘。

タリバン人が彼と家族を探しているのは分かっていることからアフガニスタンに留まることはできない。だから出国できる方法を探しているそうだ。

彼の友人の一人がタリバンに殺害された写真を携帯電話から同紙に送って来たそうだ。そのあと彼を処刑しているビデオも同紙は受信した。

現在、彼と家族はカブールの素泊まりの家に宿泊しているという。それまでは空港と匿ってもらっていた家との往復を繰り替えしていたのでタリバンにも不審に思われていたという。空港に向かっている時にタリバンから国外に出る理由も尋ねられたこともあったそうだ。

また同紙に彼は空港に向かう時は常に所持していた書類も発信して来たそうだ。そこには外務省の書類用紙に彼ら家族5人の名前が記載されスペイン外務省がすべての関係当局に対し空港までの通過を許可するように要請した内容であった。

空港をすぐ目の前にして前進できなかったのは彼と家族だけが例外ではない。マルガリタ・ロブレス国防相が「エル・パイス」とのインタビューの中で残念で忘れることができないことだとして、数家族が空港の入口の手前5メートルのところから前進できずに救出できなかった例も挙げている。

一方、空港の近くに来た時にグループを組んで赤いハンカチのようなものを手にもってそれを振りながら「エスパーニャ」「エスパーニャ」と叫んでスペイン部隊によって救出されたひとたちもいる。

また逆の例としてスペイン空軍機に搭乗する寸前になって救出作業を手伝うといって現地に残った翻訳の仕事をしていたアフガン人もいた。なお彼の家族は搭乗した。8月29日付「エル・コンフィデンシアル」から引用)。

もぐりで救出されたアフガン人が数十名いる

その一方で現地のスペイン当局に一度も協力した経験のないアフガン人も数十名が救出されていたこともあきらになっている。 これはスペイン当局に協力していた人物に金銭を渡して救出されるリストに加えられるようにしたものだ。

スペインの国家情報本部(CNI)によると、彼らがアフガンの諜報員ではないことは明らかになっている。

この例から明らかなように、2206人が救出されたのであるが、果たしてその内の何人が実際にスペイン当局に協力していたかというのは疑問であるという声が現地に残されたアフガン人の間から上がっている。彼らの中にはスペイン当局から如何なる退避の連絡がなかったことを指摘している人もいる。

残されたアフガン人の救出にタリバンは身代金を要求している

スペインのサンチェス首相は現地に残されたアフガン人とその家族を見捨てないと表明してはいるが、その交渉は非常に複雑である。スペイン単独でのタリバンとの交渉は無理で、EU加盟国で同じく現地に残しているアフガン人の協力者を抱えている国々と共同で交渉にあたる必要がある。しかも、現在のEUからの交渉にはタリバンとの直接交渉ではなくカタールの仲介に依存しているのが現状だ。ということで交渉には時間がかかるのは明白だ。その間も現地に残されたアフガン人の生命は日々危険にさらされている。