女性総裁は自民党のイメージアップになるかもしれない

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菅首相の不出馬を受け、自民党総裁選から目が離せなくなった。とりわけ、高市早苗氏と野田聖子氏、2人の女性の動向だ。もしお二人がともに20人の推薦人を獲得し、正式に立候補し、うちお一人が当選すれば、自民党史始まって以来の快挙になる。

インターネットやSNSが活用され、科学的知見から合理的な政策形成が行なわれるようになっても、政治が生身の人間の行為によって紡がれる点に変わりはない。現代社会の諸活動のなかで、政治ほど「人間くさい」営みはないように思う。そのため、政治家の人物像が政治にとって極めて重要な要素になる。政策に違いを出し難い今、政党間の違いは主義主張よりも、リーダーは誰か、政党の顔によるところが大きい。

内閣支持率は低下の一途をたどるが、政党支持率の傾向に大きな変化は生じていない。図1に菅政権発足以降の自民党と立憲民主党の支持率、無党派層の推移を示した。注目点は今年の4月以降だ。自民の支持率は4月以降減少し、直近の8月は33.4%であった。一方、立憲は6.3、6.4%で推移し、有権者の支持を自民党から奪うことができず、自民が失った支持率はグラフのように「支持政党なし」に流れている。つまり、立憲民主党は非(反)自民有権者の受け皿になり得ていない。

なぜ立憲民主党は人気がないのか。簡単に言えば、同党のリーダーグループの「党の顔」としての鮮度が落ち、政策や公約以前に「何も期待できない」と有権者に感じさせてしまうからではないか。枝野代表や福山幹事長、安住国対委員長はいずれも政策通の優れた政治家に違いない。個人的に恨みがあるわけでも毛頭ない。しかし、3人の方々がニュースに現れるや、10年前に引き戻され、民主党政権への失望感が無意識のうちに蘇るのは私だけであろうか。

自民党は支持率が極端に落ちているわけではないものの、8月は33.4%で、この先30%を割る事態も大いにあり得る。総選挙を前に党勢の回復が急務だ。そこで、切り札となるのが女性総裁だ。若返りも一手ではある。だが、男性に女性ほどのインパクトはない。女性総裁の登場は、自民党が典型的な男社会で、旧態依然の雰囲気を醸し出しているだけに相当なインパクトがある。

野田聖子オフィシャルサイトより

もっとも、女性なら誰でも良いわけではない。ジェンダー平等に逆行する考えの持ち主、女性に敬遠される女性政治家もいる。女性有権者から反感を買うような人では、票の半分を失うことになるので、逆効果だ。私の推しは野田さんだ。キャリアといい、風格といい、首相として遜色はない。実は、野田さんにはある研究プロジェクトの調査のためにこの4月直接お話を伺い、その人となりを知り得る機会を持った。多忙な幹事長代行職のため、オンラインでのインタビューになったが、野田さんは思慮深く、論理的かつ明快な言葉で質問に答えてくれた。立ち入った質問にも、決して話をはぐらかさず、真摯に向き合ってくれたと思う。画面越しにも包容力のあるお人柄が伝わり、不覚にもファンになってしまった(!)。

世界を見渡せば、アンゲラ・メルケル、蔡英文、ジャシンダ・アーダーンと女性リーダーが卓越した政治的手腕を発揮している。彼女たちの政治的評価にわざわざ「女性」という冠を付けるのはもはや余計で、無意味なことだ。しかし、その手腕に「女性」というジェンダーが無関係ではないとも思う。というのも、男性中心の政界から登場する女性リーダーは、権力を連綿と独占してきた男性が陥りがちな、たとえば醜い権力闘争、過剰な自己顕示欲、先例主義、クライエンタリズム(親分子分関係)といった政治の腐敗や惰性の温床の外側にいるからだ。

男社会で生き抜く女性は、一般的に先輩後輩関係を軸にした互酬性のネットワーク(「ボーイズネットワーク」)から締め出され、自分の能力だけを頼りに知恵と忍耐で生き残るほかない。並大抵の苦労ではないだろう。しかし、それは女性を一段と成長させるはずだ。しかも、互酬ネットワークのシガラミや先例から自由、権力闘争に明け暮れる必要もない。先輩や取り巻きの顔色を伺わずに、思い切った政策を打ち出すこともできる。もちろん、女性リーダーが増え、女性が「ガールズネットワーク」を構築するようになれば、男性と大して変わらなくなるだろう。しかし、少なくとも現状では、女性総裁の登場が日本の政治シーンを変える「鍵」になり得るのではないか。自民党の英断に期待したい。