Rock&Popsのリマインダー/1955年

1955年の米国は、いわゆる「古き良きアメリカ Good Old America」「強いアメリカ Strong America」「黄金の50年代 Golden Fifties」の真っ只中にあったと言えます。当時のヒットソングは、ビッグ・バンドから独立した歌手&コーラスグループによるジャズ系ポップ、ブルースとゴスペルのフュージョンによって生まれた黒人のリズム&ブルース、フォークとヒルビリーから進化した白人のカントリー&ウェスタン、マンボを中心とする中南米のラテン・ミュージックが主流であり、映画・テレビのサントラあるいはそのカヴァーも大ヒットしました。そして、ポピュラー音楽界で何よりも忘れてはならないのは、ビル・ヘイリー&ヒズ・コメッツの『ロック・アラウンド・ザ・クロック』が大ヒットし、翌年以降にロックンロールの時代が訪れたことです。◇

[1955年 30位~1位のプレイリスト]

■30 It’s a Sin to Tell a Lie / Somethin’ Smith and the Redheads
1936年リリースのジャズのスタンダードがポップソングとしてこの年にリヴァイバルされました。バンジョーの音色に乗ったこの世の春を楽しむような軽妙なユニゾンのコーラスはこの時代のスタイルと言えます。

■29 Only You (And You Alone) / The Platters
今では誰でも知っているプラターズのドゥワップの名曲です。当時29位というのは本当に意外です。リード・ヴォーカルのトニー・ウィリアムスが三連符のバッキングにヒットさせながらファルセットで歌い上げる夢心溢れる一つ一つのフレーズは極めて印象的ですが、何が一番優れているかと言えば、ブレイク、つまり間(ま)であることは間違いありません。動画0:58の”ah … only youuuuuu”に見られるこれ以上ない抜群の間はリズム&ブルースの神髄であり、その魂は多くのブラック・ミュージシャンによって引き継がれました。

■28 That’s All I Want from You / Jaye P. Morgan
WW2直後にドリス・デイが始めた伝統的女性ポップ・シンガーの歌唱スタイルです。

■27 The Naughty Lady of Shady Lane / The Ames Brothers
1920年代から脈々と続くバーバーショップ・カルテット(床屋さんが客を呼ぶために店先で歌わせた4人コーラス)のスタイルを引き継いだコーラスグループです。街を賑わすいたずら好きな女性の魅力を紹介しながら進行するこの曲のオチは最後に現れます。その女性とは生後9日の赤ちゃんだったのです。

■26 Hard to Get / Gisele MacKenzie
最高に美しい緑と水の自然環境に溢れるカナダ中部の街、ウィニペグ出身の女優で歌手のジーゼル・マッケンジーの素朴で美しい最大のヒット曲です。

■25 Ko Ko Mo (I Love You So) / Perry Como
ペリーコモのブギウギです。ロックンロールの原型の一つと言われています。

■24 The Ballad of Davy Crockett / Tennessee Ernie Ford
カントリー・ミュージックの名曲「デイヴィ・クロケットのバラード」はこの年のトップ30に3曲がランクインしています。これはアラモの戦いの英雄デイヴィ・クロケットを主人公とするテレビシリーズ(ディズニー)がこの年に放映されたことによります。

■23 Honey-Babe / Art Mooney
戦争映画『Battle Cry』の主題曲です。この年も映画の主題歌が次々に大ヒットしました。

■22 The Ballad of Davy Crockett / Fess Parker
テレビシリーズでデイヴィ・クロケットを演じたフェス・パーカーによるオリジナル・ヴァージョンです。ちなみにカントリー・ミュージックは、西部開拓時代に存在したものではなく、20世紀に入ってフォークソングから進化したものです。

■21 Unchained Melody / Al Hibbler
この年公開の映画『アンチェインド』で使われた美しい主題歌のカヴァーです。デューク・エリントン楽団でキャリアを始めた盲目黒人歌手アル・ヒブラーのソウルフルなR&Bヴァージョンは、10年後にライチャス・ブラザーズのカヴァーで大ヒットします。

■20 A Blossom Fell / Nat King Cole
ナット・キング・コールがジャズシンガーからポップシンガーに完全に移行した頃の曲です。ジャンルに関係なく素晴らしいヴォーカルです!

■19 Let Me Go, Lover! / Joan Weber
アルコール依存症の曲「Let Me Go, Devil(私を離して、悪魔)」の替え歌で、テレビのサスペンス・ドラマの挿入歌として使われました。火曜サスペンス劇場のあれですね(笑)

■18 Mr. Sandman / The Chordettes
バーバーショップ・カルテットのコーデッツが「ミスター・サンドマン、私に夢を運んで」と歌います。世界の覇者となった強き米国の何とも幸せな時代のアメリカン・ドリームを想起させてくれる曲です。

■17 Moments to Remember / The Four Lads
米国が繁栄の絶頂にあった1955年は、現代の米国市民にとってまさに「古き良き時代」であると言えますが、この曲は、その1955年の米国市民が過去の「古き良き時代」を懐かしんだ曲です。過去が良く思えるのは、美しい長期記憶を選択的に保持する人間の認知バイアスのためであり「古き良き時代」は基本的にキリがありません(笑)

■16 Tweedle Dee / Georgia Gibbs
この頃までは、ビッグバンドをバックにした陽気で軽妙でスウィンギーなヒット曲が多数生まれていました。このスタイルこそポピュラー・ミュージックのメインストリームだったのです。

■15 Hearts of Stone / The Fontane Sisters
フォンテーン・シスターズは、アンドリューズ・シスターズの流れを汲む正統派の姉妹コーラス・グループです。この時代のスウィングはいつも幸せな気分にさせてくれます。

■14 Learnin’ the Blues / Frank Sinatra
50年代のシナトラのバックを務めるビッグバンドは演奏の完成度が高く、シナトラは余裕を持って自由自在にスウィングしています。シナトラが約10年間にわたる音楽的な絶頂期を迎えた時代の一曲です。

■13 Sixteen Tons / Tennessee Ernie Ford
炭鉱労働者をテーマにしたワークソングです。4ビートは1930年からポピュラー・ミュージックの主流でしたが、このパフォーマンスにおけるアーシーを極めた4ビートは完全に異次元のものでした。コーラス間のブレイクでのスネアドラムのフィルインをアクセントにしてベースとドラムスが一体化して淡々とバッキングする中をテネシー・アーニー・フォードのブラック・フィーリング溢れたソウルフル過ぎるバリトン・ヴォイスが抑制的に語りかけます。素晴らしいの一言です!

■12 Melody of Love / Billy Vaughn
オーケストラ系のイージー・リスニングの大御所の出世作となった大ヒット曲です。

■11 The Crazy Otto Medley / Johnny Maddox
この1920年代のドタバタ映画のようなラグタイムがこの時代にヒットしたのは興味深いところです。これも古き良き時代へのノスタルジーでしょうか。

■10 The Wallflower (Dance with Me, Henry) / Georgia Gibbs
この曲こそ、何にでも果敢にチャレンジする活発な女性であるジョージア・ギブスの生き様を示していると思います。

■09 Ain’t That a Shame / Pat Boone
典型的なWASPのパット・ブーンは、米国の繁栄の象徴的イメージを持つ時代の寵児であり、不安など一つもなくいつも笑っている幸せな青年をキャラとしました。多分、天然です(笑)

■08 Sincerely / The McGuire Sisters
マクガイア・シスターズも米国の幸せな時代を象徴するかのように、仲がよくて明るくてとっても品がある3姉妹をキャラとしました。多分、彼女たちも天然です(笑)

■07 Love Is a Many-Splendored Thing / The Four Aces
映画『慕情』でジェニファー・ジョーンズ演じる悲劇のヒロインが想い出の丘に登るラストシーンで流れるスタンダード曲です。やはりオリジナルは泣けますね(笑)

■06 The Ballad of Davy Crockett / Bill Hayes
この年、最もヒットした「デイヴィ・クロケットのバラード」です。なぜこのヴァージョンが最も支持されたのか考えると、夜も眠れなくなります(笑)

■05 Unchained Melody / Les Baxter
アル・ヒブラーと同じ、映画『アンチェインド』に使われた主題歌のカヴァーです。「デイヴィ・クロケットのバラード」と同様、この頃は、ヒットした映画やテレビドラマの楽曲をスタイルが異なるアーティストが同時にカヴァーすることは珍しくありませんでした。

■04 Autumn Leaves / Roger Williams
クラシックとジャズをフュージョンさせてドラマティックに演奏するポピュラー・ピアノは、感情を揺さぶるスケールを独創的に展開していて本当に見事です

■03 The Yellow Rose of Texas / Mitch Miller
カントリー・シンガーによって歌われてきた南北戦争時のトラディショナル・ソングをミッチー・ミラー合唱団が勇壮に歌い上げています。指揮者のミッチー・ミラーはロックンロール反対派でした。

■02 Rock Around the Clock / Bill Haley & His Comets
映画『暴力教室』の主題歌としてブレイクしたこの大ヒット曲は、ロックンロールを世界に知らしめて、その時代の幕開けを告げました。演奏のフォーマットは、ヴォーカルでリズムギターを担当するビル・ヘイリーとリード・ギターのフラニー・ビーチャーを中心にスティール・ギター、エレクトリック・ギター、テナー・サックス・ピアノ、ウッド・ベース、ドラムスという構成です。曲の展開は、ドラムスのフィルインとヘイリーの掛け合いを繰り返す絶妙のイントロで盛り上がりながらブルース形式の本体に入っていきます。そのパフォーマンスは、ドラムスの強いビートとベースのスラップ奏法(たたきつけ奏法)にリズムギターを被せるというまさにロックンロールのプロトタイプのリズムセクションの上を、シンコペーションを効かせたヘイリーのヴォーカルが乗り回すものであり、途中ビーチャーの印象的なギターソロとサックスをフィーチャーしたアンサンブルの間奏を挟みながら、さらに盛り上がっていきます。そして、エンディングはブレイクでビ―チャーのギターがキラキラと輝き、全員で一音弾いて終わるというコテコテの展開です。彼らは歴史を創りました。

■01 Cherry Pink And Apple Blossom White / Perez Prado
これぞ、マンボ!!!オープニングのトランペットを聴くだけでカリブ海の砂浜でカクテルを飲んでいる気分になれます(笑)。アフロキューバンのクラーベのリズムに乗せられてリゾートの雰囲気満喫です。素晴らしい!

やはり、私にとって、この年のNo.1はこの曲です

[Rock Around the Clock / Bill Haley & His Comets]

ロックンロールは、黒人のリズム&ブルース(R&B)と白人のカントリー&ウェスタン(C&W)が融合したジャンルと言われていますが、直接的には横ノリのブルース(R&Bのルーツ)のグルーヴ感とと縦ノリのヒルビリー(C&Wのルーツ)のまくし立て感の融合が強いのではないかと私は思っています。『ロック・アラウンド・ザ・クロック』の演奏スタイルはロックンロールのステレオタイプとなり、時代はロックンロールへと突き進んでいきます。

実際には、ロックンロール自体は、1955年よりも前に既に存在していましたが、それが大衆に強く認識される契機となったのが『ロック・アラウンド・ザ・クロック』でした。この年公開された映画『暴力教室』、そしてジェイムス・ディーン主演の『理由なき反抗』は「ちょい悪」系の若者文化を開花させましたが、そのテーマ・ミュージックとしてロックンロールが強く受け入れられたものと推察する次第です。

なお、この年には、大ヒットまでには至りませんでしたが、リトル・リチャーズの名曲『Tutti Frutti』がリリースされています。翌年には、リトル・リチャーズの『Long Tall Sally』、チャック・ベリーの『Roll Over Beethoven』がリリースされました。そして、ロックンロールの最大のスーパースター、エルヴィス・プレスリーが『Heartbreak Hotel』を引き下げて表舞台に登場することになります。


編集部より:この記事は「マスメディア報道のメソドロジー」2021年9月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はマスメディア報道のメソドロジーをご覧ください。