独ウイルス学者「今秋が危ない」

ドイツの世界的ウイルス学者、クリスティアン・ドロステン教授(シャリテ.ベルリン医科大学ウイルス研究所所長)は1日、ドイツのラジオ放送のサンドラ・シュルツ記者とのインタビューに応え、この秋のドイツの新型コロナウイルスの感染状況について語った。同教授は、「秋には社会的接触の制限が再び必要となる。デルタ変異株のウイルスは感染力が強く、患者の入院率は高い一方、ワクチン接種率は低すぎるからだ」と主張し、ワクチン接種率を挙げる必要が急務だと強調した。

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ドロステン教授は今年5月9日、ドイツ公営放送ZDFの「ホイテ.ジャーナル」で、「ウイルスが消滅したわけではないから、大喜びするにはまだ早すぎる。ただし、ワクチン接種が進み、ドイツ社会で集団免疫状況が生まれてきたならば、新規感染者の急増といった状況はなくなるだろう」という楽観的な見通しを述べた。その教授が4カ月後、「この秋、感染がさらに拡大する危険がある」と警告を発したのだ。

ドロステン教授はメディア受けするインタビューをする学者ではない。自分の専門分野以外の政治的なテーマは絶対に発言しない。その教授が5月の見通しを変更し、感染拡大の危険を警告しているわけだ。真剣に受け取らなければならないだろう。そして教授が警告する理由は明らかだ。①デルタ株のウイルスが予想以上に感染力が強いこと、②国民のワクチン接種率が低い事――の2点だ(累積感染者数9月2日現在399万5188人、死者数9万2325人、新規感染者数はここにきて増加傾向にあり、1日1万人以上の感染者が報告されている)。

ドロステン教授は、「秋には再び人的接触を制限する必要が出てくる。具体的には、10月には人との接触を現在より10%減らし、11月には30%減らす必要がある」と予測している。同時に、「ワクチン接種を受けた人の感染に対する免疫力は数カ月後に大幅に減少する」という。

英国の研究結果によれば、デルタ変異株のウイルス感染者の入院率が予想よりも大幅に高く、アルファ変異株のそれより最大で2倍という。また、ワクチン接種による免疫力は4カ月間から6カ月間で失われることが判明した。だから、「ドイツは予防接種率を高める対策を取る必要がある」というわけだ。ドイツの接種率は約61%に過ぎない。同教授によれば、「低すぎる」わけだ。

ドイツの国立感染病研究所「ロベルト.コッホ研究所」(RKI)が今年7月に公表したモデルケースによれば、60歳未満の成人には85%のワクチン接種率が必要であり、60歳以上の成人には90%を超えるワクチン接種率が願われる。それが実現されれば、この秋は無事乗り越えることが出来るというシナリオだった。そして7月末では12歳以上の子供にもワクチン接種が行われた。しかし、RKIのシナリオは7月末段階の予測だったが、現在は状況が変わってきたのだ。当時のシナリオはデルタ変異株の感染力を低く見積もっていた。

ドロステン教授は、「秋になると感染の危険性が大きくなる。ワクチン接種を受けた人々に対しても接触制限が必要だとは言いたくないが、社会全体のワクチン接種率を高める必要がある。ドイツでは2回のワクチン接種を終えた人は61%に過ぎない。60歳以上の感染危険の年齢層では83%弱だ。十分とはいえない。60歳未満の成人グループではわずか65%だ。このようなワクチン接種率で秋を迎えることはできない」と警告する。

RKIによると、9月3日現在、12歳から17歳までの2回接種率は22.2%、18歳から59歳は65.7%、そして60歳以上は82.9%となっている。2回のワクチン接種を終えた国民総数は2日現在で約5080万人。ドイツでは約400万人が感染から回復したと考えられており、これは全人口の5%未満に相当する。

繰返すが、RKIのシナリオは、60歳未満の成人の85%がワクチン接種を受け、60歳以上の成人の90%以上ワクチン接種を受けるという前提で考えられた予測だった。ドロステン教授は、「その予測はもはや有効ではなくなった」というわけだ。

例えば、イギリスでは多くの国民が感染症を経験しており、自然免疫を持っている国民が多い(ドロステン教授は「多くの故人(犠牲者)の代償を払って英国が購入したもの」と表現している)。イギリスでは、人口のほぼ95%が、ワクチン接種または感染したため、コロナウイルスに対する抗体を有していると推定されている。しかし、ドイツはそこまでには程遠い状況だ。

ドロステン教授は、「原則としてはワクチン接種で感染を十分に抑えることができるが、そのためには国民の90%は予防接種を受けなければならない」と強調している。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2021年9月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。