記述主義の誤謬

記述主義の誤謬

descriptive fallacy

前提となる言説に使われている言葉の言外の意を無視して文字通り忠実に解釈することで異なる結論を導く

情報操作と詭弁論点の誤謬論点曖昧記述主義の誤謬

<説明>

論証とは前提から結論を導くプロセスですが、前提となる言説に使われている言葉が言外の意を含む場合には、それを無視して文字通り忠実に解釈することで、異なる結論を導いてしまうことがあります。これを記述主義の誤謬と言います。

詭弁を使うマニピュレーターは、この言葉の曖昧さにつけこんで、意図的に前提となる言説を誤解釈することで自分にとって好都合な結論を導きます。

誤謬の形式

前提の言説Spに使われている言葉Wの文字通りの意味はmfなので、結論の言説Scfが導かれる。

※ここで、言外の意味を持つWの意味するところはmfではなくmtであり、前提の言説Spから導かれる真の結論の言説はSctである。

<例1>

<例1a>
A:私の父はこの厳寒の地で静かに眠っています。
B:寒さに強いですね。私だったらブルブルして眠れそうもありません。

Aが言う「眠っている」とは「墓がある」という意味であり、Bが考えている文字通りの「眠っている」ではありません。

<例1b>
A:エンゼルスの大谷翔平選手は甲子園に行ったことがある。
B:僕もあるよ。この前も阪神-巨人戦を観てきた。

Aが言う「甲子園に行ったこと」とは「全国高校野球甲子園大会に出場したこと」という意味であり、Bが考えている文字通りの「甲子園に行ったこと」ではありません。

以上の例について「墓がある」ことを「眠っている」、「全国高校野球甲子園大会に出場する」ことを「甲子園に行く」というのは、言葉を文字通りの意味ではなく別の意味で用いる【メタファー=隠喩 metaphor】と呼ばれる比喩表現です。このメタファーを文字通り使うと記述主義の誤謬を引き起こします。

<例2>

<例2a>
A:鳩山由紀夫氏は宇宙人だ。
B:それなら早く東スポに教えてあげないと。

Aが言う「宇宙人」とは「これまで見たことのない風変わりな人」といった意味であり、Bが考えている文字通りの「宇宙から来た人」ではありません。なお、鳩山由紀夫氏は自分が宇宙人であることを公認しています(笑)

<例2b>
A:君は鬼のように優しい人だね。
B:鬼は優しくないと思うけど。

Aが言う「鬼のように」とは「驚くほど凄く」という強調表現であり、Bが考えている「鬼さながら」という文字通りの意味ではありません。

例2においては「宇宙人」「鬼」という存在(実在するか否かはここでは無関係)に対して社会に浸透している固定化された観念が言外の意として作用しています。この固定観念を【ステレオタイプ stereotype】と言います。このステレオタイプを文字通り使うと記述主義の誤謬を引き起こします。

<事例1>

<事例1a>テレビ朝日『報道ステーション』2017/10/10

安倍晋三内閣総理大臣:籠池さん自体が詐欺で逮捕され起訴されました。これはまさにこれから司法の場に移っていくだろうと思います。こういう詐欺を働く人物の創った学校で妻が名誉校長を引き受けたことは問題があった。

<事例1b>衆・予算委員会 2017/11/28

今井雅人議員(国民民主党):逢坂議員の御指摘のところで、ことしの十月十一日、テレビ朝日の『報道ステーション』、ここで総理はこういう発言をされています、こういう「詐欺を働く人物」のつくった学校で、妻が名誉校長を引き受けたことは問題だった、やはりこういう人だからだまされてしまったんだろうと。このことに対して総理は、この「詐欺を働く人物」ということを言った前提は、詐欺の疑いで逮捕、起訴され、今後司法の場で判断されるという前提で話をしたというふうにおっしゃっておられますが、この段階ではこの方は、被告人ではありますけれども犯罪者じゃありません。そして、詐欺を行ったかどうかもここではまだ確定されていません。まだ容疑がかかっている段階の方です。この方に対して、通常これは、総理も推定無罪の原則というのは御存じだと思いますが、この段階ではこの方は犯罪者じゃありません。その人に対して、こういう「詐欺を働く人物」、こうやって断定するのは、これは行政の長としては大変問題があります。この言葉は撤回してください。

安倍晋三内閣総理大臣:御指摘の発言については、その前に、認識ではなくて、述べているんです。籠池さん自体が詐欺で逮捕され、起訴されました、これはまさにこれから司法の場に移っていくんだろうと思いますということを実際に述べているわけでありまして、詐欺容疑で逮捕されたと。ですから、詐欺容疑を働いたという嫌疑がかかっている方ということで申し上げたわけでございます。

一般に警察から嫌疑を受けると被疑者、被疑者が逮捕されると容疑者(法律上は被疑者)、容疑者が検察に起訴されると被告人、被告人の罪が確定すると犯罪者と呼ばれることになります。安倍総理が籠池氏のことを「詐欺を働く人物」と言った段階では籠池氏は被告人であり、確かにまだ罪は確定していません。

ただし、安倍総理の発言は籠池氏の立場が被告人であることを明示した上での発言であり、誤解が生じないよう最低限の配慮はされています。また日本の社会通念として、容疑者となった段階で容疑を働いたものと仮定して報道や議論が行われるのが一般的です。例えば今井議員自身も、衆議院法務委員会において、裁判で罪が確定されていない事案(しかも起訴すら行われていない事案)に関して容疑者を犯罪者と決めつける発言をしています。

<事例1c>衆・法務委員会 2014/11/12

今井雅人議員(維新の党):本日は、現在公判中の美濃加茂市長起訴事件に関連して質問させていただきたいと思います。これは、最年少市長ということで話題になりましたので、皆さんも御存じじゃないかと思います。この事件は、融資詐欺で起訴された中林という人間が、美濃加茂市長が市議会議員の時代に現金30万円を渡して浄水設備の導入に便宜を図ってもらったという証言をしたことで、現職の美濃加茂市長が逮捕、そして起訴されたという事件であります(中略)実は、この詐欺師は、15件、合計で4億円近く詐欺を働いていますけれども、2件、2100万円分しか起訴されていません。しかも、この美濃加茂市の浄水プラントの設置に関して、美濃加茂市教育委員会委員長の公印を偽造して、同委員会名義の発注書を提出して、銀行から4000万融資を引き出しています。これについても、実は何の措置もとられていません。

このことから、今井議員が「詐欺を働く人物」という言葉を文字通り忠実に解釈して問題視したことは、総理大臣に対する単なる揚げ足取りに過ぎないものと考えられます。

日本の国会では、国民の生活ために政策を考える【争点型フレーム issue frame】の議論よりも、議員の生活のために政敵の揚げ足を取る【戦略型フレーム strategic frame】の自己アピールが優先されています。これは血税の搾取行為に他なりません。

なお、事例に記載した今井雅人議員の所属はいずれも当時のものです。今井雅人衆議院議員は当選4回ですが、いずれも所属政党への投票に助けられた比例復活当選です。比例復活当選であるにもかかわらず、民主党→日本維新の会→維新の党→民進党→希望の党→国民民主党→立憲民主党と目まぐるしく政党を渡り歩いています。党籍変更に伴う離党にあたっては、民主党と国民民主党から除籍処分を受けています。また、民進党では、森友学園調査チームの座長、加計学園問題の疑惑解明チームの座長を務めました。常に話題の政党に在籍して党勢の恩恵を受けるとともに、話題の問題で政権批判して国民にアピールした国会議員と言えます。

<事例2>

<事例2a>参・予算委員会 2010/11/18

仙谷由人内閣官房長官:今、法の精神と言われました。公務員という世界では、同じように政治的な中立性が求められると思います。そしてさらに、この暴力装置でもある自衛隊……(発言する者あり)まあある種の、ある種の軍事組織でありますから……(発言する者あり)軍事組織でもありますから、これはシビリアンコントロールが利かなければならないと。それから、まあ戦前の、戦前の経験からしまして、決して……(発言する者あり)じゃ、実力組織というふうに訂正させてもらいます。実力組織でありますから……(発言する者あり)実力組織でありますから、これは特段の政治的な中立性が確保されなければならないということだと思います。これは、これは……(発言する者あり)新解釈じゃありません。やっぱりこれは戦前の経験を、いわゆる軍国主義という経験をして、その中で、中からも外からも非常にある種の政治性の強い働きかけやあるいはその行為に、それに呼応する動きが出てきてあのようなことになったわけでありますから、特に実力組織としてはより念を入れた特段の政治的な中立性が保障されるべきだと。そのために、一般の国家公務員ではここまでだということであっても、関与を疑われるような行為もやってはならないと、あるいはそれに巻き込まれるようなことにならないように注意してくださいよと、こういう通達だと思います。

世耕弘成議員(自由民主党):きちっと議事録に残す必要があるので、自衛隊のことを暴力装置とおっしゃいました。これ、現場の隊員のためにもきちっと撤回と謝罪をしてください。

仙谷官房長官:そのとおり撤回をして実力組織と言い換えます。

世耕議員:謝罪も求めたんです。撤回だけじゃなくて謝罪もしてください。

仙谷官房長官:法律上の用語としては不適当でございましたので、自衛隊の皆さん方には謝罪をいたします。

<事例2b>民主党政権の政治主導に関する質問に対する答弁書 2010/12/03

菅直人内閣総理大臣仙谷内閣官房長官の「暴力装置」との発言については、本人によれば講学上の用語として発言したものではあるが、憲法の下で認められた自衛のための実力組織である自衛隊を表現する言葉としては不適切であり、本人も、同委員会において撤回して謝罪し、また、菅内閣総理大臣もこの発言についておわびを述べたところである。

民主党政権の仙谷官房長官が、自衛隊に対して「暴力装置」という言葉を使って国会答弁したことが問題化されました。マックス・ヴェーバーは主権国家は警察や軍隊といった【力の装置 instrument of force】を行使する権限を持つ【暴力の独占 monopoly of violence】の上に成立することを主張しました。この「力の装置」の概念は日本では「暴力装置」と訳されて現在に至っています。

まず、一般論として、文献で定義した専門用語を国会議論に用いることは、極めて合理的な行為です。しかしながら、「暴力装置」という用語は「暴力」「装置」というメタファーで構成されており、社会通念上、「暴力」という言葉はネガティブな印象を与え、また「装置」という言葉も人間に対するメタファーとしては適正でないとする価値観を持つ人が多くいます(例えば、女性は子供を産む「機械」)。この言外の意を持つ専門用語の定義を認識していない場合には、用語を文字通り解釈するしかなく、自衛隊に対して悪印象を抱くことになります。国会があまねく国民のための議論の場であることを考えれば、仙谷官房長官には「暴力装置」が専門用語であることを説明する配慮が必要であったものと考えられます。

但し、「暴力装置」が専門用語であることを適正に説明すれば、この用語を使うこと自体は自衛隊を貶めるものではなく、謝罪に相当する行為ではなくなります。仙谷官房長官が用語の撤回と謝罪要求に屈して、用語の正しい意味を悦明することなく撤回し謝罪したことは合理的ではありません。なお、「暴力装置」を「実力組織」と言い換えることは至極適正なアイデアであると考えます。

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