高市早苗氏は中韓に迎合する「風評加害者」

池田 信夫

高市早苗氏の原発処理水についての発言(1:20ごろ~)が問題になっている。これは今年4月のブログ記事で彼女が書いたことと同じだが、根本的な誤解がある。

彼女が問題にしているのは、2015年8月25日に東電が福島県漁連に出した回答についての経産省の文書が、経産相の海外出張だったために臨時代理の高市総務相の名で出されたという話だ。

この回答書は表題にもあるようにサブドレン(井戸などの地下水)からの排出の話で、これはもともと県漁連が同意している。ここにも(通常の水と同じく)トリチウムは含まれているが、全国の原発でもサブドレンから放水しており、問題ない。

経産省がその前日に高市氏の名前で出した文書は、この合意事項を政府が確認しただけの話だが、高市氏が「はめられた」などと筋違いの話をしているのは、サブドレンとALPS処理水の違いを知らないからだろう。

東電の回答書の4では、ALPS処理水について「建屋内の水は多核種除去設備等で処理した後も、発電所内のタンクにて責任を持って厳重に保管管理を行い、漁業者、国民の理解を得られない海洋放出は絶対に行わない事」と書いている。

高市氏は「内容を承知していない文書を私の名前で発出されていたことを腹立たしく思う」と書いているが、これは地元の理解がえられるまで放出しないという(2015年当時の)原則論を繰り返しているだけだ。これは今年4月13日の関係閣僚会議で変更され、処理水は2年後に海洋放出することになった。

中韓の理解がえられるまで待っていたら海洋放出は永遠にできない

ところが高市氏はそこから「日本産食品の輸入規制を続けている国と地域が15も残っています」といい、「現在も続いている「風評被害」を、各国との交渉によって解決する方が先ではないでしょうか」と、今年4月の閣僚会議決定を否定し、「順序が違う」と海洋放出に反対する。

すでに関係各国には外務省が何度も説明しているが、中国と韓国は日本の主張を認めない。彼らの理解をえるまで放出しなかったら、永遠にできない。このように風評被害を理由にして、科学的に根拠のない感情論を繰り返してきたのが、高市氏の憎む朝日新聞を初めとする風評加害者である。

井戸(サブドレン)から出る自然の水には、トリチウムが含まれている。世界のどこの発電所でも、温排水にはトリチウムが含まれているが、薄めて放出されている。福島のALPS処理水のトリチウムだけが薄めても流せない科学的根拠はないのだ。

科学を無視して「ゼロリスク」を求めるマスコミが、福島でも豊洲でもコロナでも、不安をあおって風評被害を拡大し、それに迎合するポピュリスト政治家が問題を混乱させてきた。安倍政権は「トリチウムは薄めて流すしかない」という結論から5年以上、問題を先送りしてきた。

菅政権はようやく閣僚会議の決定までこぎつけたが、高市氏はそれをひっくり返そうというのだから、「順序が違う」のはどっちか。もしかすると彼女は、事故処理と震災復興を妨害しようとする中韓のスパイなのではないか。