カリフォルニア州知事リコール選挙が14日、行われます。同州のリコール選挙は2回目で、前回は民主党のグレイ・デービス知事(当時)が放漫財政による財政赤字とエネルギー価格の急騰を受けて、赴任人投票が可決され辞任を余儀なくされました。
現職のギャビン・ニューサム知事(53歳)の場合、自らがリコールに追い込んだも同然です。日本で称賛を浴びた公衆衛生上の制限措置、マスク着用の義務化、学校閉鎖など、同氏は徹底したコロナ対策を実施、これが一部のカリフォルニア州民に多大なストレスを与え、経済活動停止明けの20年6月からリコール嘆願活動が始まります。再び感染者数が増加するなか、ニューサム氏は20年11月19日に感染拡大防止のためソフト・ロックダウンを導入しました。しかし、同じ時期に高級フランス料理店”フレンチ・ランドリー”にて10名以上でディナーを満喫した事実が発覚。生活を制限され続けた州民の猛烈な怒りを買いリコール歎願署名が規定の150万人を突破した結果、選挙に至ったというわけです。
リコールの仕組みは2つのステップから成り立ち。まず、ニューサム氏への解職請求にイエスかノーかを回答します。イエスと回答した有権者は、ふさわしい候補者を選出。不信任投票が50%を超えれば、最も多く票を集めた候補がニューサム氏の残りの任期(23年1月初めまで)を務めます。
46人の候補者を党派別でみると、野党である共和党は最多の24人を数え、他に無党派10人、民主党9人、緑の党2人、自由党(リバタリアン)1人と続きます。
台風の目は、保守系ラジオトーク番組のホストであるラリー・エルダー候補(69歳)です。エルダ―氏は当初、要件を満たした候補者として認定されませんでした。カリフォルニア州では2019年に成立した州法で5年間の所得税申告書類を提出する義務が課せられていたところ、不備がありウェバー州務長官に受理されなかったためです。しかし、エルダー氏は州務長官を提訴、サクラメント郡上級裁判所がこれを認め立候補要件から削除した結果、正式な候補と認定されました。
エルダ―氏は、映画「ボーイズ・イン・ザ・フッド」に登場したクレンショー高校卒業後にブラウン大学とミシガン大学で学士を取得。「政治や経済は女性には分からない」など、差別的な発言で批判を浴びる半面、人種差別の被害者ではなく自立を促す物言いで「サウスセントラル(現ロサンゼルス南部、コンプトンを含む貧困地域の名称)の賢人」として名を馳せるようになりました。
カリフォルニア州は全米でも最もリベラル寄りの州で知られ、民主党員と共和党員の割合は2対1。2020年の大統領選ではバイデン候補が約30ポイント差で大勝しました。ただ、知事としてはレーガン元大統領の他、前述のデービス知事のリコールを受け当選したシュワルツェネッガー氏など、戦後11人中6人が共和党出身なんですよね。
とはいえ、足元で支持率動向をみると、ニューサム氏の続投が54.3%と不信任の42.0%を上回ります。エルダー氏はトランプ前大統領を始め共和党有力者を受けていない上、その保守的な発言が慢心し掛けた民主党員の結束を招いていることが一因でしょう。
ニューサム氏の豊富な資金力も、追い風となっています。グーグルによればリコール選挙でのWeb広告費は約360万ドルに膨らみ、そのうち約8割の303万ドルがニューサム陣営で、エルダー陣営は11%程度でした。さらに、8日にはハリス副大統領が応援に駆け付け、弾みをつけます。
「破壊は困難を伴うが、創造を伴う」とは、名曲”カリフォルニケーション”の一節です。決戦の火曜日、世論調査結果通りカリフォルニア州民がニューサム氏続投を選ぶか否かは別として、リコール選挙が中間選挙に向けた破壊と選挙戦略の創造となることは間違いありません。
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2021年9月9日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。