バイデンがもたらす「9.11ステージ2.0」の災厄

アフガニスタン情勢ばかりに焦点が当たっているが、イラクのアメリカ軍の大幅撤退に付随し、更に大きな地殻変動が起こるのではないかと懸念される。本日の9月11日が次の20年の大きな節目となるのではないか。

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カブール陥落前の7月26日、ホワイトハウスで、バイデン大統領はイラクのカディミ首相と会談し、イラクでのアメリカ軍戦闘任務を年内に終了することを表明している。

アメリカ軍は完全撤退するわけではなく、現在、駐留している約2500人の米兵の内、一部を残すという方針であるが、もし、予定通り変更なく、大幅撤退させるならば、アフガニスタンで生じさせたような「力の空白」がイラクにも生ずるだろう。

アメリカ軍が養成したイラク軍約25万人の兵力を評して、バイデン大統領は「イラクを十分に守る能力がある」と言っているが、アフガニスタン軍は我先に逃げ、まったく当てにならなかった。

この「力の空白」を埋めようと虎視眈々と狙っているのがイランである。保守派のエブラヒム・ライシ師が8月、新大統領に就任し、どのような強硬路線を展開するのか、予断を許さない状況である。
2001年の9.11同時多発テロの後、はじめられたアフガニスタン戦争やイラク戦争、米軍駐留等などの一連の「テロ戦争」に、約600兆円(ブラウン大試算)もの巨費が投じられている(アフガニスタンだけならば約200兆円)。経費削減もさることながら、中国への対応を優先し、中東への関与を減らす狙いがあるとされている。

アフガニスタンとイラクに駐留するアメリカ軍削減の方針は既に、トランプ政権の時から決められていた。こうした中でも、トランプ大統領は2020年1月3日、イランの革命防衛隊のスレイマニ司令官を暗殺するなど強硬姿勢も示しながら、削減方針が練られていた。

しかし、バイデン大統領の下、アフガニスタン撤退が恥ずべき結果に終わったこともあり、イラクでのアメリカ軍の大幅撤退が更なる惨劇を招く可能性がある。

アメリカの中東におけるプレゼンスの著しい低下は避けられず、レバノンのヒズボラ、イエメンのフーシ派、 パレスチナ自治区ガザの原理主義組織ハマス、イラクのシーア派武装組織「人民動員隊(PMF)」などの反米過激派はイランと連携しながら、その勢いを強めている。IS(イスラム国)の再興も急速に進む可能性もある。

一方、イスラエルは2020年の8月に、アラブ首長国連邦(UAE)と国交正常化に踏み切るなど、アラブ諸国の切り崩しに成功しているが、イランやハマスとの敵対関係が深まっている。アメリカのプレゼンスの低下の中、対立の火種が大きくなるばかりである。

バイデン政権はイランの核問題を外交によって解決し、中東問題の打開策としようとしているが、これは到底、話し合いによって解決できることではない。

バイデン政権では、こうした危機に対応できない。アフガニスタン撤退への批判が巻き起こり、バイデン大統領の支持率が急落している。更に急落し、早期にレームダック化する可能性は小さくはない。