高市候補が言及した核融合発電に追い風の吉報

高橋 克己

「皇室維持とエネルギー政策が判断材料」と拙稿に書いたからのはずはないが、河野太郎候補は10日の出馬会見で、この二つに関するこれまでの持論をあっさり引っ込めてしまった。これを臨機応変な現実的対応と見るか、単なる姑息な変節と見るかは人によって異なろう。

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筆者は後者だと思う。その訳は原発について「安全が確認された原発を再稼働していくのはカーボンニュートラルを目指す上である程度必要だ」としながら、「いずれ原発はなくなっていくだろうが、あした、来年やめろと言うつもりではない」と彼が述べたからだ。

「安全が確認され」て「再稼働していく」原発が「いずれ」「なくなっていくだろう」とする、破綻しているようにも聞こえる思考回路を筆者は理解できない。つまりこれは、河野候補の反原発が理屈ではないことを物語る。女系容認での変節も理屈ではないのではあるまいか。

日米首脳会談の菅さんの様子を、ルーピー鳩山が「不慣れなオロオロ感がモロ」と腐したが、筆者は「『飾らずに地を出した』と好感した。人となりを見せ合う場に付け焼刃は要らぬ」と拙稿に書いた。河野候補は「日本を日本足らしめているのが皇室(と日本語)」と述べたが、「付け焼刃」は脆い。

他の2候補のエネルギー政策だが、原発について岸田候補は「まずは再稼働を進めるべきだ。そこから先は国民と対話していく」とし、「大きな柱は再生エネルギー」だが「それだけでは現実的には難しい。原子力は引き続き維持しなければいけない」と、この人らしい優等生の発言をした。

高市候補はJ-CASTニュースの3日のインタビューで、これもこの人らしい正直さで「文藝春秋には小型モジュール原子炉(SMR)について書」いたが、炉が小さいSMRは「地下に立地させることで安全を担保」できるが「核廃棄物が出」るとし、「本当に見据えているのは核融合炉」だと述べた。

その核融合発電で8日、ビッグニュースがあった。マサチューセッツ工科大学(MIT)が「MITが設計したプロジェクトは核融合エネルギーに向けて大きな進歩を遂げた」と発表したのだ。「新しい超電導磁石は磁場強度の記録を破り、実用的で商業的な無炭素電力への道を開く」と小見出しにある。

現存する原発は核分裂のエネルギーで蒸気を発生させて発電タービンを回す仕組みだが、核融合はこれとは仕組みが異なるようだ。我が文科省は核融合とそれを使った発電について「核融合研究」なるサイト判り易く説明している。先ずはその概要を見てみる。

太陽のエネルギーが核融合によって生み出されていることから、核融合研究は「地上に太陽をつくる」研究ともいわれる。核融合発電には「資源(*重水素)が海水中に豊富にある」、「二酸化炭素を排出しない」などの利点がある(*核廃棄物もほとんど出ない)。

「磁場閉じ込め」による核融合エネルギーの研究開発は、軍事用技術と原理が異なるため、冷戦下85年のレーガンとゴルバチョフの会談で、平和目的のための核融合研究を国際協力の下で行うことが提唱された。目下、日欧米露中韓印がITER協定を締約し、ITER(イーター)計画が推進されている。

研究開発は大きく三段階に分けられる。第一段階は、核融合プラズマ生成に必要な加熱エネルギーよりも、そのプラズマで実際に核融合反応が起きたときに出るエネルギーの方が大きくなる状態(臨界プラズマ条件)の達成が課題とされる。

第二段階は、加熱をやめても核融合エネルギーによって核融合プラズマが持続する状態(自己点火条件)を達成することと核融合プラズマの長時間維持に道筋を付けることなどで、実験炉の建設を通した炉工学技術の発展や材料開発など多くの課題があり、現在はこの段階。

第三段階では、実際に発電を行い、経済性の向上を目指して必要な課題に取り組むための核融合原型炉デモの建設、運転等を行う。これらの段階を経て、実用段階である商用炉を目指すとしている。

核融合反応を起こす方法としての「磁場閉じ込め」の代表例としてトカマク方式とヘリカル方式があり、「慣性閉じ込め」の代表例としてレーザー方式がある。MITの方式はトカマク方式で、フランスのITERや日本のJT-60SAが採用している。少々難解だが文科省サイトの概要を続ける。

核融合反応を起こすためには、燃料を加熱してプラズマにする。その時、プラズマは分子が電離、つまりプラス電荷を持つ陽イオンとマイナス電荷を持つ電子に分かれて運動している。電荷を持つ粒子は磁力線に沿って運動する性質があるため、磁場を使ってプラズマを閉じ込め、更に加熱することで、超高温の核融合プラズマを生成する。これが「磁場閉じ込め」方式。

トカマク方式は、Dの字の形をしたコイルを円状に並べ、コイルの中にドーナツ状の磁場を発生させる。そしてドーナツの中心にあるコイルでプラズマに誘導電流を流し、ドーナツの断面を回るような磁場を発生させる。

これら2つの磁場の重ね合わせによってねじれた磁場を形成し、プラズマを閉じ込める。なお、誘導電流を半永久的に流すことは現実的に不可能なため、プラズマを長時間閉じ込めるためには、加熱装置を使用して電流を流し続ける必要がある。

文科省サイトより

そこでMITの発表だが、先述のように核融合発電では「臨界プラズマ条件」が、トカマクでは「磁場の発生」がキーワードだ。MITの成果をごく単純化していえば、「世界最強の核融合磁石」を創って、高効率の「臨海プラズマ条件」を達成したということのようだ。

この「世界最強石」の開発に協力したコモンウエルス・フュージョン・システム(CFS)は、このデモの成功は「消費するよりも多くの電力を生成する世界初の核融合発電所の建設」という「不確実性を解決するのに役立つ」とする。つまりは、エネルギー効率がプラスになったということだ。

小泉環境相のお好きな再生可能エネルギーの最大の弱点はこのエネルギー効率だ。CO2の発生を軽減するための電気自動車や水素自動車、そして太陽光発電にしても、電気や水素や太陽光パネルの生産時や、太陽発電送電時やバックアップ発電時の、CO2の発生やコストなどを考慮する必要がある。

つまり、100の価値を生み出すために、別の価値を110投入するのでは間尺に合わないということ。MITの核融合発電は「世界最強の磁石」の開発に成功したことによって、例えば90の投入によって100を生み出せるようになったということだ。

高市候補がMITのことを知っていて3日の取材に答えたのかどうかは知らぬ。が、計ったような絶妙のタイミングでMITの成功が報じられたことは、彼女に運があることの証左。ワクチン接種とオリパラの大成功が、デルタ株で相殺された菅さんの不運を思うと、運も実力のうちか。