ビットコインを世界初法定通貨にしたエルサルバドル。独裁国家だからできた?

ナジブ・ブケレ大統領 (EL SALVADOR, BITCOIN COMO DIVISA OFICIAL. 09-09-2021.

ビットコインを世界初の法定通貨にしたエルサルバドル。市民の意向を無視した独裁国家であるが故にそれが実行できた。

ビットコインの法定通貨に68%の国民が反対

中米エルサルバドルが今月ビットコインを世界で初めて法定通貨とした。人口僅か640万人の国で68%の国民がその導入に反対しており、また国民の78%が政府公認の「チボ・ウォレット」をダウンロードすることに興味がないと表明している。しかも98%の国民は生活苦にあり、インターネットを使う余裕もない。(9月7日付「エルパイス」から引用)。

そのような国でビットコインを法定通貨とすることができたのもナジブ・ブケレ大統領が一院制の定員84議席の立法議会で彼の政党「新しいアイディア(Nuevas Ideas)」が3分の2の56議席を有しているからだ。そして彼は今、独裁への道を歩み始めている。現在のエルサルバドルはブケレ大統領の意向がすべて法制化されるまでになっている。何しろ、司法も彼の支配下に置いているからだ。

議会で3分の2の議席を利用して独裁への道を歩み始めたブケレ大統領

ブケレ大統領は2019年9月の国連総会で演壇に立って演説する前に自らをセルフィーするという芸当をやってのけた人物である。彼は市民の間で自分がどのように映っているのかというのを中毒に罹っているかのように気にする人物である。特にそれが今年2月の総選挙で彼の政党が圧勝するまでその傾向の強かった人物だ。そして一旦、議会を制するようになると彼は国民の意向を無視した独裁者に変身したのである。

彼が政界に登場する前までのエルサルバドルは1980年から1992年までの内戦のあと、右派の「国民共和同盟(ARENA)と左派の「ファラブンド・マルティ民族解放戦線(FMLN)」の2政党が政権を交代していた。ところが1999年から2019年まで4人の大統領が汚職に絡んでいたことが判明。その内の2人はニカラグアに亡命した。

腐敗に満ちた政治にうんざりしていた国民の前にパレスチナ人2世で当時37歳の企業家が新しい政治を議会に持ち込むとして第3政党に間借りして立候補して当選。大統領になってからは準備していた新しい政党を創設。それが前述した彼の政党である。

ブケレ氏へのこれまで国民からの支持率は71%と高い。政治の腐敗と暴力の横行にうんざりしている国民は彼に改革を期待したからである。エルサルバドルも中米のホンジュラスそしてグアテマラと同様に職場が十分になく、若者が中心となった暴力組織がはびこっている社会だ。その数はおよそ10万人。それに一般市民の親派が100万人いると推測されている。

ところが、ブケレ氏はこの暴力組織を厳しく取り締まるのではなく、今年2月に実施された総選挙では彼の政党に投票するようにと暴力組織のひとつマラ・サルバトウルチャと交渉。その代りに刑務所での優遇を約束した。この密約を暴いた電子紙「エル・ファロ」のメキシコ人記者はブケレ大統領によって国外追放となった。(7月8日付「エル・ムンド」から引用)。彼が2019年に大統領選に立候補した時には、彼がその後独裁者に変身するとは誰も想像しなかった。

全国3分の1の数の判事を退職させて独裁化への基盤固め

更に彼の独裁振りを発揮したのは、立法議会での過半数以上ある彼の政党の議席を利用して60歳以上あるいは30年間使えた判事を退職させることを法制化させたのである。この結果、全国でおよそ700人いる判事の3分の1が退職を余儀なくさせられた。勿論、この法制化は憲法に照らして違法だと訴えた判事もいる。(9月2日付「エル・エスペクタドール」から引用)。

更に、ブケレ大統領は最高裁にも影響力を発揮して最高裁長官ホセ・アルマンド・ピネダ氏と最高裁評議会のメンバー9人を憲法に照らして違法行為があったとし、またコロナ禍での政府の取り組みを違法に制限させたとして解任した。その空席となったポストにはブケレ大統領の息のかかった判事を就任させた。

その目的は、2024年の大統領選挙にブケレ大統領が立候補できるようにするためである。これまでは大統領は1期5年であった。それを2期連続して大統領を務めることができると彼の意向を反映させた最高裁の法廷がそれを認める判決をしたのである。(9月4日付「BBCムンド」から引用)。

ビットコインの導入は国を危険にさせても儲けを期待しているからだ

このように独裁政治への道を歩みつつあるブケレ大統領は、コロナ禍による特別支出や財政難にある国の歳入を増やすことを期待してビットコインを法定通貨にしたのである。国民の前では外国に在住するエルサルバドルの移民が国内の家族に仕送りするための手数料だけでも40億ドルが節約できる。また外国から資金が集まるようになる。これらを理由に挙げてこの法制化を正当づけしている。仕送り金では年間でGDPの20%に相当する金額が外国に在住している移民による家族に送金されているという。

エルサルバドルは中米諸国の中で米国への不法移民が最も多い国で、しかも未成年者の不法移民者も相当占めている。

世界で初めてビットコインが法定通貨となったエルサルバドルということで注目を集めている。しかし、それもブケレ大統領による独裁国家で、しかも財政難にあることで儲けを期待してその導入を決定したのが理由であるということは知られていない。

そして案の定、エルサルバドルがビットコインを法定通貨として採用した日に、ビットコインは急落した。