米下院民主党、3.5兆ドル支援策の財源確保に法人税など増税を検討

9月27日までの成立を目指す約1.2兆ドルのインフラ計画、及び約3.5兆ドルの育児・医療支援策をめぐり、動きが出てきました。

franckreporter/iSrock

問題は財源で、約1.2兆ドルのインフラ計画は超党派で合意した際には増税なしを前提に、主に以下の案でまとまっていたものです。

・新型コロナウイルス支援金の未使用分や各州から返還される失業保険給付上乗せ分の割り当て
・石油戦略備蓄の売却
・徴税強化

しかし、約3.5兆ドルの育児・医療支援策を財政調整措置を活用し成立するには、更なる財源が必要です。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙など各報道によれば、米下院民主党は増税案を検討中。骨子は以下の通りです。

・法人税 21%→26.5%
(ただし法人所得が500万ドル以上に適用、40万~499万ドルは21%、40万ドル以下は18%に引き下げ)
・米企業のオフショア子会社などに対する最低税率 10.5%→16.5%
・個人の所得税最高税率の引き上げ 37%→39.6%
・500万ドル超の個人所得 3%の付加税
・キャピタルゲイン税の最高税率 23.8%→28.8%(当初の39.6%、投資収入に課す+3.8%を合わせると43.4以下に)
・2025年末までに適用される相続税非課税枠1,158万ドル→549万ドルの引き下げを21年末に前倒し
・プライベート投資会社の運用マネジャーが受け取る運用報酬への税優遇措置見直し(キャリード・インタレスト、現在はキャピタルゲイン税が適用されるが、所得税の税率へ変更)、
・タバコ税の引き上げ
・仮想通貨業界への課税強化

個人向け増税で1兆ドル、法人税増税で9,000億ドルなどを合わせれば、向こう10年間で2.9兆ドル補填されるのだとか。さらにメディケア・メディケイド・センターによる価格交渉力の強化など医薬品の価格設定の変更(7,000億ドル)、徴税強化(1,200億ドル)、その他の税制変更や経済成長で期待される歳入増を合わせると、3.5兆ドルの財源を確保できる見通しです。

ホワイトハウスのベイツ報道官は声明で、下院民主党案に対し「年収40万ドル以下の米国民に増税せず、トランプ前政権が富裕層と企業に与えた経済の健全性を強化に結び付かない減税を撤廃するというバイデン大統領の2つの目標を達成する内容」と評価しました。

問題は、民主党内で結束できるか否か。下院にプログレッシブが多い一方で、上院民主党のマンチン議員(ウエストバージニア州)など少なくとも中道派が9人存在します。1.9兆ドルの追加経済対策では最低賃金が除外されたほか、失業保険給付上乗せ支給額が400ドルから300ドルへ減額されるなど、当初案から変更を加えられました。

s-9

チャート:追加経済対策の策定段階での、民主党中道派の立場(作成:My Big Apple NY)

民主党中道派は今回も台風の目となること間違いなく、例えば法人税増税をめぐり、25%以上への引き上げにマンチン議員のほかワーナー議員(バージニア州)が反対する状況。既にマンチン議員は9月27日までの成立が困難との見解を寄せる通り、9月に嵐が吹き荒れそうです。あるいは、下院民主党で検討される増税案でキャピタルゲイン税の引き上げ幅が当初より低水準にとどまったように、米上院民主党案により穏健な内容に修正され、セル・ザ・ファクトならぬバイ・ザ・ファクトもあり得る?


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2021年9月13日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。