日本型経営の代名詞となった東芝

日経の中山淳史コメンテーターの記事「東芝社長の『心理的安全性』 忖度がしぼませる血気」が強烈でした。言葉は選んでいますが、そこまで書くか、という突っ込み方です。

同社はいつまでたっても問題解決が出来ず、結局、それが経営の方向性を決められない結果となっています。株主総会の際、綱川智氏が社長とCEOを兼任するけれど、適材を見つけ次第、自分は降りるという趣旨を述べていたのですが、いまだに展開が表立って見えてきません。その状況に対して中山氏は綱川社長が「やらされ感」「物言う株主への過度な『恐れ』の構図」「(物言う株主への)忖度」とまで言っています。

中山氏のポイントはこの一節にあります。「結局、トップのリーダーシップに問題はある。前に進めないのは複雑な状況下でアニマルスピリットの源となる何かが社長と取締役会議長を兼ねる綱川氏に欠けるせいだ。それは『心理的安全性』ではないかと筆者は考える。」と。

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私も東芝の件に関してはこのブログで過去20本以上は述べさせていただいたと思います。社風もよく、研究開発能力もあり、日本を代表する電機メーカーだったのにどこで踏み外してしまったのでしょうか?個人的に思うのはこの会社が海外事業に打って出ていた割に非常にドメスティックな社風だったということです。綱川社長からして先頭に立ってぐいぐい引っ張るタイプではなく、皆さんとの意見を調整して、というスタンスに見えます。

では前社長の車谷暢昭氏は何が問題だったのか、といえば同氏が銀行出身で銀行内での見栄え競争の戦歴が中心だったこと、最後は国との関係を自身の最大の武器として使おうとしたことだったと思います。事実、東芝を辞めた現在、氏は文部科学省国立大学法人評価委員長の任にあります。つまり再度、国に頼ったのです。

東芝を救えるのは国際的日本企業で圧倒的功績をあげた外部の実力者しかいないと思います。綱川氏は1979年に東芝に入社して同社一筋です。その同氏が呼び込んだアクティビストに対して社内には十分な黒船に対する免疫がありませんでした。おっとりしていた同社にとっては青天の霹靂だったでしょう。ただでさえ3人の歴代社長によるトラブルの火消しに追われる中で余計難しくしてしまった張本人であります。

今日、私は東芝の話をしたくて中山氏の記事を引用させて頂いたわけではありません。日本企業はその売り上げの5割以上を海外に頼る時代になっている中で企業の国際化を図らないと「日本企業沈没」が起こりえると思っているのです。「日本沈没」は小松左京氏が1973年に書き、爆発的に売れたSF本ですが、同書の背景には「日本人が国を失い放浪の民族になったらどうなるのか」をテーマに据えていた(ウィキ)とあります。今日の話でいえば「日本人」を「日本企業」と読み替えてみればよいでしょう。

アメリカ企業が強い理由を挙げよ、と言われれば私は迷わず「世界の一流人材を片っ端から集めた」と申し上げます。またその集め方は大学ともうまく連携しています。つまり、優秀な学生がそのまま企業に引っこ抜かれるわけです。企業内部はもちろん、様々な国籍の人がいます。このかけ合わせの文化がアメリカのビジネスの発想力を強化しています。

ですが、日本企業には積極的に外国人を幹部社員で取り込むところはまだまだ少ないでしょう。また取り込んでも白人が主流だと思います。私はその時点で既に負けているのだと思います。なぜなら白人と論破して競い合える能力を持つ日本人があまりにも少ないからです。一方、アジア人にも優秀な人はごまんといます。白人と仕事をするのはやりにくいけれどアジア人とは比較的親近感もあるでしょう。

日本企業が国際化するにはどうしたらよいでしょうか?私の30年の海外での仕事経験から一言だけ申し上げると「日本人の良さを最大限に生かしながらも日本人のプライドは横に置いておこう」です。海外に来たばかりの日本のビジネスパーソンに往々にみられるのが「俺は世界第3位の経済大国、日本から来たぜ」的な妙に肩に力が入っている方が多い点でしょうか?

腕組みをしながら話す人も多いと思いますが、腕組みというのは相手と対峙した時、自分が攻め入られないように防御するという心理の現れです。歴代のアメリカ大統領がディベート合戦の際、腕組みした人はほとんどいないでしょう。両手を開いて身振り手振りを交えてディスカッションする、これができるような日本人ビジネスパーソンが生まれるよう変貌しなくてはいけないと思っています。

東芝の行方は日本企業の行方を占う意味でも重要な研究対象でしょう。アクティビストの対策方法はあるはずです。その共通の目的はマネー。東芝には最後の切り札、キオクシアが残っています。一方、それがなくなればアクティビストはファイトするネタがなくなるのも事実です。連中は儲け代がなくなればいつまでも資金を寝かせておくわけにはないという弱みがある点を利用するぐらいのファイトを見せてもらいたいものです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年9月14日の記事より転載させていただきました。