高市早苗支持のLGBTはなぜ多いのか

松浦 大悟

blueshot/iStock

自民党総裁選報道が苛烈化する中、高市早苗候補に対する扱いがあまりにも酷過ぎると感じたので、思わずパソコンのキーボードに手が伸びてしまった。とりわけ筆者はゲイを公言している政治家なので、LGBTの観点からマスコミの問題点を論じてみたい。

高市早苗氏 首相官邸HPより

毎日放送のテレビ番組『よんチャンTV』では9月10日、ゲストとして出演していた高市議員に「あなたは、選択的夫婦別姓やLGBT法や同性婚に反対していますよね?」との趣旨の質問をした。つまり、高市議員は女性差別やLGBT差別を容認する人物だと視聴者に印象付けたわけだが、これ自体が情報として間違っており、高市議員はすぐさま訂正した。その時のやりとりを見ていこう。

大吉アナ「LGBTの皆さんの理解を深める法整備に関して高市さんはどちらかというと消極的だなというふうに私は思っています。もし違ったら教えていただきたいんですが、この辺りの多様性という部分、どうお考えでしょうか」

高市議員「まず私は基本的に差別というのは絶対にいけないと思っています。これはもう、私の基本です。で、あの、LGBTに関しましてはね、理解増進法案というのを自民党の中で作って合意しました。野党との協議の中でちょっとその内容がずいぶん変わるんじゃないかと、いうようなことで、まあそこで国会が終わってしまったと、議論が途中になってしまったという状況です。でも差別は絶対にダメ」

大吉アナ「ただ選択的夫婦別姓、及びLGBTの理解増進の法整備に関しては高市さんはどちらかというと反対のお立場ということは…」

高市議員「あ、理解増進法は賛成です。理解増進法はこれ自民党から、自民党の中で決めて、国会に提案してますからこれは賛成です。ただ夫婦別姓については戸籍の問題があります。さっき申し上げた子どもさん、苗字の決め方の問題がありますからこれは家庭裁判所で審判をすべきものじゃないと思っています。だからこの問題をちゃんとクリアしないといけないと思います」

大吉アナ「同性婚に関しては基本的には反対なんでしたっけ」

高市議員「まあ、今の憲法ではできません。『両性の合意によって』となっておりますので。だからまあ、さまざま法的な制約がありますよね。でもだからこそ憲法を変えなきゃいけません。だってもう色々できないこと、あるんですもん」

高市議員は丁寧に説明しているが、おそらくマスコミは、ここで高市議員が何を言っていたのかチンプンカンプンだったに違いない。僭越ながら筆者が少し解説したい。

ポイント① LGBT法は国会に二つ存在する

まず、LGBT法案には自民党が作ったLGBT理解増進法と野党が作ったLGBT差別解消法(現・LGBT平等法)の二つがあることを押さえておかなくてはならない。高市議員はLGBT法そのものに反対しているわけではなく、野党案には反対だと言っているのだ。

野党案では各県に作られる地域協議会(メンバーはLGBT団体や学識経験者など。多くは左派)によって差別案件の審査が行われるわけだが、条文には差別の定義が明確に書かれておらず、差別認定の恣意性を排除することができない。自民党議員が「野党案は第2の人権擁護法案だ」と批判する理由は、こうした構造的欠陥にある。

先日の記者会見で、立憲民主党の枝野幸男代表は選挙公約にLGBT平等法の制定を掲げたが、その中身が本当に素晴らしいものなのかを検証するメディアは皆無だ。

ポイント② 与野党協議で修正されたLGBT理解増進法には毒が盛られていた

LGBT議連の与野党協議では、自民党案であるLGBT理解増進法をベースに LGBT法案を一本化しようと汗を流していたが上手くいかず、担当者は野党議員の首を縦に振らせるために「性自認」「差別は許されない」の文言を組み入れることとした。ところが自民党の部会にこれを持ち帰ると大紛糾。この修正が「毒饅頭」だと気付いたからだ。

ここで読者の頭にはクエスチョンマークが灯るだろう。「差別は許されない」がどうしてダメなの、と。

「差別は許されない」は当然のことだ。しかしそれが「性的指向及び性自認を理由とする差別は許されないものであるとの認識の下」といった書き振りになると話は変わってくる。

現に、自民党のLGBT理解増進法に反対していた左派LGBT活動家やアライの弁護士からは、「性自認や差別という言葉が入ったことでこの法律は『使える法律』になった。どんなに不備があろうとも通してくれさえすればいい。あとはこちらで活用するから」といった旨の発言がSNSで聞こえてきたのである。

さて、「性自認を理由とする差別は許されない」とはどういう事態だろうか。経産省のトランス女性職員(性自認は女性、身体は男性、戸籍も男性)が女性トイレを使用させて欲しいと国を訴えた裁判は敗訴になったが、この法律が可決すれば、おそらく行政組織におけるこのようなケースはほぼ全て認められることになる。

それは自衛隊においても同様だ。「自分は、身体は男性だが性自認は女性なので、女性自衛官として扱ってほしい。トイレや風呂、隊舎も女性用を使いたい」「自分は、身体は女性だが性自認は男性なので、男性自衛官として扱ってほしい。トイレや風呂、隊舎も男性用を使いたい」と言われたら断ることはできない。拒否すれば差別になり、国は裁判で負けるからだ。自衛隊員が次々と国家を訴えていく姿は、安全保障の不安定化を招くだろう。

親密圏における性自認は尊重されて然るべきだが、自己申告での性別変更を社会のルールとしてデフォルト化することには慎重な議論を要する。

ポイント③ だから女性たちは高市氏を応援している

今年6月、ロサンゼルスの韓国スパに男性器を半勃起させた自称トランス女性が出現し、ミストルームで6歳の少女と遭遇した。一緒にいた女性客は店側に抗議したが対応してもらえなかった。なぜならカリフォルニア州法では性別、宗教、人種などによる差別を禁止しており、女性専用スペースへの入場は合法だったからだ。逆に訴えた女性客が差別主義者だとみなされ、LGBT活動家から激しいバッシングを受けた。ところが今月、事件の犯人が警察に逮捕された。自称トランス女性なる人物は連続性犯罪者だったのだ。

東京大学名誉教授でフェミニストの上野千鶴子氏はツイッターで高市議員を評し、「危ない!このひとは日本を壊す!」と述べたが、市井の女性たちは立憲民主党のLGBT平等法のほうが日本を壊すと感じている。 LGBT平等法が施行されれば、このような犯罪を防ぐことはできないからだ。ある人は「LGBT平等法はド直球の女性差別法です」と怒りを表明した。だからそれに反対してくれる高市氏に投票するのだ、と。内閣府が令和2年に行った「男女間における暴力に関する調査」によると、無理矢理に性交等される被害に遭った女性は約14人に1人にのぼる。外交防衛の安全保障、経済安全保障、食糧安全保障と並んで、高市議員には性の安全保障を政策に入れて欲しいというのが彼女たちの願いなのだ。

ポイント④ ゲイの多くも高市氏を応援している

筆者は毎年靖国神社に参拝している。その理由は靖国神社には散華したLGBTの英霊もたくさん眠っているからだ。民俗学者の折口信夫は同性愛者だったが、養子であり恋愛パートナーだった藤井春洋を硫黄島の戦闘で亡くしている。戦後折口は春洋を偲んだ詩を書き、それに「海ゆかば」の作曲家である信時潔が曲をつけた。今でも例大祭で歌われている。

しかしながら、立憲民主党に所属する二人の当事者議員は、靖国神社にお参りしてはくれない。国策に殉じたLGBTに、LGBT議員が哀悼の誠を捧げなくてどうするのだろうか。先人に対する尊崇の念を忘れない高市議員と比べると、彼我の違いに愕然とする。

LGBT平等法を錦の御旗にすれば当事者や女性が支持してくれるだろうとの目算は大いなる勘違い。こうした社会の複雑性について書いた筆者の処女作が9月17日に発売されることになった。総選挙前にぜひご一読いただきたい。

LGBTの不都合な真実 活動家の言葉を100%妄信するマスコミ報道は公共的か」