ワクチン vs. 変異株 第2ラウンドの収束と今後

(モンテカルロシミュレーションで検証 連載37)

コロナ感染の今後を見通すには、最低限、既存の現象を正確に把握する必要があります。専門家が、これまで5波を体験したにもかかわらず、「陽性者数が下がる原因が分からない」と自分たちの仮説に合わない現実を認めないのであれば、そのような認識を前提に行われてきたこれまでの施策は厳しく検証されなければなりません。

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本稿は今年6月以降のワクチン vs. 変異株の本連載シミュレーションのまとめと年末にかけての予測です。

1.ワクチンvs. 変異株 第1ラウンド

図1は、今年1月から10月末までの、日本を含む11カ国の新規陽性者の推移の計算値です。3月8日で規格化し(3月8日の陽性者数を同じになるように左下の係数を掛けています)対数表示です。データとの比較は図2を見てください。9月14日以降は予測となります。

3月8日段階で、ワクチン接種率は英国とイスラエルが先行し、英国33%、イスラエル57%です(1回接種)。両国の陽性者は、これ以後、それぞれ、5月中旬、6月中旬まで一気に下降しました。ワクチンの効果だと考えられます。

この2カ国以外の国々では、3月8日を境に同期した様に陽性者が上昇を始めます。もちろん、それまでも、多くの国の「波」はある程度同期して現れるわけですが、この3月8日の同期の仕方はかなり強く、感染力の強い変異株(アルファ株等)の出現を示唆するものでした。と同時に、各国ともワクチン接種が急速に進みました。

図1には、この上昇のピークアウトの日を▼で、またその時のワクチン接種率(1回接種)を図右に紫の数字でしてあります。それほど明確ではありませんが、この波では、接種率が10%位になると、効果がピークアウトとして現れるのではないかと期待させました。日本はワクチン接種が遅れたため、ピークアウトは最後でした。ここまでがワクチンvs. 変異株の第1ラウンドです。

2.ワクチンvs. 変異株 第2ラウンド

図1で6月25日を境に、第1ラウンドで減少フェーズであった国々が再び一斉に上昇を始めました(英国5月中旬、イスラエルも6月15日に既に上昇を開始)。第1ラウンドに比べても同期のレベルが高く、上昇率も極めて高い波です。現在も続いている変異株(デルタ株)による感染拡大です。

図2に、図1からインドを省きモンゴルを加えた11カ国の第2ラウンドの計算値と陽性者データの比較を示します。

スペインは、初期に急激に上昇し、早めにピークアウトして、現在安定した下降フェーズを示しています。スペインは接種率が高く、現在2回接種率が75.5%です。

イスラエルは、第1ラウンドであれだけ減少したにも関わらず、6月15日から急激な上昇を続け、9月の初めにピークアウトしました。原因のひとつは、2回目までのワクチン接種からの日数が長いので抗体が減少し、効力が衰えたというものです。実際、イスラエルでは3回目のブースト接種が現在行われています。

英国は、7月中旬に一度ピークアウトしましたが、その後、英国政府の感染抑制措置の大幅な削減の方針、また、ワクチン接種率の頭打ち等があり、感染が再び上昇し、現在緩やかなピークを作っています。

その他の国々は、ピークアウトしたあとに横這いが続いたフランス、一直線に上昇し、やっとピークアウトが見えたドイツ、横這いから下降フェーズに入ったベルギー、最近ピークアウトした米国、スウェーデン、ドイツ、そして日本です。

陽性者推移は国ごとにだいぶ様相が異なりますが、全体として、ワクチンvs変異株の第2ラウンドも、ほぼ収束に向かっています。しかし、図1の現在のワクチンの接種率の違いだけから、図2の各国の振舞いの違いを説明するのは困難です。さて、第3ラウンドはどうなるでしょうか。

3.日本の現状

図3に、今年1月からの日本の推移を示します。図3左上が実効再生産数Rtのデータと計算値、図3左下が陽性者数、死亡者数のデータと計算値、重症者数のデータ等の線形表示です。図3右は、図3左下の対数表示です。

日本は、現在が第5波です。陽性者数は波ごとに大きくなってきて、特に今回の第5波のデルタ株による波は、ピークの陽性者数の増大は際立っています。デルタ株の感染力の強さを表しています。

一方、死亡者は、第3波、第4波が同等で、現在の第5波では、陽性者が4倍以上になったにもかかわらず、多少減少しています(図3右の青線)。ワクチンによる重症者、死亡者の抑制の効果と考えられます。

図3には、7日シフトした重症者のデータを水色の線で示していますが、第4波までの重症者数は、ほぼ60歳以上の陽性者数(予測は橙色の線、データは緑色の線)とほぼ一致していましたが、6月以降、60歳以上の陽性者数を上回ってきています。これも、高齢者ワクチンの先行接種により、高齢者の陽性者の割合が減少し、それに伴って重症者に占める高齢者の割合が抑制されたことに起因していると思われます。

この重症者数は、これまで、その約5%が死亡者数に対応していました。図では桃色の線で示していますが、今年の2~3月を除くと、ほぼ死亡者の変動と一致しています。ところが7月以降のデルタ株の上昇期から、大きく乖離してきました。この死亡者の抑制も、高齢者ワクチンの先行接種と同期しており、ワクチンの効果の大きな結果だと考えられます。

4.今後

今後の動向を予測するのにもうひとつ重要な現象は、図3を俯瞰的に見ると明らかなように、各波はある間隔で現れてきていることです。特に、第3、4、5波の間隔はほぼ等しく3~4か月です。

この事を考慮して、今後の第6波の陽性者、死亡者の推移を予測し、図3に現状の継続として示しています。陽性者の大きさは第5波より小さくしています。第6波は、感染拡大する前にワクチンの接種率が相当高くなっているはずなので、陽性者も抑えられるとしました。死亡率(死亡者数/陽性者数)は第5波と同じにしています。

この予測には、先行事例があります。図1でインドはデルタ株のピークが5月で、その後急速に収束し、現在まで4ヶ月経過しています。デルタ株が収束して4か月も経過した国はインドだけですから、デルタ株収束後を占うには重要な先行事例です。しかも、図1で分かるように、インドのデルタ株ピーク(水色)の形と、現在の日本のデルタ株ピーク(赤色)の形は良く似ています。そこで、インドの陽性者データを110日シフトして、日本の予測線の上にプロットして見ました(図4)。

両者は見事に重なりました。絶対値は異なりますが、半値幅はほぼ同じです。インドの現在の感染状況は横這いのように見えます。これは、昨年もそうでしたが、国土が広大なので、デルタ株の鋭いピーク以外は、小さい波が重なって緩やかなひとつのピークを形成しているものと考えられます。そこで図4では、計算で小さい波に分解して得られた各波を点線で示していますが、日本の第6波の位置を、インドを先行事例として、インドのデルタ株の次の第6種のピーク位置に設定しています。

5.結論

ワクチン vs. 変異株の第2ラウンドも収束に近づきつつあります。今後、図3で示した第6波のような新たな波の到来が世界的にも起こり、ワクチンvs. 変異株の第3ラウンド、また、その次の第4ラウンドになることでしょう。これまでいろいろなコロナ対策が行われてきましたが、ワクチン接種のように、その効果がデータではっきりと裏付けされた対抗策は他にはありません。とにかくワクチン接種率を上げ、次の波の重症者と死亡者を抑えるべきです。