「横浜市大への不当圧力」が、山中市長にとっても重大問題である理由

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私が請願者、3人の市会議員が紹介議員となって横浜市会に提出した「横浜市大への不当圧力問題」の件、9月24日の常任委員会(政策・総務・財務委員会)で審議されることとなった。同委員会の草間剛委員長も、ツイッターで、常任委員会での請願書審査の予定を明らかにするとともに、審査に先立って当事者が説明責任を果たすことへの期待を示されている。

請願書に添付した市大当局と市議らとの面談記録についても、横浜市が、市会議員に正式に開示し、市が作成した公式文書であることが明らかになったので、9月12日、請願書・添付資料全体をブログで公開した(【横浜市会議員らによる横浜市大への「不当圧力」問題の請願書・添付資料を公開】

「複数の市会議員による、横浜市が設置する公立大学トップへの不当要求」という、看過できない重大なコンプライアンス問題であり、二元代表制の一翼を担う市議会としての自浄作用の発揮が強く求められる。

それだけではない。そもそも、この問題は、市大の現職教授であった山中竹春氏の市長選出馬が報じられた時点で、理事長・学長名で発出された学内文書に反発した山中氏が、理事長らに訂正・謝罪を求めたことに端を発するものだ(請願書添付資料では「黒塗り」とされているが、その人物が山中氏であることは、私が、独自の情報に基づいて、8月5日のブログ記事【「小此木・山中候補落選運動」で “菅支配の完成”と“パワハラ市長”を阻止する!】で明らかにしている)。その経緯に関して、請願書に記載していること以外にも、独自に情報を得ている。常任委員会における請願書審査の前提事項にも関連するので、ここで明らかにしておきたい。

市大理事長・学長の「山中教授、市長選出馬」報道への対応

6月10日前後、横浜のマスコミ各社は、「山中教授、市長選出馬へ」の情報を得て、山中氏本人や大学側に取材をかけていた。理事長(学長)は、それを受けて、山中氏に出馬の意向があるのか否かを確認したが、山中氏は否定した。しかし、その後も、「山中教授出馬」に関する取材の動きは収まらなかったので、理事長(学長)は、再度、山中氏の意志を確認しようとしたが、山中氏は、電話に全く出なかった。

そのような状況にあった6月16日に、新聞、テレビ各社が「山中教授、市長選出馬」を一斉に報じた。このような報道が一斉に行われるのは、本人が出馬意志についてコメントをしたからと考えられる。一方で、学長補佐・データサイエンス研究科長の要職にある山中教授が市長選への出馬が突然報じられたことで、教職員は動揺し、市大内部の混乱が拡大しかねない状況であった。理事長(学長)は、山中氏の市長選挙への出馬、退職意思を確認しようと必死に連絡をとろうとしたが、理事長・学長からの電話に山中氏は全く出ないので、本人の意向を確認しようがない。

大学当局として、山中教授の市長選出馬や、退職について本人の意向を把握しているのか問われ、「わからない」というわけにもいかない。学内の動揺を抑えるために、教職員に向けての学内文書(6.16文書)を発出し、「ご本人と連絡がとれない状況が続いていますが、現在も連絡をとり続けており、意思確認に務めております。」と述べたのは、その時点における理事長・学長側の認識そのものであり、何ら事実と異なるものではない。

また、学長補佐・研究科長の職にある山中氏が仮に市長選に出馬するとしても、横浜市が設置する公立大学としては、選挙活動・政治活動に一切関わることはなく、「中立の立場を貫く」というのも、公立大学として極めて重要なことであり、その旨学内文書に付記するのも当然だ。

同学内文書の発出は、その時点での理事長・学長として当然の極めて正当な対応だったと言える。

山中氏側の反発と訂正・謝罪要求の不当性

ところが、山中氏は、市大の理事長・学長名義で、このような当然の学内文書が発出されたことに強く反発し、立憲民主党の花上喜代治、今野典人市会議員とともに、大学当局と面談し、6.16付け学内文書の「『連絡がつかない状況が続いている』との記載は事実に反する、林市長の意向を忖度し、対立候補の活動を妨害するもの」などと言って、理事長らに訂正・謝罪を要求した。

そして、何回も面談を重ねた上、最終的には、訂正・謝罪に加えて、「設置主体の林市長に配慮した内容」などの記載や、山中氏について「素晴らしい研究業績」などの山中氏への称賛を含む7月26日付け学内文書(7.26文書)を発出させた。

これについて、山中氏側の反論があるとすれば、「6.16文書発出の時点で、学内の特定の人物と連絡がとっていた事実があり、そのことを、理事長・学長が知らなかったとすれば学内問題なので、同文書の『連絡がつかない状況が続いている』との記載は事実に反する。だから訂正・謝罪を求めた」というような主張であろう。

しかし、これは、全くの「詭弁」に過ぎない。

山中氏は、市長選への出馬が報じられた時点で、現職の市大教授であり、学長補佐・研究科長という立場にもあった者である。公立大学法人横浜市立大学職員就業規則23条によれば、「退職を申し出て、理事長から承認された場合に、退職によって職員としての身分を失う」とされており、「理事長の承認」が退職の要件となっている。また、教員の場合は、退職する日の6か月前までに文書をもって理事長に申し出ることとされている(24条)。

その時点で出馬を本気で考えていたのであれば、自ら理事長・学長に連絡をとり、市長選への出馬の意志があり、市大教授の退職する意向であることを伝えるのが当然だ。自分と親しい学内者だけと連絡をとっていたとしても、理事長・学長からの電話に出なかった以上、実質的にみても「連絡がとれない状況」にあったことは否定できない。しかも、その学内文書が発出された16日の翌日の17日には、東京新聞(【横浜市長選、IR反対派の横浜市大・山中教授が出馬意向】)、18日には神奈川新聞の取材に応じて「立憲民主党などの野党勢力の推薦や支持を得られれば出馬する意向」を明らかにしている。理事長・学長が、連絡がとろうとしても電話がつながらずに焦っていたのと殆ど同じタイミングで、山中氏は、東京新聞の取材に答えて出馬の意志があるとコメントしていたのである。その山中氏が、学内文書の「連絡がつかない状況が続いている」と記載が事実に反するとして訂正・謝罪を求めること自体、正当化する余地はないように思える。

しかも、山中氏側は、理事長・学長名義の文書で「連絡がつかない状況が続いている」と記載したことを「事実に反する記載」だとした上、それが「設置主体である横浜市の林市長に対して配慮した内容」だとして、「コンプライアンス違反」(請願書添付資料3)などと非難している。しかし、林文子市長は最終的には市長選に出馬したが、6月16日当時は、高齢・多選などを理由に、自民党横浜市連が市長選では支援しない方針を明らかにして、他の候補を模索していた状況であり、横浜市役所内部でも林市長が市長選に出馬すると予想されていたわけではなかった。「林市長に忖度して事実に反する学内文書を発出して山中氏の選挙・政治活動を妨害しようとした」などというのは、全くの「言いがかり」である。

上記の経過については、横浜市会の常任委員会での審議で、或いは、その前提事実として確認されることになるであろう。