ブラジル・ボルソナロ大統領が「自主クーデター」を行う可能性が出てきた。
来年の大統領選挙は紙による投票をボルソナロ大統領は要求
今月7日、ブラジルでは独立199周年の記念日にジャイル・ボルソナロ大統領は全国主要都市で選挙システムの改革を認めない国民議会と最高裁を批判する抗議集会を開いた。ボルソナロ大統領が要求しているのは、これまでの電子投票ではなく、印刷された投票用紙による投票だ。
来年10月に予定されている大統領選挙で彼が要求している投票システムに変更しないのであれば選挙を無効にする可能性のあることを示唆している。
再選される可能性の薄いボルソナロ大統領
再選を目指して立候補する意向を固めているボルソナロ大統領にとって現状は厳しいものがある。というのも、ブラジルの現在の失業率は彼が大統領に就任してから2%余り上昇して14%を少し上回る状態にある。またコロナ禍による影響で経済は低迷を続けている。そのコロナ禍による死者数は既に58万人超。この死者数の多さはボルソナロ氏が経済を優先して、それを抑える対策を怠ったことによるものが大きいと見られている。
ボルソナロ氏の再選を有利に導く要因は何ひとつない。しかも、対立候補になると見られているルラ元大統領がアルタス(Altas)の世論調査では10ポイント差をつけて優位にある。その上、同世論調査でボルソナロ大統領の政権運営に63%の市民が反対を表明していることも判明している。(9月6日付「ラ・ポリティカ・オンライン」から引用)。
自主クーデターを行う可能性
今回の抗議集会での参加者数は当初の予測を大きく下回った。このように、ボルソナロ氏にとってすべてが不利な状況下にあることから、来年の大統領選挙が迫った頃に選挙を中止させて軍部と軍事警察を味方につけて「自主クーデター」を起こすのではないかということが巷で噂としてある。彼はパラシュート部隊の元大尉であったという経歴もあって軍部の内部事情には通じている。
これに対して、その可能性を否定しているのがパウロ・ソテロ氏だ。彼はブラジルのウイルソン・センター協会の分析家で、最近スペイン紙「ラ・ラソン」によるインタビューで答えている内容を以下に要約しておきたい。
ソテロ氏は「ボルソナロは軍部の中で、彼が望んでいるような権威はもっていない」と述べた。その理由として彼が挙げているのは、失業率などが上昇しており経済が低迷していることに市民と同様に軍人も不満を感じているということ。それを是正するには敢えてクーデターを起こす必要性を軍人は感じていない。しかも、今の軍人は以前と比較してかなり官僚化して現体制を崩すことに抵抗がある、ということなどを彼は挙げている。
更に、彼は「トランプは悪行の為の十分なタレントを持っている。一方のボルソナロはそれには限界がある」と述べ、懸念されるのは彼の支持者が最高裁を物理的に攻撃する可能性を挙げている。即ち、米国で起きたトランプ支持者が議事堂を襲撃したようなことが起きる可能性があるということを示唆したことになる。
また、これまでボルソナロ大統領を支援していた企業経営者も彼から次第に離れていることもソテロ氏は挙げている。
統治能力の欠けた精神病者と我々は対峙している、とルラ氏は指摘
ブラジルという国はもともと保守的な国で、ルラ氏そしてルセフ氏と左派の労働者党政権が続いたのは幾分か異例であった。労働者党による13年間続いた政権で汚職が目立ち、社会治安が乱れたことから右派政権への復帰が望まれるようになった。それがボルソナロ氏が広く支持者を広げた理由だった。しかも、選挙戦中に刃物で刺されるというアクシデントもあり同情票が彼に集まった。その上、彼は信仰心は強くおよそ200万人の福音派からの支持も集まった。それが大統領に選ばれた要因であった。
ところが、ボルソナロ氏の問題点としてルラ元大統領が指摘しているのは、「国の問題を解決することを市民に呼び掛ける代わりに、ボルソナロ氏がやっていることは共和国の権利や民主主義を守るのではなく市民同士の対立を煽ていることだ」と語っている。(同上紙から引用)。更に、ルラ氏はある会見の場で「我々は普通の人間と立ち向かっているのではない。国を統治するのに最低限の能力さえ欠けている精神病者と我々は対峙しているのだ」と語って、ボルソナロ氏が再選されることの危険性を指摘したこともある。
米国で議事堂がトランプ前大統領の支持者によって襲撃されたように、ボルソナロ氏が彼の支持者に同じような行動を取ることを煽って最高裁を襲撃させるような事態になると、彼は弾劾裁判にかけられて職務を解任させる意向を野党は固めている。
一方、来年の大統領選挙でルラ氏が勝利するとブラジルも他のラテンアメリカの主要国が左派政権に移行したのと同じ道を歩むことになるであろう。