ミサイル2発の北朝鮮は一体、何がしたいのか?

北朝鮮が変則軌道型の弾道ミサイルを2発、連続で発射、日本の排他的経済水域内(EEZ)に落下しました。今回のニュース、日本の報道はずいぶん淡泊でした。一つには落下位置が当初EEZ外と発表していて、その後変則軌道型で予想が違っていたと修正したことで話題性が分散したこと、もう一つは国内事象(総裁選や宮家問題)でニュースの目線が奪われていたことがあるでしょう。

ただ、不思議なことに株式市場では北朝鮮のロケットが打ち上げられると瞬間的に反応する防衛関連の銘柄もスルーでした。ということは日本は北朝鮮のミサイル発射に「慣れてしまった」のかもしれません。一部の保守派の論客はこんなことでよいのか、と嚙みついていましたが、人間の性というのはオオカミ少年の話と似ていて、刺激性がなくなると耳を傾けなくなるものなのです。

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今回のミサイル劇はやや気になる点があります。一つは打ち上げたタイミングの際、中国の王毅外相が韓国訪問中でちょうど韓国外相と昼食の時だったのです。この話、2017年にトランプ大統領(当時)が習近平氏と晩餐会をしてデザートのケーキを食しているとき、トランプ氏が「国家主席、あなたに伝えたいことがある」と、シリアに59発のミサイルを撃ち込んだと述べ、習氏が固まったという逸話を覚えていらっしゃる方もいるでしょう。この話は古い言葉でいえばアメリカのパワーミール(戦略的会食)でありました。

ただ、今回は昼食を共にしている二人にとって寝耳に水だったことが大きく、ましてや本来、北朝鮮の味方になる王毅外相すら困らせました。

次いで韓国はそのミサイル発射の数時間後に予定されていたSLBM(潜水艦発射ミサイル)を決行、文大統領もそれを参観しています。それを受けて北朝鮮の金与正労働党副部長が文大統領を名指しで非難、「南北関係は余地もなく完全破壊に突っ走るようになるであろう」と発言しています。

北朝鮮はミサイル開発の責任者であった李炳哲氏を降格させ、新たに実戦派の朴正天氏を任命、朴氏の指導力のもと、今回、初めての打ち上げとなっています。一部の見方では朴氏がその存在感と実力を見せるために引き続きミサイルを発射する可能性も指摘されています。

さて、この背景ですが、どうも腑に落ちないのは特段、明白な目的があるとは思えない北のロケット試射であります。北朝鮮が次々と「新型」の発射をするたびに日米韓は「なるほど、こういうカードもあるのだな」で対策に入ります。現状、仮に北朝鮮がどこを相手に戦争を吹っ掛けても最終的に勝てる見込みはゼロですが、相手国はそれによる自国の人的物的被害が怖いのです。現代の戦争の抑止力とは結局、自国民に被害が及ばないようにする、そのために戦力を増強し、相手以上の戦力と戦術カードをもち、ポーカーゲームを続けるわけです。馬鹿々々しい話ですが、これも人間の本性でありましょう。

今回の北朝鮮の挑発、私は韓国向けだったと思っています。対北朝鮮政策で完全に失敗した文大統領を更に窮地に追いやり、来年5月の韓国大統領選に向けて北朝鮮の存在感を示す意味合いでしょうか?もう一つはこのところ、世界の報道で北朝鮮への目線が減ってきていたこともあり、その存在感を示そうとした可能性はあります。

ところであの国、貿易もほとんど絞り込まれている中でどうやって2500万人の人が生計を立てているのか、特に軍人は全く生産性がない中で国家の体を保てるのはなぜなのか、不思議だと思います。噂されるアングラ経済、特に武器輸出やハッキングによる強奪、瀬取りといった全うではない形で外貨を得ているのでしょうか?

その場合、金家のみならず、北朝鮮国民全般に正しいことと間違っていることの分別がつかなくなっているわけで、教育、倫理という観点で「後退」すらしている公算が高いとみています。その点からも2500万人の国民が現代社会の規範に基づいた正しい価値観を持つよう変えない限り、隣国である韓国、中国にとっても心地よくないでしょう。

今の状態ならば10年後も同じような報道をしていることでしょう。誰かが踏み込まねばならない、そんな気がします。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年9月17日の記事より転載させていただきました。