2万6000軒もの銀行支店がスペインで閉鎖:職を失ったエリートたち

白石 和幸

2008年から数えると、スペインで閉鎖された銀行の支店数は2万6000にものぼっている。

銀行に勤務するということはエリートだった

1980年代にスペインで銀行に勤務するということはエリート社員であった。銀行は倒産することはないという確実性もあった。給料も他の職場と比較して決して高いとは言えないが、長期にかけて安定した職場だという魅力があった。その面では公務員のような印象を与えていた。

ところが、最近はそのイメージが完全に崩れ、銀行に勤務するということは永久に職場が保障されたわけではなくなっている。

スペインで銀行網が最も拡大したのは2001年から2008年頃にかけてであった。それは1995年頃から始まった住宅建設ブームが丁度ピークを迎えた時期であった。ところが、その2年後の2010年頃から景気は下火を迎えるようになるのであったが、ピーク時のスペインで建設される住宅戸数は英国、ドイツ、フランスで建設される戸数を合わせたものに相当すると言われていた。

10万人当たり96支店があった異常さ

2008年はスペインで最も銀行の支店数が多かった年で、その数は4万6221支店あったという。バブル景気の頂点に達した時で、スペインの大半の銀行がそれまでに顧客を増やすのに支店を増やして行った結果であった。例えば、当時は米国シティーバンクまでもがカスティーリャ・イ・レオン州の人口が僅か4万人のソリア市にまで支店を開設していたほどであった。

当時は10万人当たり96支店が開設されていたことになる。即ち、人口3000人の町だと3つの銀行がそれぞれ支店を開設していたことになる。筆者が在住している町は人口3800人。最盛期には支店が5つあった。バレンシア州の人口6万人の都市アルコイで69支店があったほどである。一つの銀行がそこで数支店を構えていた。

当時のスペインの10万人当たり96支店というのは異常な多さで、イタリアは52支店、ドイツは50支店であった。スペインのこの支店数の多さが目立ったのは各都市のどの中央広場にも銀行の支店が必ずあった。それとスペインがバルの国であるのを象徴してどの都市でも中央広場にはバル、飲食店、銀行支店が必ずあった。

これまで11万人が銀行での職場を失った

ところが、2010年頃からバブル景気が急激に下降する2年前の2008年以降から現在まで2万6000支店が閉鎖されたという。閉鎖されれた数が最も多かったのは2013年の4400支店であった。更に、今年2021年末までに3400支店が閉鎖される予定になっている。(経済紙「シンコ・ディアス」2021年5月7日付「エル・ディアリオ・エス」6月5日付から引用)。

この影響で2008年からこれまで銀行に勤務していた人の11万人余りが職場を失った。更に今年は銀行の合併などからメインバンク4行カイシャバンク、バンコ・サンタンデール、BBVA、バンク・サバデイルだけでも1万5000人余りの解雇が予定されている。

その中でも最大数の従業員削減が予定されているのがカイシャバンクである。同銀行はバンキア銀行を吸収合併したことによって6950人の削減が予定されている。当初8290人の解雇を経営者側が発表していたが、組合側がそれに反対して最終的に6950人の解雇予定となったもの。

カイシャ・バンクがバンキアを吸収するまでスペインで最大の銀行だったバンコ・サンタンデールは3570人の解雇が予定されている。BBVAは当初3800人が解雇の対象にされたが最終的に2935人となった。バンク・サバデイルは1800人が解雇の予定だ。

因みに、バンキアを吸収合併したカイシャバンクはスペインで最大資産銀行となったが、その資産規模は日本円にしておよそ86兆円。日本のりそなホールディングスの60兆円を上回る規模になる。りそなホールディングの上は90兆円規模の資産の銀行は日本にはなく、ゆうちょう銀行の210兆円になってしまうのでりそなホールディングスを比較の対象にした。

更に、ウニカッハ・バンコとリベル・バンクの合併で900人の解雇が予定されている。(「エコノミア・ディヒタル」7月27日付から引用)。

 スペインで解雇された元銀行勤務者数はEUで4位

他のEU加盟国と比較すると、例えば2020年度のスペインでの銀行員の解雇者数は4位に位置して2015人が解雇されたとある。同年で一番多かったのはポーランドの6980人であった。その次にイタリアの6550人、ギリシャの3630人となっている。(同上「エル・ディアリオ・エス」6月5日付から引用)。

ところが、銀行の支店の閉店が急激に増えたのは住宅建設ブームが急激に崩壊したことにある。その後、従来の銀行経営を苦しめているのがネット銀行の登場である。

従来の融資だと手続きに時間がかかるが、ネット銀行だと融資もスピーディに決まる。しかも取引は顧客とのネット上での取引となり、支店が存在しているわけではない。その為、デジタル銀行の維持費も一般の銀行と比較して割安になる。その分が融資の金利に反映される。デジタル銀行とであれば敢えて支店に赴いて融資などで面倒な手続きをする必要もない。

このネット銀行の存在が従来の銀行の顧客を奪っているのである。ということで従来の銀行はそれに対抗すべく支店数を削減し、従業員の数を減らして固定費を低くしてデジタル銀行がまだ及んでいない巨額の取引を低マージンで取引して利益が出せるような体制にするという方向に向かっている。

例えばBBVAでは将来的に人口3000人以下の町では支店を無くしてATM装置だけを設置することを計画しているという。他の銀行も同様のプランを計画しているようだ。そうなると、比較的故障し易いATM装置が故障すれば、そこから近くの支店のある町まで赴いて問題を解決せねばならなくなる。高齢者で運転ができない人には問題となるのは必至だ。