カタルーニャ「共和国」のハブ空港実現を夢見た独立派の挫折
今もカタルーニャを共和国にする夢を諦めない独立派は、カタルーニャ州を代表する空港「エル・プラッツ(El Prat)」を2030年にはカタルーニャ共和国の国際的なハブ空港にする構想を描いている。その為には空港の拡張が必要だ。その資金を仰ぐのに過半数の議席をもっていないスペイン中央政府に対し、下院で独立派の議席を貸して過半数にさせる代わりに、同空港の拡張工事の為の必要資金を出せと要求して来た。
兎に角、カタラン人は交渉と商いに長けている人たちだ。スペイン政府は17億ユーロ(2040億円)の拡張工事の為の資金をカタルーニャ州政府に提供することを決めた。(9月11日付「エル・コンフィデンシアル」から引用)
カタルーニャ州政府を構成する2政党カタルーニャ共和左派(ERC)とジュンツ・デ・カタルーニャ(JxCAT)はこのスペイン政府からの拡張工事費の資金提供に喜んだ。ところが、同じカタルーニャの独立を望む政党バルセロナ・エン・コム(Barcelona en Comú)と人民統一党CUPがこの拡張工事に反対を表明。理由は、計画されている拡張工事を実行するようになると、135ヘクタールを占める自然保護区域ラ・リカルドの一部が拡張工事で破壊されることになるからである。
計画されていた拡張工事では135ヘクタールの内の47ヘクタールを第3滑走路を500メートル延長するのに充てるということになっていた。その代りにエル・プラッツ空港の別の側に280ヘクタールの自然保護区域を設けるとした。
バルセロナ・エン・コムと人民統一党が拡張工事に反対していることを無視できないのは次のような理由がある。
前者のリーダーは社会活動家でバルセロナの市長のアダ・コラウ氏であるということ。スペイン政府が2つの政党社会労働党とウニーダス・ポデーモスの連立政権で構成されているが、バルセロナ・エン・コムはウニーダス・ポデーモスと連携しているということ。それが意味するものは中央政府内でウニーダス・ポデーモスの閣僚がこの拡張工事に反対しているということだ。それを証明するかのように、9月9日にはウニーダス・ポデーモスから出ている第3副首相で労働相のヨランダ・ディアス氏がアダ・コラウ市長とエル・プラッツの市長に同伴してもらって問題となっている自然保護区域を訪問して拡張工事反対を表明したのである。
現在のスペイン政府の驚く点は、政府内で社会労働党出身とウニーダス・ポデーモスの閣僚間で意見が180度異なり、それがメディアに筒抜けになることがが良くあることだ。今回の出来事はその良い例だ。閣僚の意見を一つにまとめることができないサンチェス首相の手腕の無さは常にメディアからの批判の対象になっている。
また同様に、カタルーニャ州政府も州議会で過半数の議席を得るには人民統一党の議席が議案を通過させるのに必要であるということ。この政党が拡張工事に反対している。
これら意味するものは、サンチェス首相とペレ・アラゴネス州知事の間で交わされた拡張工事は宙に浮いたことになる。
拡張工事を内陸に向けるとサッカー選手などの高級住宅地区に近くなる
カタルーニャ州政府は当初拡張工事を自然保護区域とは反対側の内陸の方に目を向けた。ところが、内陸の方に滑走路を伸ばすようにすると、ガバー・マルとカステルデフェルスの2つの地域の方に近づくことになり、そこは高級住宅地区でサッカー選手や企業家の住宅が多くあるところだ。社会的に優遇されている彼らが飛行機の離着陸の騒音に悩まされるようになるということはカタルーニャ政権では避けねばならないことだ。よって、内陸に延ばす計画は中止となった。
拡張工事が実現すれば8万3000人の雇用を生む
スペイン政府とカタルーニャ州政府は当初この拡張工事によって新たに8万3000人の雇用を生むことになると表明して、これまで独立問題で対立していた両政府が協力している姿勢を見せようとした。
しかし、この雇用者数についてメディアが航空会社に尋ねて明らかにしたのは、複数の航空会社がエル・プラッツ空港をベース基地にした場合にだけそれだけの雇用が見込めるということで、複数の航空会社のベース基地が誕生しない場合はそれだけ多くの雇用は生まれないとした。(8月3日付「ボスポプリ」から引用)。
拡張工事の実現を期待していたカタルーニャの企業家は今回の中止にかなり憤慨している。独立へのプロセスの影響でカタルーニャ経済は大きく後退している上に、バルセロナのアダ・コラウ市長の軸を失った経済発展プランの影響で色々な規制が設けられて成長を妨げられている。それに企業家は強い不満を表明している。そして今回の市長の拡張工事の反対でこれまでの不満が一挙に爆発したという感じだ。
バルセロナに世界のリーダー的ホテルが進出することを辞退したのも、彼女がホテルが秩序なく乱立することを避けたいとして規制を設けたからであった。そこでホテル経営者はその投資をすべてマドリードに向けた。
因みに、コロナ禍の前の2019年のエルプラッツ空港利用者は5270万人。一方のマドリードのバラハス空港は6170万人となっている。