降ってわいたTPPをめぐる大バトル

中国が環太平洋経済連携協定(CPTPP)に入れてほしいと申請しました。それから約1週間後に台湾が加入申請しました。(皆様にはわかりやすいようにTPPと表記しますが、正式にはCPTPPです。)

さて、菅総理はアメリカですが、その際、TPPの話題が出るかもしれません。アメリカに入ってほしいと再度のお願いです。

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オリジナルのTPP加盟国は11か国。加盟申請中は他に英国で、これに中国と台湾が加わります。私が見る限り、さほど遠くないうちに韓国も申請するはずです。加盟承認は加盟国すべての同意が必要ですが、それ以上に非常に細かい実務レベルでの検証が待ち構えています。中国はこの検証が通らないのではないか、とされています。

もう一つ、現時点では中国と台湾が仲良くTPPに加盟するというピクチャーは考えにくいのです。オリンピックへの参加といった文化スポーツ交流とは違い、国家の根幹にかかわることになりますので加盟11か国は「踏み絵」状態になっています。茂木外相は台湾の申請を歓迎するとコメントしました。カナダは中国、台湾の加盟申請に対して温度差はありますが、事務的なコメントに留まっています。

一方、一部のTPP加盟国は中国の申請をウェルカムしているとされます。ここは細心の注意をもって検討、発言しなくてはいけないでしょう。仮に台湾だけ加盟して中国を留保ないし、却下とすれば政治問題化は確実でそれにどう対処するか、そちらのシナリオも考えなくてはいけません。中国の申請は加盟そのものもありますが、TPP加盟国に忠誠度を試験しているのです。どちらを向くか、です。これは対応を誤ればTPPそのものが瓦解するリスクすらある点は考え合わせるべきでしょう。

私の懸念は菅総理はアメリカにTPP加盟を促すという点です。実は私はそのアプローチに対して慎重であるべきと考えます。理由は現在のTPP加盟国が比較的小ぶりな国でまとまっているのです。つまり、強大なパワーを持つ国家、アメリカ、中国、ロシア、インドがいないのです。それゆえに風通しが良いし、小ぶりな英国も比較的好意的に受け止められる公算が高いのです。

ところで当地バンクーバーに非公式に某大臣がバックにつく集まりがあります。日本、台湾、韓国、インドネシア…。その大臣が私に言ったことがあります。中国とインドとフィリピンは入れないと。理由はパワーが違うからです。(この場合のパワーとは移民の数を言います。)

ある集団に強大な国家が加盟するとその国が支配権を奪うのは世の常です。TPPが比較的機能しているのはアメリカがいないというメリットもあります。もちろん、総貿易量など指標的な比較をすれば大国がないことでマイナーな経済連携と思われる可能性はあります。しかし、実務的にどれだけ機能するのか、どれだけ加盟国間でストレスなく連携の機能を拡充させることができるのか、という点は大事なポイントではないでしょうか?

国連の運営を見たらわかるでしょう。安全保障理事会で拒否権を持つ国が一つでもNOといえばどんな素晴らしい案でもアウトです。その常任理事国とは米中英仏ロです。この5か国が重要議案でまとまることがあるのか、そもそも疑問でありそれゆえに国連はうわべだけになってしまったのです。

菅総理がアメリカを引き込みたい一つの理由は対中国の政治的理由だとみています。日本とアメリカは「日米貿易協定」があり、内容的にはTPPに準拠しているので日本だけを見れば貿易関税問題で特に困る事態にないはずです。

それでもラブコールをするのはTPPが政治の場と化してしまったからでしょう。仮に英国が認められ、そこにアメリカが入ればオーストラリア、ニュージーランド、カナダがすでに加盟しているのでファイブアイズのビジネス版が完成してしまうのです。とすれば中国は逆立ちしても加入できないけれど台湾の申請は認める展開になる、だが、日本がそれを主導すると中国からの圧力をもろにかぶるからアメリカに来てもらいたい、そういうことです。外交なんてこんなものでそれゆえに日本にしては珍しく茂木外相がずいぶん台湾熱烈歓迎をしたわけです。

ところでTPP発効国はいくつでしょうか?実は11か国ではありません。現時点で8か国にとどまっています。ブルネイ、マレーシア、チリが未発効なのです。しかもブルネイとチリはそもそもの発端であるP4の4か国のうちの2か国です。これが何を意味するのか、政治化するTPPが実務を劣後にさせつつある点において懸念を感じています。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年9月24日の記事より転載させていただきました。