困窮化したベネズエラから出国した人は600万人を超えた。
僅か20年で国家を破綻させた2人の大統領
僅か20年で豊かな国を崩壊させて経済・社会危機を招いたのがベネズエラのウーゴ・チャベス前大統領とニコラス・マドゥロ現大統領の2人だ。
ベネズエラという国は原油の埋蔵量では世界一を誇り、1970年代から1980年代には将来の経済発展に強い期待がもたれていた。その可能性に期待して、イタリアから30万人、ポルトガルから20万人がベネズエラに移民したという。また、隣国のコロンビア、ペルー、チリ、エクアドルからも仕事を求めて移民がベネズエラに入国したそうだ。
ところが、富裕者と低所得者の貧富の差が顕著になって来ると、低所得者層の不満が増大し暴動が起きるようになった。彼らに対し、軍は武力でもって弾圧し、社会は不安定な様相を呈するようになっていた。
その時、社会を是正し、貧困層に支援の手を差し伸べると言って登場したのがウーゴ・チャベス中佐であった。1992年に彼はクーデターを敢行するが失敗に終わった。逮捕されたが、その後釈放されてから社会主義革命を提唱して1999年に大統領選挙に立候補して当選。それ以後、司法を支配して2013年に彼が病死するまで彼の政権が続くのであった。
企業を国営化し民間企業の法外な利潤追求を否認
チャベス氏は低所得層や貧困層からの支持を基盤にボリバル社会主義革命を断行。また政治的には反米主義を掲げ、国家の基幹産業は国営化し、その経営には彼に忠実な軍人を充てた。また、企業家が法外な利益をあげるのは不当な行為であるとして、一定以上の利益を追求しようとする経営者を排斥。それが規模の大きな企業であればすぐに国営化した。このような独裁的な政治の影響で企業家は経営を放棄して廃業。それまでも国家経済は原油を基盤にした経済構造でしかなかった上に、企業家は経営を放棄したことによって国内で生産品は不足し始めた。国営化した企業も軍人の経営では生産性は下降するばかりだった。
原油価格が急落し始めると国家の財政は悪化。しかも、反米主義とボリバル革命への支持を近隣諸国にも募る意味で、原油を超低価格で提供していたが、それも財政難から控えねばならなくなった。特にその恩恵を受けていたのはキューバであった。その交換条件として、キューバからは医師や教師の派遣を要請した。
原油価格の下落から財政難に陥ると、それまで商品の不足を輸入に頼っていたのが外貨不足から必要なだけ輸入できなくなっていた。その影響で、国内では品不足が顕著になって行った。食料品や医薬品を始めあらゆる物資が不足するようになった。その結果が現在のベネズエラである。
マドゥロ大統領は長期政権の維持のために彼の政権を支持する住民には輸入した食料品を配給するようにした。また、民主政治を無視した政治に米国が制裁を課して原油の輸出を禁止。この輸入食料の輸入と配給や原油の密売を一挙に請け負ったのがマドゥロ氏の代理人アレックス・サーブ氏である。彼はこれによって暴利を貪った。しかし、その背後にいて私服を肥やしているのはマドゥロ氏自身だと憶測されている。なお、サーブ氏はアフリカのカボベルデで逮捕されて米国への送還が決まっている。
職場と食料を求めて600万人が国外へ脱出
国連管理下の「国連システム機関間地域調整プラットフォーム(R4V)」によると、これまでベネズエラから出国した人の数は602万4351人まで上ることが9月5日に明らかにされたことをスペイン紙「ABC」が9月9日付で報じた。
それはベネズエラの人口の20%が出国したことになると指摘し、その内の407万8078人がラテンアメリカ・カリブ諸国そして米国には46万5000人が移住したと報じている。
彼らを最も多く受け入れたのが国境を隔てたコロンビアだ。同国には200万人が移住し、その次にペルーの100万人。そしてチリとエクアドルがそれぞれ45万人となっている。
特に、コロンビアは彼らへの救済資金も年々負担が増加している。ベネズエラからの移民の子供の学校教育についても2018年の統計によると毎日5000人のベネズエラの子供が福祉サービスを受け、18万2000人のベネズエラの子供が学校教育を受けているという。しかし、この数も実際にコロンビアに移民して来た子供の半分にも満たない数だと見られている。というのも2018年末までの時点で既に32万7000人の子供がコロンビアに移民していることがUNICEF(国際児童基金)が明らかにしているからだ。(2019年7月10日付軍事関係電子紙「ディアロゴ」から引用)。
コロンビア政府は2015年8月以降にコロンビアで生まれた両親がベネズエラ人の子供24000人を対象にコロンビアの国籍を付与することも発表した。両親がコロンビアに移住した関係で子供の出生届けを在ベネズエラ大使館に出せない状態にあることから子供が無国籍になっている場合が多くあるからである。
更に、ブラジルには26万1000人、アルゼンチンには17万3000人、パナマとメキシコにはそれぞれ10万人が移住したという。
前述R4Vはベネズエラが現状のまま不安な状態が続くと、出国者は700万人に到達するようになると予告している。何しろ、GDPは昨年35%の後退しており、2014年からの累積は100%近くの後退をしていることになる。しかも、インフレは5500%。貧困層は人口の90%。(同上紙「ABC」から引用)。また、政治的にも政府と反政府派の対立が続いて国家の統一を妨げている。このような経済事情を抱えたベネズエラでは事態は悪化するばかりである。