麻生太郎先生のいう「よほどやばいやつ」は不要になった

かつて、麻生太郎先生は、学生時代を回想し、「怪しい商売は不動産と証券だった。昭和30年代、40年代に学生だった人は誰でも知っている」と語り、かつ、学生仲間で証券会社に就職したのは、「よほどやばいやつ」で、そこでの行為は、「ほぼ詐欺」だったと述べたことがある。

実は、この発言は、表現が乱暴なわりには、理に適っていて、急激な高度経済成長を遂げていた日本で、株価と地価も急激に上昇するなかで、証券業と不動産業には、投機色が強いものとして、「怪しい商売」の側面があったのである。

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証券業の対象には投資と投機があって、資本市場の機能が健全に機能するためには、市場の流動性が必要であり、そのためには、投機資金を呼び込むことは不可欠なのだから、その側面を否定的にとらえるのは不当である。

麻生先生の発言には、投機の重要性を指摘したものとして、稀少かつ貴重な意味がある。投機資金の呼び込みのためには、「よほどやばいやつ」が適役だったろうし、投機に妙味を感じる顧客との間に適合性があれば、「ほぼ詐欺」にみえる営業話法も、詐欺でない限り、あり得たのである。

そもそも、投機は射倖心に基づく行為だから、投機の勧誘は、射倖心を煽るものとして、投機に関心をもたない傍観者からすれば、「ほぼ詐欺」としかみえないのは当然だが、勧誘を受ける顧客は投機が好きなのだから、勧誘における騙された振りも、投機の喜びの重要な一部を形成していたと思われるのである。

現在でも、投機は資本市場機能のために必要であるが、証券会社の勧誘による取引ではなく、インターネット上の証券会社を通じた自律的な判断に基づく取引に移行しているとみられ、もはや、「よほどやばいやつ」も、「ほぼ詐欺」も、必要ないのである。

森本 紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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