独CDU/CSUから「C」が抜ける日

26日に実施されたドイツ連邦議会選挙(下院)の投票結果によれば、オーラフ・ショルツ財務相(副首相兼任)を次期首相候補に擁立した社会民主党(SPD)がメルケル首相の「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)を僅差ながら破り、第1党の地位を獲得した。ただし、SPD主導の新政権が誕生するまでにはまだ長い道のりが控えている。実際、第2党に後退したCDUのアルミン・ラシェット党首は27日、CDU幹部会で連立政権交渉を始めることを表明し、リベラル政党「自由民主党」(FDP)と連立政権の件で既に話し合っている。CDU筋によれば、その後、緑の党とも連立の件で会談を申し込むなど、SPDに先駆け、連立交渉を始めている。

政党の看板が揺れるCDUのラシェット党首(CDU公式サイトから)

SPDとCDU/CSUの両党は新政権をスタートするためには3党の連立政権以外に他の選択肢がないから、両党とも将来の連立パートナーの緑の党とFDPの2党へ熱い視線を投げかけている。独メディアは、政党のカラーから、SPD(赤)・緑の党・FDP(黄)の信号政権か、CDU/CSU(黒)・緑の党・FDP(黄)のジャマイカ連立政権の連立レースと報じている。もちろん、SPDとCDU/CSUの2大政党で安定政権に必要な過半数を占めることは出来るが、両党とも大連立政権の再現には消極的だ。メルケル首相の引退を受け、ポスト・メルケル時代のスタートとしては新鮮さに欠けると共に、国民も2大連立政権の継続を願っていないからだ。

リントナーFDP党首は27日、「党幹部会はSPDとCDU/CSUとの連立を前提に緑の党と話し合うことを決めたが、緑の党との間には政策的には大きな相違がある」と語り、3連立政権の発足が容易ではないことを示唆している。

ポスト・メルケル時代が信号連立政権となるか、ジャマイカ連立政権に落ち着くか、決着がつくまでまだ時間がかかる。SPDとCDU両党は、「遅くともクリスマス前までには新政権を発足させなければならない」と考えている。

新政権誕生まで時間があるので、先の連邦議会選での有権者の投票の流れを分析した情報を紹介する。興味深い点は、CDU/CSUは「キリスト教」という名を党名に冠しているが、キリスト教信者がCDU/CSUには投票せず、左派政党のSPDに投じる有権者が増えてきたことだ。キリスト教信者のCDU/CSU離れは、政党名に「C」(キリスト教)を付けるCDU/CSUにとって、政党としての土台が揺れてきたことを意味する。CDU/CSUは26日の連邦議会選の得票率は24.1%で過去最低の結果だったのだ。

以下、バチカンニュースが報じたカトリック教徒とプロテスタント信者の票の流れだ。同調査は26日の投票日、宗派別の投票状況を4万1373人の有権者を対象に聞いた結果である。

CDU/CSUに投票したカトリック教徒は約35%だった。前回投票(2017年)では44%だったから9%急減したことになる。一方、プロテスタントの場合、24%で、前回比で9%減だ(前回33%)。カトリック教徒もプロテスタントもCDU/CSUに投票した有権者は減少したわけだ。

逆に、カトリック教徒の23%がSPDに投票している。前回はその割合は18%だったから、5%増加した。プロテスタントの場合、30%で前回の24%より6%増加した。ショルツ財務相を次期首相候補に擁立したSPDはキリスト教信者の票を前回選挙より多く獲得したことになる。

ちなみ、カトリック教徒の票は緑の党に13%、FDPに11%、極右党「ドイツのための選択肢」(AfD)に8%、左翼党に3%、それぞれ流れている。プロテスタントの場合、緑の党15%、FDP11%、AfD9%、左翼党4%だ。無宗派の有権者の場合、15%がCDU/CSUに、23%がSPDに、緑の党18%、FDP12%、AfD14%、左翼党8%だった。

CDU/CSUの低迷はキリスト教、特に、ローマ・カトリック教会の衰退と同時進行している。例えば、ドイツの都市で4番目に人口の多いケルン市のカトリック教会大司教区が今、大揺れだ。信者たちの教会脱退が急増し、同大司教区の最高指導者ライナー・ヴェルキ大司教(枢機卿)の辞任要求が高まっている。

ドイツでは、レーゲンスブルクの「レーゲンスブルク大聖堂少年聖歌隊」(Domspatzen)内で起きた性的暴行・虐待事件はドイツ国民に大きな衝撃を与えたことはまだ記憶に新しい。世界最古の少年合唱団として有名な同聖歌隊内で1953年から1992年の間、性的暴力、虐待事件が発生し、その総数は422件に及んだのだ。聖職者の未成年者への性的虐待事件は教会離れを加速する一方、キリスト教を政治信条に掲げるCDU/CSUにも大きな影響を与え、CDU/CSU離れとなって表面化しているわけだ。CDU/CSUの政党の看板から「C」が抜ける日は案外近いかもしれない。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2021年9月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。