少し前の日経に「税務調査、相続税に包囲網 贈与財産で申告漏れ多く」とあります。そうなんです、税務署員にとってこの時期は「収穫の秋」で、税務調査を本格的にやる絶好機であります。ちょうど一般の人の税務申告が終わり、企業の3月末決算に伴う申告書のチェックも終わります。夏から年末までは税務署は署員全員で「頑張って1円でも多く勝ち取るぞ!」的な展開になるのです。多く勝ち取れば税務署長はうっしっしで、上司の評価も上がるというものです。
私の日本の法人は運悪く、6月決算で申告書を出す8月は先方が手ぐすねを引いて待ち構えているときに当たります。なので税務調査には引っかかりやすいのかもしれません。昨年は輸出部門の消費税の還付を長く留保されました。何か出てくる会社と出てこない会社は経験則でわかるものです。私も確かにゼネコンにいた時「税務対策」を必死に研究し、資金の回遊などを組み上げてきたのですが、今はもう素直になりました。税の網は非常に細かくできているし、私のように国際間にまたがる場合でも世界の税務当局がつながっている時代となり、ずるは全くできないのです。
日本の個人所得税の捕捉システムは遅れています。例えばカナダは個人の所得税申告は全員確定申告をしますが、税務当局とつながっているその納税ソフトの進化ぶりには唖然とするものがあります。指定ソフトに自分の番号(マイナンバーのようなもの)を入力し、税務当局とのリンクにOKするだけで8割型の取引は自動入力されます。なぜなら企業や金融機関、証券会社が払った給与、利息、配当金、源泉徴収額などのデータが自動的に吸い上げられて個人の所得に反映されるからです。とすれば日本でも全ての人が確定申告をする時代が来たとしても技術的には可能になったともいえるのです。
日本の税務当局は人力作戦で税逃れを追いかけていますがこれではコンピューターと手計算ぐらいの差があり、税務署員に「取り立て頑張ろう」「おー!」ではなくて絶対に税逃れできない仕組みをさっさと作り上げればよいだけの話なのです。
さて、税務当局が躍起になる一つが相続税です。なぜ、相続税かといえば税の体系からすると元気な時に取りっぱぐれても最後、死ぬときは一網打尽という発想があるからです。よって生前、その人がどこでどれだけ稼ぎ、どんな蓄財をしたか、まさか墓場に札束を持っていくことはできないので誰にその資産が流れるのか、この解明ゲームは化かし合いごっこともいえるのでしょう。
現金は足がつかないとされます。そりゃ50万、100万円ぐらいならどうにでもなります。しかし、ウン千万円となればまさか裏庭に埋めておくわけにもいかないのです。(戦中、空襲があった時は自宅に穴を掘ってそこに燃えないように埋めた歴史もあります。古い家を解体するとその穴のあとがあることもあるのです。)ましてや相続者がそれを何気で銀行に入金した暁にはすぐバレます。
日経には申告漏れの2位に不動産で14.3%とあります。ある意味、へぇですね。何のための登記制度なのでしょうか?ある意味、あれほど税を捕捉しやすい仕組みはないはずなのです。だけど税務当局はそれを一工夫して展開しなかったのです。(縦割り行政の結果なのかもしれませんが、それを改正する機会はあったはずです。)
私は税務当局が血眼になって相続税の申告漏れを探すのは悪代官のようなもので現代社会にもマッチしないので方向転換すべきだと思うのです。まず、複雑なルールは人間が計算するのではなく、だれでもアクセスできるシステムがはじき出すような仕組みを作ること、相続の手続きを簡素化すること、それによって相続手続きが面倒くさいというイメージを取り除くこと、これが重要だと思います。
これを言うと税理士、会計士の仕事がなくなるといわれそうですが、そもそも会計士の業務は個人や企業と当局をつなぐ橋渡し係なのです。それが近年のIT化でたやすくでき、会計士不要時代がやってきていることは確かなのです。
百科事典ほどもある税務要綱を引っ張り出し、〇条〇項にこう書いていある、いや、こちらにはこうあるぞ、という議論をすること自体が今や不毛なのです。税務署員を減らせるように、あるいはほかの業務につけるように対策を打つべし、それが政府がやるべき改革です。
相続税漏れを徴収するぞ、はもういい加減に機械にやらせて人間がやるのを止めにしませんか?
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年9月29日の記事より転載させていただきました。