8月に殺害された人の数は53人と減少。2015年には一日に57人が殺害されていたという犯罪横行の国エルサルバドルでなにが起こったのか。
8月に殺害された人は53人
ブケレ大統領の政権下でビットコインを世界初の法定通貨にしたことで話題になった中米のエルサルバドルは犯罪が横行している国家としてトップレベルにある。
今年8月に殺害された人の数は53人ということで同国で話題になった。話題になったのも、その数がいつもと比べ少なかったということからであった。
例えば、2015年だと僅か一日で57人が殺害されていたというのである。同年5月には918人が殺害された。ブケレ大統領以前の政権下では一日に15人が殺害されるいうのは「普通だ」とされていた。(9月4日付「ディアリオス・アメリカス」から引用)。
国を支配する3つの犯罪組織
ブケレ氏が2019年の大統領選に立候補した時から選挙で公約として犯罪の厳しい取り締まりを約束していた。そして彼が大統領になってから実際に殺害件数並びに恐喝や誘拐などの犯罪が減少しているのである。なぜ? その減少させた理由というのは、政府の高官がこの3つの犯罪組織と裏交渉して犯罪を控えるようにすれば、その代わりに彼らが要求している条件を満たすようにすると約束したからであった。その全貌がデジタル紙「エル・ファロ」によって明らかにされたのである。
同紙で解明されたことを基に数紙がそれに追随してブケレ大統領政権と犯罪組織との間で昨年密かに交渉が進められていたことが広く明らかにされたのである。
彼らの要求には19項目あったという。その一部を以下に箇条書きにする。
- 刑務所に収監させられている彼らの幹部が外にいる幹部と頻繁に携帯で交信できるように便宜を図る。
- 彼らへの取り締まりを緩和化させるということや職場を世話する。刑務所内での生活を向上させる。(8月24日付「インサイト・クライム」から引用)。
- 犯罪組織MS13 の場合、彼らのリーダーでテロリストだとして米国が送還を要請しているアルマンド・メルガル・ディアス(通称ブルー)他数名の米国への送還を政府に阻止させる。
- 刑務所の一つの独房に異なった犯罪組織員をこれまで一緒に収監していたのこれからはひとつの犯罪組織にひとつの独房を割り当てる。ライバル同士での情報漏れを防止するためであった。
- 刑の軽減。
(8月24日付「インサイト・クライム」から引用)。
これらの内容が明らかになったのは検察によって通話を盗聴や秘密裡に交渉の会話が録音されていたことなどによる。犯罪組織との交渉を容易にしたのは全ての刑務所を管轄下においているオシリス・ルナ署長だとしている。
エルサルバドルには大きく分けて3つの犯罪組織がある。「マラ・サルバトゥルチャ(MS13)」、「バリオ18(B18)レボルシオナリオス」と「バリオ18(B18)スレーニョス」の3つである。この犯罪組織を構成しているのは若者で、彼らの顔や身体に入れ墨をしているのが特徴だ。それが彼らのシンボルとなっている。
人口750万人のエルサルバドルで彼らの勢力はおよそ10万人であるが、彼らに協力している者がおよそ100万人いると推測されている。彼らがなぜ容易に殺害に走るのかというと、彼らの幹部が幼少の頃に国は内戦下にあり、戦闘員が捕虜を拷問にかけたり殺害していたのを彼らは幼少の目で目撃していた。その光景が強く彼らの脳裏に焼き付いており彼らと同じような犯罪を憎い相手に犯しているということなのである。
独裁者であっても国民から70%の支持を集めている
そこでブケレ大統領は犯罪組織の取り締まりに必要な予算を議会で承認させるのに議事室を警察と軍隊とで包囲させて議員に圧力をかけて予算を議会で承認させるという芸当を2020年2月にやってのけている。
エルサルバドルには司法に独立性がなくブケレ大統領の支配下にある。また人道面でも差別があるとして米国やラテンアメリカでも右派系が政権を持っている国では彼を批判している。ところが、ギャラップの世論調査では70%の市民が彼を支持しているという結果が出ている。
米国がブケレ大統領への批判を強めているのも、彼が大統領に選出された当初は米国寄りで、早速トランプ前大統領を訪問した。ところがその後、次第に中国寄りに傾きメディアに圧力を加えたたりして独裁化を強めている。これに米国は批判の目を向けているのである。