ポルトガルはワクチン接種率84%

オーストリア国営放送の夜のニュース番組を聴いていてビックリした。南欧のポルトガルの2回ワクチン接種率がなんと約84%というのだ。アナウンサーは、「わが国はまだ60・4%に過ぎない」と嘆いていた。それにしても「約84%」ということは、ウイルス学者が良く言ってきた「集団免疫」が実現している状況だ。北欧デンマークが先月10日、80%以上のワクチン接種率を達成したことを受け、コロナ規制を全て解除したことは知っていたが、ポルトガルがデンマーク以上の「84%」というから驚きだ。ちなみに、ポルトガルは1日現在、1回接種率87%、2回接種完了84.4%だ。

ポルトガルの観光地、アングラ・ド・エロイズモの港風景(ポルトガル政府観光局公式サイトから)

ポルトガル政府は10月1日、8月20日に宣言された「緊急状態」から「警戒状態」に引き下げ、段階的緩和措置を今月末まで実施する予定だ。同国の累計感染者数は9月30日現在、約107万人、回復者約102万人、死亡者数1万7975人。新規感染者の平均数は現在1日629人で、ピーク時(1月28日)の5%に過ぎず、減少傾向が続いている。

10月1日から実施された段階的緩和措置について、①バー及びクラブの解禁、②レストランの入場制限の撤廃、③レストラン入店時のワクチン接種証明または陰性証明書提示義務の終了、④商業施設等の営業時間制限の撤廃、⑤結婚式・洗礼式、商業施設並びに文化イベントにおける座席数の制限撤廃。

一方、①航空機または船舶による旅行時のワクチン接種証明または陰性証明書の提示、②介護施設や医療機関訪問時のワクチン接種証明または陰性証明書の提示、③大規模な文化、スポーツ、団体イベント参加時のワクチン接種証明または陰性証明書の提示、④バー及びクラブへの入店時のワクチン接種証明または陰性証明書の提示(新規)、⑤公共交通機関、高齢者施設、病院、娯楽・イベント会場等におけるマスクの着用義務、⑥航空機を含む公共輸送機関を利用する場合のマスクの着用、等の義務は継続される(在ポルトガル日本大使館サイト)。

ところで、中欧のオーストリアのワクチン接種率はポルトガルのそれと約20%の開きがある。かなり大きな差だ。オーストリアでワクチン接種率が低い理由については、さまざまな理由が挙げられてきた。興味深い点は、ドイツでもワクチン接種率は欧州連合(EU)の中では低い。ドイツは1日現在、2回接種率は64・6%だ。

ドイツとオーストリア両国の場合、上から強く言われるワクチン接種に生理的に警戒する国民が結構多い。ナチス政権時代の遺産とはいわないが、ナチス当時、さまざまな医学的実験が繰り返され、少数民族系やユダヤ人が実験対象となった。その苦い思いが国民の潜在的記憶に定着しているのかもしれない。とにかくワクチン接種を製薬会社の医学的実験と受け取り、警戒心を解かない人がいることは事実だ。ただし、その数は多くはないが、ワクチン接種反対を声高く叫ぶため、影響は大きい(「ワクチン接種を拒否する様々な理由」2021年9月14日参考)。

それではポルトガルのワクチン接種率がなぜ高いのか。そこでポルトガルのファテマに住んでいる知人にメールを送り、理由について聞いてみた。数時間後、返答メールが届いた。曰く、「ポルトガル国民は従順な国民性であり、長い列をつくっても、忍耐強く待つ国民だ。また、海軍将校で現在コロナ対策タスクフォースを担当するエンリケ・エドゥアルド・パッサラクア・デ・グヴェイア・エ・メロ氏の人望が厚く、国民に信頼されている。同将校がいうのならば、ワクチンを接種しようとする国民が多い」という。知人は最後に、「ポルトガル人は他のラテン系国民とは違い、上からの指令に対して批判するのではなく、従順に従うことに慣れている」と繰り返し、ワクチン接種率の高さの理由はポルトガルの国民性にあると指摘した。

ちなみに、デンマーク人やスウェーデン人は科学的に説明されたことに対しては信じる傾向が強く、ワクチン接種の有効性が理解できれば、ワクチン接種を拒むことは少ないといわれてきた。ポルトガルの場合、ワクチンの科学的有効性というより、指導者への信頼がある場合、その指令に従順に従うというわけだ。ワクチン接種でも北欧と南欧でその動機や理由が違うわけだ。

当方は1990年代、ポルトガルの首都リスボンから北約130キロほど行ったところにある小さな村ファティマを取材のため訪れたことがあった。その時、知人と初めて知り合った。それ以降、ポルトガルといえばファティマ取材の時を思い出す。

蛇足だが、聖母マリアは1917年5月13日、ファティマの3人の羊飼いの子供たちに現れ、3つの予言をした。特に「第3の予言」については世界の終末を指しているとしてさまざまな憶測が流れた。フランスの「ルルドの泉」と共にカトリック信者たちの巡礼地となっている。聖母マリアがファティマに現れたのはポルトガル国民の従順さを知っていたからだろうか。

知人は言わなかったが、ポルトガルではコロナ感染初期には多くの国民が亡くなった。その悲しみを繰返したくないという思いが、国民をワクチン接種に走らせたのではないか。

欧州ではワクチン接種率が高い、低いと言って一喜一憂するが、アフリカではワクチン接種率が10%以下のところが多い。オーストリアのジャーナリストが、「政府はワクチン接種を拒否する国民への対応で頭を痛めているが、それは贅沢な問題だよ」と呟いていた。アフリカでは1回目のワクチン接種を受けるために多くの人々が待っているからだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2021年10月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。