岸田政権:選挙大勝利や大改革より着実な前進

NHKより

野党からは選挙での大敗を心配したが、あまりにも地味で、安倍・麻生・甘利の3Aの意向を汲み、党幹部にはすねに傷を持つ古い政治家が並んだ。

もし、選挙に勝ちたいだけなら、かつて安倍晋三が総裁に復帰したときのように、ライバルだった河野太郎を幹事長にし、今回の総裁選挙で人気が急上昇した高市早苗を官房長官にでもすれば、少なくともさしあたっての総選挙では大勝利間違いなかった。

あるいは、安倍前首相が提案したと言われるように、高市幹事長、萩生田官房長官でも力強さで圧し切ることができたかもしれない。

しかし、河野太郎をいかにも報復人事チックな広報本部長とし、高市早苗はすでに経験済みの政調会長とする一方、政治資金問題で閣僚辞任に追い込まれた甘利明を幹事長とし、人柄の良さには定評があるが無名の松野博一を官房長官、そして、やはり政治資金問題で大臣を辞めた小渕優子を党役員に起用し、蔵相を九年務めた麻生太郎を副総裁、その後任には麻生の義弟の鈴木俊一で、目玉は若手のリーダーとはいえ、祖父と父が総理を務めた典型的な世襲議員である福田達夫だ。

野田聖子を少子化担当相にしたのは、総裁選挙で好評だったテーマだけに適任だが、夫の反社団体所属の過去が議論されているにもかかわらず閣僚にするのは勇気がある。また、公明党から河井克行の選挙区で立候補して結果が注目されている斎藤鉄夫元環境相を国土交通相に起用したのもいろいろ議論のたねになるだろう。

その一方で、仕事内容についての、適材適所という観点からいえば、誰しも文句はいいにくい、非常に安定性の高い布陣である。

つまり、私は岸田新総裁は、選挙でびっくりするような大勝はしなくていいと思っているのでないか。選挙はほどほどの勝利でいいから、仕事をきちんとして評価されたいということだろう。

改革をしないはずはないが、小泉純一郎や安倍晋三のように派手なスローガンを掲げて大改革をしたいということでなさそうだ。

ただ、私は厚労相に田村憲久現代人に続いて、厚労族の代表である後藤茂之元法務副大臣をもってきたのは、政策の継続性を確保するには満点だが、大改革するのはよく医療界の内情が分かりすぎてないかと心配だ。

ワクチン担当相になる堀内詔子環境副大臣は、大久保利通の子孫、堀内光雄元通産相を義父とし、本人は秋篠宮殿下と学習院幼稚園以来のご学友で皇太子妃候補になったし、長男は佳子様のお婿さん候補として一時話題になった。ただし、富士急グループは公有地の賃料をめぐって山梨県と抗争中。有能であることに異議はないが、河野太郎のあの迫力はない。

若手起用では、9月に設置されたデジタル庁のデジタル相に牧島かれん元内閣府政務官(44)、新設する経済安保相に小林鷹之元防衛政務官(46)、経済再生相に山際大志郎元経産副大臣(53)あたり実力派が並ぶが、デジタル庁はITオタクともいえる平井前大臣のかわりができるのだろうか。

総務相に金子恭之元国交副大臣(60)、経産相に萩生田光一文部科学相(58)、農水相に金子原二郎元参院予算委員長(77)、文科相に末松信介元国交副大臣(65)、法相に古川禎久元財務副大臣(56)、環境相に山口壮元外務副大臣(67)、復興相に西銘恒三郎元経産副大臣(67)、国家公安委員長に二之湯智元総務副大臣(77)、万博相に若宮健嗣元防衛副大臣(60)なども適任だが、二之湯、金子両氏は来年の参議院選挙で引退が予想されており、そういう意味では餞別チックな指名だ。

外相と防衛相は、茂木敏充と岸信夫という評判のいい現職の留任で誰しも文句ないだろう。松野官房長官は地味な印象はあるが、人柄と調整能力には定評があり、野党の松下政経塾出身者からすらとても評判がいいのに驚いた。